衛生

「国民皆歯科健診」は全員を歯医者で診る制度ではない? 国が進める“攻めの予防医療”の中身

国民皆歯科健診とは? 歯科医院での健診と、唾液検査・質問票を用いる簡易健診のイメージ

「国民皆歯科健診」という言葉を聞いて、

「これから全国民が毎年、歯医者に行って健診を受けるの?」

と思った方もいるかもしれません。

「国民皆」という名前からは、すべての人が毎年、歯科医院の診療台に座って歯科医師に診てもらう制度を想像しやすいでしょう。

しかし、現在政府が進めている構想は少し違います。

厚生労働省が掲げているのは、

「希望する国民が毎年、歯科健診を受けられる」環境をつくること。

そして、その方法として検討されているのは、歯科医師が口の中を診る従来型の健診だけではありません。

唾液検査などを利用して口腔のリスクを調べ、必要な人を歯科医院につなぐ「簡易歯科健診」も制度の一つとして検討されています。

政府はまずモデル事業(パイロット事業)を実施し、段階的に制度化へ向けた取り組みを進める方針を示しています。

では、この「簡易歯科健診」とは何なのでしょうか。

この記事のポイント

  • 「国民皆歯科健診」は、全国民に毎年の歯科受診を義務づける制度ではありません。
  • 政府は「希望する国民が毎年、歯科健診を受けられる」環境の整備を進めています。
  • 歯科医師による従来の健診に加えて、唾液検査などを活用した「簡易歯科健診」が検討されています。
  • 簡易歯科健診は、歯科医師が口の中を診る健診の代わりではありません。
  • 現在想定されている唾液検査は主に歯周病のスクリーニングであり、むし歯などを診断することはできません。
  • 目的の一つは、普段歯科健診を受けていない人を見つけ、必要に応じて歯科医院への受診につなげることです。

「国民皆歯科健診」がいよいよ具体化してきた

2026年7月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」、いわゆる骨太方針2026では、「攻めの予防医療」の一環としていわゆる国民皆歯科健診の具体化が盛り込まれました。

さらに7月23日、厚生労働省は「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しました。

ここでは、

「栄養・食生活」

「がん・循環器病等」

「歯科保健」

「認知症」

「リハビリテーション」

「性差に由来するヘルスケア」

の6領域が重点領域として位置づけられています。

つまり歯科は、

「歯が悪くなったら治療する」

だけではなく、病気やリスクを早く見つけ、受診や予防行動につなげていく政策の一つとして位置づけられています。

全員が毎年「歯医者で健診」するわけではない

ここが「国民皆歯科健診」という名前から最も誤解されやすいところです。

厚生労働省が現在示しているのは、

全国民に毎年の歯科受診を義務づける制度ではありません。

2026年7月24日の厚生労働大臣会見では、

「希望する国民が毎年、歯科健診を受けられるよう」

環境を整備すると説明されています。

さらに、そのための方法として出てきたのが、

「簡易検査ツールを活用した方法」

です。

まずは試行的なパイロット事業からスタートし、将来的には自治体や医療保険者の現場で「簡易歯科健診」として位置づけ、本格的な制度化を目指して取り組む方針が示されています。

したがって、

「将来的に全国民が毎年、必ず歯科医院へ行かなければならなくなる」

という理解は正確ではありません。

現在は、歯科健診の機会をどうやってより多くの人に広げるか、その方法を具体化している段階です。

そもそも「簡易歯科健診」って何?

2026年7月31日、厚生労働省の「歯科健診等のあり方等に関する検討会」が中間とりまとめを公表しました。

ここで、「簡易歯科健診」の考え方がかなり具体的に示されています。

現在、口腔疾患のスクリーニングに想定されているものの一つが、唾液などに含まれるヘモグロビンを調べる検査です。

歯ぐきに炎症や出血があると、唾液中に血液由来のヘモグロビンが検出されることがあります。

これを利用して、

歯周病の疑いがある人を拾い上げる

というものです。

しかし、ここで重要なのは、

この検査だけで「歯周病です」と診断できるわけではない

ということです。

厚生労働省も、唾液中のヘモグロビンは歯周病だけに特異的なものではなく、歯周病があっても採取時の状態によって検出されない場合があるとしています。

さらに、この検査ではむし歯やその他の口腔疾患を診断することもできません。

唾液検査だけをするわけではない

そこで「簡易歯科健診」では、歯周病のスクリーニング検査だけでなく、質問票やチェックツールなどを組み合わせることが想定されています。

むし歯、かみ合わせ、口腔機能などに関連する自覚症状や口腔状態を確認し、その結果を踏まえて、必要な人には歯科医療機関への受診を勧めるところまでが簡易歯科健診として整理されています。

イメージとしては、

簡易的に口のリスクをチェック

問題がありそうな人を拾い上げる

歯科医院への受診を勧める

歯科医院で詳しく診てもらう

という流れです。

つまり、簡易歯科健診の目的は、

その場ですべての口の病気を診断することではありません。

むしろ、これまで歯科健診を受けていなかった人を、必要に応じて歯科医療につなげるための「入り口」と考えると分かりやすいでしょう。

簡易歯科健診は「歯医者の健診の代わり」ではない

ここは特に重要です。

厚生労働省の中間とりまとめには、

「簡易歯科健診」は、歯科医師が口腔診査を行う歯科健診を代替するものではない

と明記されています。

歯科医師が実際に口の中を診る歯科健診では、むし歯や歯周病だけではなく、口腔粘膜、口腔機能、顎関節、口腔衛生状態などを幅広く確認できます。

一方、簡易歯科健診は、その一部を簡便な方法でスクリーニングするものです。

厚生労働省も、実施できるのであれば、歯科医師が口腔診査を行う歯科健診を実施することが望ましいとしています。

したがって、

「唾液検査を受けたから、歯医者の健診には行かなくてもよい」

という制度ではありません。

なぜ「簡易」な健診が必要なの?

では、なぜ最初から全員を歯科医院で診ればいいのではなく、簡易健診という仕組みをつくるのでしょうか。

背景には、歯科健診を受けていない人がまだ多いという問題があります。

厚生労働省の中間とりまとめによると、2024年の歯科疾患実態調査で、過去1年間に歯科検診を受けた人は63.8%でした。

特に20~39歳などの現役世代では、その割合が低くなっています。

毎年歯科医院へ行く人もいる一方、

「痛くないから行かない」

「仕事が忙しくて時間がない」

という人もいます。

中間とりまとめでは、就労者を対象とした研究で、定期歯科検診を受けない理由として「時間がない」が半数以上だったことも紹介されています。

そこで、職場や自治体などでも比較的実施しやすい方法をつくり、

これまで歯科健診を受けていなかった人にも、まず口の状態をチェックする機会をつくる。

そして、必要な人を歯科医院につなげる。

これが「簡易歯科健診」の大きな狙いの一つです。

「検査を受けた人数」だけでは終わらない

もちろん、簡易歯科健診で、

「歯周病の疑いがあります」

と分かっても、それだけで歯周病が治るわけではありません。

必要であれば歯科医院を受診し、詳しい検査を受け、予防や治療につなげる必要があります。

だからこそ、国民皆歯科健診を考えるときには、

「何人が健診を受けたか」だけを見るのでは不十分です。

健診でリスクが見つかった人が、その後本当に歯科医院へ行ったのか。

必要な予防や治療につながったのか。

さらに、その後も継続的な口腔管理につながったのか。

そこまで含めて考える必要があります。

「健診の機会を増やすこと」と「口の健康が実際に改善すること」は、同じではありません。

健診を、実際の受診や予防につなげられるか。

そこが、これからの国民皆歯科健診を考えるうえで重要なポイントになります。

よくある質問

Q. 国民皆歯科健診が始まると、毎年歯医者に行くことが義務になるのですか?

現在示されている方針は、全国民に毎年の歯科受診を義務づけるものではありません。

厚生労働省は、「希望する国民が毎年、歯科健診を受けられる」環境を整備すると説明しています。

Q. 2027年度から全国で同じ制度が一斉に始まるのですか?

まずはパイロット事業を実施し、自治体・医療保険者の双方で簡易検査ツールを活用した方法を「簡易歯科健診」と位置づけ、制度化に向けて取り組む方針が示されています。

現時点では、全国民に同じ方法の健診が一斉に義務化されるという内容ではありません。

Q. 簡易歯科健診では、むし歯があるかも分かりますか?

現在想定されている歯周病のスクリーニング検査だけでは、むし歯を診断することはできません。

簡易歯科健診では、質問票やチェックツールなども組み合わせることが想定されていますが、異常が疑われる場合には歯科医院で詳しく診てもらう必要があります。

Q. 唾液検査が陰性なら、歯周病ではないということですか?

そうとは限りません。

現在想定されている検査は、唾液中のヘモグロビンなどを利用して歯周病の「疑い」を調べるスクリーニングです。

歯周病があっても検出されない場合があり、反対に陽性だからといって、その検査だけで歯周病と確定診断することもできません。

Q. 簡易歯科健診を受ければ、歯医者で定期健診を受けなくてもいいですか?

簡易歯科健診は、歯科医師による歯科健診の代わりではありません。

厚生労働省も、簡易歯科健診を歯科未受診者を歯科健診や歯科受診につなげるための「入り口」として位置づけています。

参考にした主な資料

  1. 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針2026」2026年7月21日閣議決定。
  2. 厚生労働省「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」2026年7月23日。
  3. 厚生労働省「上野大臣会見概要」2026年7月24日。
  4. 厚生労働省「歯科健診等のあり方等に関する検討会 中間とりまとめ」2026年7月31日。
  5. 厚生労働省「歯科健診等のあり方等に関する検討会」第2回資料、2026年6月22日。

執筆・監修:Shun

本記事は一般的な健康情報および公表されている政策情報の提供を目的としたものです。国民皆歯科健診に関する具体的な制度、実施方法、対象者などは今後変更される可能性があります。最新情報は厚生労働省や自治体等の公表資料をご確認ください。

ABOUT ME
shun
2017年卒業。100年時代の口腔を守るには良い治療と共に質の高い予防が絶対不可欠!と思い日々診療、研究に取り組んでいます。このサイトでは歯のお悩みに対して何がおきているのか、どういう治療が出来るのか、何故そうなってしまったのか、今後どうすれば予防出来るのかを分かりやすくお伝えできればと思います。よろしくお願い致します。
LINEで受け取る

LINE@にて、歯科関連の英語論文を日本語に翻訳し分かりやすく解説して配信しています。
今だけ無料で登録できるので、この機会に「お友達登録」してみてはいかがでしょうか?

LINEで論文解説を受け取る