衛生

矯正中のむし歯は唾液でわかる? pH・フッ化物を12か月追った研究

「矯正装置をつけると、むし歯になりやすくなる」と聞いたことがある方も多いかもしれません。

固定式の矯正装置では、ブラケットやワイヤーの周囲にプラークが残りやすくなります。そこで気になるのが、歯の表面が白くにごるwhite spot lesion(ホワイトスポット、WSL)です。

では、矯正中のむし歯リスクを唾液検査で早く見つけることはできるのでしょうか。

2026年にInternational Orthodonticsに掲載された前向きコホート研究では、固定式矯正治療を受ける18〜30歳の56人を12か月追跡し、唾液のpH、フッ化物、カルシウム、リン酸、むし歯関連菌などの変化とWSLの新規発生との関係を調べました。

🦷 この記事のポイント

  • 18〜30歳の56人を12か月追跡した前向きコホート研究
  • 唾液を開始時・6か月・12か月の3回採取
  • 12か月で22人(39%)に112個のWSLが新たに発生
  • WSL発生群では、pH・フッ化物・カルシウム・リン酸の低下がより急だった
  • 多変量解析では、特にpHとフッ化物の低下がWSL発生と独立して関連
  • むし歯関連菌は治療中に増加したものの、WSLあり・なしで増え方に明確な差はみられなかった

ホワイトスポットとは?矯正中に注意したい「白いにごり」

矯正中のむし歯とホワイトスポットを説明する図
▲ ブラケット周囲はプラークが残りやすく、歯の表面に白くにごる初期病変が生じることがあります。

ホワイトスポットは、歯の表面からミネラルが失われ、エナメル質が白くにごって見える病変です。

固定式の矯正装置ではブラケット周囲の清掃が難しくなるため、プラークが残りやすい場所に生じることがあります。

プラーク中の細菌が糖を利用して酸をつくると、歯の表面では脱灰が起こります。一方、唾液やフッ化物などは再石灰化に関わります。

脱灰 > 再石灰化

この状態が続くと、歯の表面に白いにごりが現れることがあります。

ただし、歯の白い斑点には初期う蝕以外の原因もあります。MIHや歯のフッ素症などとの違いについては、「ホワイトスポットの原因と治療|3種類の見分け方」でも詳しく解説しています。

56人を12か月追跡。唾液を3回測定した

矯正中のむし歯と唾液を12か月追跡した研究デザイン
▲ 治療開始時・6か月・12か月に唾液を採取し、WSLの新規発生を追跡しました。

研究対象は、全身的に健康で、軽度のAngle Class I不正咬合に対して非抜歯の固定式矯正治療を受ける18〜30歳の56人です。

非刺激全唾液を治療開始時、6か月、12か月の3時点で採取し、次の項目を測定しました。

分類 測定項目
💧 唾液環境 pH、緩衝能
🦷 ミネラル カルシウム、リン酸、フッ化物
🦠 細菌 mutans streptococci、Lactobacillus spp.

つまり、この研究は「むし歯菌が多いか」だけを見たものではありません。

酸に傾きやすい環境なのか、再石灰化に関係する成分がどう変化するのかまで含めて、同じ人を時間的に追っています。

12か月後、22人(39%)にホワイトスポットが発生

12か月の追跡結果
56人中 22人(39%)にWSL
合計112病変

12か月の追跡期間中、56人のうち22人(39%)に新しいWSLが確認され、病変数は合計112個でした。

ところが、研究開始時点では、後にWSLができた人とできなかった人の主要な臨床・唾液項目に明確な差はありませんでした。

💡 ここがポイント
「最初から唾液の値が悪かった人にWSLができた」という単純な結果ではありません。違いが見えてきたのは、矯正治療中に数値がどう変化したかでした。

WSLがなくてもpHやミネラルは低下。違ったのは「下がり方」

矯正中のむし歯と唾液pHやフッ化物の変化
▲ WSLなし群でも唾液成分は変化しましたが、WSL発生群ではpH・フッ化物・カルシウム・リン酸の低下がより急でした。細菌については「増えなかった」のではなく、群による増え方の差が明確ではなかった、という意味です。

この研究で大切なのは、WSLができなかった人でも唾液環境が変化していたことです。

pH、フッ化物、カルシウム、リン酸はいずれも治療期間中に低下しました。

しかし、反復測定mixed modelでは、これら4項目にgroup × time interactionが認められ、WSL発生群のほうがより急に低下していました。

唾液の項目 WSLなし WSLあり
💧 pH ↓ ↓↓↓
🟢 フッ化物 ↓ ↓↓↓
🟡 カルシウム ↓ ↓↓
🔵 リン酸 ↓ ↓↓↓

※矢印は研究結果の方向性をわかりやすく示した模式表で、変化量そのものを表す尺度ではありません。

むし歯関連菌はどうなった?

研究では、mutans streptococciとLactobacillus spp.も測定されています。

両菌とも矯正治療中に増加しました。

しかし重要なのは、WSLができた群だけ特別に増えたわけではなかったことです。WSLあり群となし群で、細菌数の時間的変化に明確な差は認められませんでした。

🦠 「細菌数に有意差なし」の意味

菌が増えなかった、という意味ではありません。
両群とも増加した一方で、「WSLができた人だけ、より大きく増えた」とはいえなかった、という結果です。

したがって、この研究では「むし歯菌が増えたかどうか」だけではWSL発生を十分に説明できなかったことになります。

もちろん、「細菌はむし歯に関係ない」という意味ではありません。

今回測定したのは特定の細菌数であり、口腔内のバイオフィルム全体の機能や細菌叢全体を評価した研究ではないためです。

多変量解析で残ったのは「pH」と「フッ化物」

研究では、反復測定mixed modelに加え、LASSOによる変数選択とロジスティック回帰を用いて、WSL発生と関連する変化を検討しました。

その結果、複数の項目を同時に考慮した多変量解析で独立して関連したのは、特に次の2つでした。

💧
pHのより大きな低下
🟢
フッ化物のより大きな低下

カルシウムやリン酸にも群による経時変化の違いはみられましたが、多変量解析では独立した関連として残りませんでした。

また、緩衝能や微生物数にも独立した関連は認められませんでした。

この研究の面白さは「1回の値」ではなく「自分の変化」

矯正中のむし歯リスクは唾液の経時変化を見ることが重要
▲ 一度の検査値だけでなく、その人自身の開始時からの変化を追うという考え方です。

この研究で特に興味深いのは、唾液検査の「見方」です。

一般的な検査では、「pHが高い・低い」「菌が多い・少ない」のように、ある時点の値を比べることがあります。

しかし今回、治療開始時点の主要な唾液項目には、後にWSLができた群とできなかった群で明確な差がありませんでした。

この研究から考えられる視点
「高い・低い」より
「いつもの自分から、どう変わったか」

唾液は非侵襲的で繰り返し採取しやすい検体です。

そのため、1回だけ測る「スナップショット」より、同じ人を継続して測るモニタリングに向いている可能性があります。

では、唾液検査を定期的にすれば矯正中のむし歯を予測できる?

現時点では、そこまでは言えません。

今回示されたのは、唾液成分の経時変化とWSL発生との関連です。

「pHがここまで下がったらWSLができる」といった臨床用のカットオフ値を確立した研究ではありません。

また、唾液の変化を早く見つけて予防介入を強化すれば、本当にWSLを減らせるかを検証した介入研究でもありません。

⚠️ この研究だけでは言えないこと

  • 唾液検査だけでWSLを正確に予測できる
  • pHやフッ化物の低下がWSLの直接的な原因である
  • 決まったカットオフ値で高リスク者を判定できる
  • 唾液検査を行えばWSLを予防できる

研究の限界も知っておこう

注意点 どう読む?
56人の小規模研究 WSL発生者は22人で、推定値の安定性には限界があります。
単一施設 地域や治療環境が変わっても同じ結果になるかは未確認です。
対象が限定的 18〜30歳、軽度Class I、非抜歯症例が中心です。
外部検証なし 別の患者集団で同じ結果が再現されるか、今後の検証が必要です。

矯正中のむし歯予防は、唾液検査だけではない

今回の研究は唾液バイオマーカーに注目していますが、実際のむし歯予防は検査値だけで決まるものではありません。

ブラケット周囲のプラークコントロール、フッ化物の利用、甘い飲食物をとる頻度、定期的な歯科チェックなどを組み合わせて考える必要があります。

砂糖の量や摂り方とむし歯の関係については、「歯医者で『甘いものを減らして』と言われる理由」も参考にしてください。

よくある質問

Q. 矯正中はむし歯菌が増えますか?

今回の研究では、mutans streptococciとLactobacillus spp.は治療期間中に増加しました。

ただし、WSLができた人だけ特別に増えたわけではなく、群による増え方の差は明確ではありませんでした。

Q. WSLができなかった人でもpHやフッ化物は下がったのですか?

はい。WSLなし群でも低下しました。

重要なのは、WSL発生群ではpH、フッ化物、カルシウム、リン酸の低下がより急だったことです。

Q. pHが低いと必ずホワイトスポットができますか?

いいえ。今回の研究で示されたのは集団レベルでの関連です。

個人について「この値なら必ずWSLができる」と判断できる基準は確立されていません。

Q. 唾液検査を1回受ければ、矯正中のむし歯リスクが分かりますか?

今回の研究では、開始時点の主要な唾液項目に明確な群間差はありませんでした。

むしろ、同じ人を繰り返し測定し、経時的な変化を見ることが研究のポイントです。

まとめ|「今の値」より「どう変わったか」に注目

固定式矯正治療を受ける56人を12か月追跡した今回の研究では、22人(39%)にWSLが発生しました。

  • WSLなし群でもpH・フッ化物・カルシウム・リン酸は低下した
  • WSL発生群では、その低下がより急だった
  • むし歯関連菌は両群で増加したが、増え方に明確な群間差はなかった
  • 多変量解析では、pHとフッ化物の低下がWSL発生と独立して関連した

この研究が示唆しているのは、「今の唾液が良いか悪いか」だけではなく、「以前の自分からどう変化したか」を見るという考え方です。

ただし、まだ56人の単施設研究です。

唾液モニタリングが実際の矯正診療でどこまで役立つのかは、より大規模な研究や外部検証、さらに予防介入につなげる研究が必要です。


参考文献

Jha K, Syed MAH, Sharma R, Gupta S, Tiwari R, Shah ND. Longitudinal evaluation of salivary biomarkers and white spot lesion development in patients undergoing fixed orthodontic treatment: A prospective cohort study. International Orthodontics. 2026;24(3):101163. doi:10.1016/j.ortho.2026.101163.

※本記事は一般的な健康情報および公表された研究結果の紹介を目的としています。個人のむし歯リスクを診断するものではありません。矯正治療中に歯の白濁やむし歯が気になる場合は、担当の歯科医師・矯正歯科医師にご相談ください。

ABOUT ME
shun
2017年卒業。100年時代の口腔を守るには良い治療と共に質の高い予防が絶対不可欠!と思い日々診療、研究に取り組んでいます。このサイトでは歯のお悩みに対して何がおきているのか、どういう治療が出来るのか、何故そうなってしまったのか、今後どうすれば予防出来るのかを分かりやすくお伝えできればと思います。よろしくお願い致します。
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