インプラントが入って、噛めるようになった。そこで治療は終わり——ではありません。ここからが本番です。
10年後に機能している割合はおよそ93〜96%。ただしこれは「平均」です。平均のどちら側に行くかは、かなりの部分をご自身で動かせます。その動かし方を、4つお話しします。
① 禁煙——効果がいちばん大きく、手術の4週間前からでも間に合います。
② 残っている歯の歯周病を先に治す。喫煙と並ぶ2大リスクです。
③ 定期検診に通うかどうかで、周囲炎の割合が3倍以上違います。
④ 飲んでいるお薬を伝えてください。ご自身の判断でやめないこと。
禁煙——いちばん効果が大きく、すぐできること
292の研究をまとめた分析では、喫煙している方のインプラントが機能しなくなるリスクは吸わない方のおよそ2.4倍、まわりの骨も平均0.58mm多く減っていました(Mustapha ら, 2021)。吸わない方の周囲炎は5.2%にとどまります(Reis ら, 2025)。
「もう何十年も吸っているから、今さら」と思われるかもしれません。そうではありません。手術を受ける患者さんを幅広く調べた分析では、手術の4週間以上前から禁煙すると、傷の治りのトラブルが33%減っていました(Tang ら, 2025)。精密検査から手術までの2〜4週間が、そのまま禁煙のスタートに使えます。
骨を増やす処置を伴う場合は、話が変わります。上顎の骨を増やしてから入れた約2,800人・7,902本を5〜13年追った分析では、長持ちを左右する要因の第1位が喫煙でした(Sabri ら, 2026)。傷が治る力そのものに頼る治療なので、この場合の禁煙は「できれば」ではなく条件としてお願いしています。
歯周病を先に治しておく
歯周病があるとインプラント周囲炎のリスクは約3.8倍——喫煙と並ぶ2大リスクです(Giok ら, 2024)。インプラントは、歯周病菌がいなくなる治療ではありません。残っている歯の歯周病を治しきってから入れることが、いちばんの近道です。
定期検診に通う
数字がいちばんはっきり出るところです。11年追跡した研究で、定期検診に通っていた方の周囲炎は11.1%、通院が不規則だった方は37.5%でした(Costa ら, 2023)。3倍以上の差です。
全身の状態と、飲んでいるお薬を共有する
米国の学会(AO/AAP)が2024年にまとめた合意文書は、コントロールのついていない糖尿病をリスクに挙げています。肥満や飲酒も関連が指摘されています。
血をさらさらにするお薬、痛み止めや胃薬(PPI)の長期使用、一部の抗うつ薬などが、インプラントの経過と関連する可能性が指摘されています(Monje ら, 2026)。ただし「関連が指摘されている」段階で、原因と確かめられたわけではありません。そして何より——歯科治療のために、ご自身の判断でお薬をやめないでください。必要なのは中止ではなく、治療前に「何を飲んでいるか」を伝えていただくことです。それがわかれば、治癒期間を長めに取る、検診の間隔を詰めるなど、こちら側で設計を変えられます。
臨床の現場から
インプラントの寿命が長い方に、共通していること
診療の実感として、次の条件が揃っている方は、インプラントを長く維持されていることが多いです。
- ご本人の意欲が高く、清掃の技術がある——ここがいちばん大きいと感じます
- 歯科医院で適切なメインテナンスを受け続けている
- 骨の代謝に関わる全身の病気がない、あってもきちんとコントロールされている
- 喫煙の習慣がない
- 歯ぎしりの癖がない、あるいはナイトガードなどでその影響を抑えられている
逆に、早めに問題が出やすいのは、清掃状態が良くないまま定期的なメインテナンスを受けず、生活習慣が乱れていて、骨の代謝に関わる持病がコントロールされていない——という状態が重なった場合です。残念ながら、早い時期にインプラントを失う確率が高くなります。

通院の間隔は、どのくらいですか
上部構造(かぶせ物)が入った直後は、1か月後・3か月後・6か月後にお越しいただいて経過を診ます。そこで問題がなければ、あとはその方のリスクに応じて調整します。
- リスクが比較的高い方(喫煙・歯周病の既往・糖尿病・歯ぎしりなど)……3か月に1回
- リスクが低い方……6か月に1回、場合によっては年に1回でも差し支えありません
タバコについては、どう話していますか
喫煙されている方には、基本的に禁煙をおすすめしています。とくに骨を増やす処置や歯ぐきの移植など、複雑な処置を伴う場合は、禁煙を必須とさせていただいています。
期間としては、ずっとやめていただくのが理想です。ただ「どうしても難しい」という方には、少なくとも手術の2〜4週間前から始めて、傷と骨の治りが落ち着くまでを目安にお伝えしています。この期間は、先ほどの研究にもとづくものです。
ご自身だけで難しいときは、禁煙外来という選択肢もあります。研究でも、一度声をかけるだけより、何度か面談してお薬も使う方法のほうが、傷の治りのトラブルがはっきり減っていました(Cochraneレビュー, 2014)。遠慮なく相談してください。
保証の年数を、喫煙の有無で変えています
歯科医院によっては、保証の条件に喫煙の有無を含めています。私自身も、次のようにさせていただいています。
| 喫煙の状況 | 保証 |
|---|---|
| 吸われていない方 | 10年 |
| 喫煙されていたが、適切に禁煙された方 | 5年 |
| 禁煙されない場合 | 保証なし |
意地悪でこうしているわけではありません。ここまでご紹介してきた数字が示すとおり、喫煙は、治療の結果を左右する要因のなかで、ご自身で動かせる数少ないものだからです。「保証をお付けできません」とお伝えするより、禁煙のお手伝いをしたい、というのが本音です。
裏を返せば、禁煙していただければ保証の対象になります。その意味でも、治療をお決めになる前にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 保証はありますか?
A. 保証制度は歯科医院ごとに設けられているもので、内容は一律ではありません。医院によっては「保守制度」という名前で運用されています。何年間か、どこまで(インプラント本体だけか、かぶせ物も含むか)が対象か、そして定期検診の受診や喫煙の有無が条件になっていないか——この3点は、治療をお決めになる前に確認されることをおすすめします。喫煙の有無で保証年数を変えている医院もあります(本記事の「臨床の現場から」をご参照ください)。
Q. 何年かごとに交換が必要ですか?
A. 骨の中に入っているインプラント本体は、定期的に交換する部品ではありません。ただし、上に載っているかぶせ物は、長く使えば摩耗したり欠けたりすることがあります。インプラントのブリッジでは、10年後にかぶせ物側が残っている割合は80.1%、金属の裏打ちがあるタイプに限れば93.9%という報告があります(Pjetursson ら, 2012)。本体はそのままで、上の部分だけ作り直す——これが実際によくある流れです。
どのくらいもつのかは インプラントは何年もつ?
ブリッジや入れ歯との比較は インプラントとブリッジ、どちらを選ぶ?
骨とインプラントがくっつく仕組みは インプラントとは?構造・仕組み・入れ歯やブリッジとの違い【第1講】、治療にかかる期間と通院回数は インプラント治療の流れと期間【第2講】
数字の詳細は エビデンス編
参考にした主な文献
- Mustapha AD, Salame Z, Chrcanovic BR. Smoking and Dental Implants: A Systematic Review and Meta-Analysis. Medicina (Kaunas). 2021;58(1):39.
- Tang E, Rodriguez RM, Srivastava A, et al. Impact of short duration smoking cessation on post-operative complications: A systematic review and meta-analysis. J Clin Anesth. 2025;106:111967.
- Thomsen T, Villebro N, Møller AM. Interventions for preoperative smoking cessation. Cochrane Database Syst Rev. 2014;(3):CD002294.
- Giok KC, Veettil SK, Menon RK. Risk factors for peri-implantitis: An umbrella review of meta-analyses of observational studies and assessment of biases. J Dent. 2024;146:105065.
- Costa FO, Costa AM, Ferreira SD, et al. Long-term impact of patients compliance to peri-implant maintenance therapy on the incidence of peri-implant diseases: An 11-year prospective follow-up clinical study. Clin Implant Dent Relat Res. 2023;25(2):303-312.
- Monje A, Aranda L, Diaz KT, et al. Impact of Maintenance Therapy for the Prevention of Peri-implant Diseases: A Systematic Review and Meta-analysis. J Dent Res. 2016;95(4):372-379.
- Sabri H, Saleh MHA, Nava P, Scaini R, Testori T, Del Fabbro M. Long-term outcomes of lateral sinus floor elevation: A machine-learning analysis, systematic review, and meta-analysis of predictive factors. Periodontol 2000. 2026 Mar 25 (online ahead of print).
- Reis INR, Huamán-Mendoza AA, Ramadan D, et al. Prevalence of peri-implant diseases according to the 2017 classification. J Dent. 2025;160:105914.
- Monje A, Soldini MC, Couso-Queiruga E, Babiano Á, Chappuis V. Effect of Medication Intake on Dental Implant-Related Outcomes: A Scoping Review. Clin Oral Implants Res. 2026;37(9):1033-1056.
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