「先生、これ、一生もちますか」——インプラントの寿命について、いちばん多く聞かれる質問です。決して安い治療ではありませんし、手術も伴います。どれくらい先まで安心していいのか、知りたくなるのは当然のことだと思います。
この質問に、私たちは長いあいだ「10年で95%以上が機能しています」と答えてきました。数字そのものは本当です。ただ、「残っている」ことと「何も起きていない」ことは、同じではありません。この記事では、その両方を正直にお伝えします。
① 10年後に機能している割合はおよそ93〜96%。20年後でもおよそ5本に4本が残っています。
② ただし「残っている」と「トラブルがない」は別。5年間まったく問題がなかった方は3人に2人ほどです。これは、ブリッジでも入れ歯でも同じことが言えます。
③ 起きることの多くは、その日のうちに直せるもの。早く見つけられるかどうかで、その先が大きく変わります。
10年後、20年後に、どのくらい残っていますか
18の研究をまとめた分析では、10年生存率は96.4%でした(Howe ら, Journal of Dentistry 2019)。ただしこの論文は正直です。途中で通院が途絶えた方を厳しく見た場合の推定は93.2%。20年のデータは78〜92%という幅で報告されています(Kupka ら, Clinical Oral Investigations 2024)。ざっくり言えば、20年たっても5本のうち4本前後は働き続けている、ということです。
これは研究として報告された数字です。街の歯科医院を含めた「ふつうの現場」はどうか。スウェーデンで無作為に選ばれた約600人を9年後に実際に診た調査では、1本以上を失った方は7.6%——9割以上の方は1本も失っていませんでした(Derks ら, Journal of Dental Research 2015)。喫煙者と歯周病の既往がある方で、より起こりやすいという結果です。
「残っている」と「問題が起きていない」は、同じではありません
歯科では2つの数字を使い分けます。ひとつは生存率——そこに残って機能している割合。もうひとつは成功率——何のトラブルもなく過ごせた割合です。
インプラントのブリッジを対象にした大きな分析では、生存率は95%を超えているのに、5年間まったく何も起きなかった方は66.4%でした(Pjetursson ら, 2012)。3人に1人は、5年のあいだに何かしらの手直しを経験しているということになります。
これはインプラントに限った話ではありません。天然の歯を削って支えにする従来型のブリッジでも、10年後の生存率89.1%に対し、トラブルなく過ごせた割合は71.1%でした(Tan ら, 2004)。生存率だけを見せる説明は、片手落ちです。
起きることには、軽いものと重いものがあります
「3人に1人にトラブル」と聞くと不安になりますが、大事なのはその中身です。ひとまとめにしてしまうと、実態が見えなくなります。
実際の数字を挙げます。1本だけのインプラント(単冠)で5年間にいちばん多く起きるのは、かぶせ物を留めているネジのゆるみで8.8%。次いで歯ぐきまわりの症状が7.1%、かぶせ物が外れるのが4.1%、陶材の欠けが3.5%です(Jung ら, 2012)。上位はすべて、来院いただければその日に対応できるものです。



いちばん重い層も、数字を隠さずお伝えします。同じスウェーデンの調査で、9年後にインプラント周囲炎と診断された方は45%。ただし骨が2mm以上減っている中等度〜重度は14.5%、実際に1本以上を失った方は7.6%でした(Derks ら, 2016)。段階を追って絞られていきます。
インプラント周囲炎は、痛みが出にくいという特徴があります。気づけないうちに骨が静かに減っていくことがあり、見つかった段階でその後の見通しが大きく変わります(Romandini ら, 2024)。「痛くないから大丈夫」ではありません。だからこそ、定期検診でレントゲンと歯ぐきを診せていただきたいのです。
臨床の現場から
「インプラントの寿命は何年ですか」と聞かれたら、こうお答えしています
さらにその状態が続き、骨の代謝に関わるような全身の病気にかかることもなければ、20年、30年と良好に機能している症例もあります。
「何年」という数字だけを約束することはできません。でも、条件を挙げることはできます。そしてその条件の多くは、これからご一緒に作れるものです。
安心して読んでほしいこと
インプラントの寿命について、ここまで良い数字も、そうでない数字も並べてきました。最後に、いちばんお伝えしたいことを書きます。
この記事の数字は、すべて大勢の平均です。あなたご自身の結果ではありません。そして平均を決めている要素の多く——吸うかどうか、歯周病を治しきったか、検診に来ていただけるか——は、私たちとあなたでこれから作れるものです。
そして、起きることの大半は、早く見つかれば軽いうちに対応できます。「入れて終わり」ではなく「一緒に見ていく」治療だと思っていただければ、いちばん近いと思います。
よくある質問(FAQ)
Q. インプラントは一生もちますか?
A. 「一生」をお約束できる歯科治療は、残念ながらありません。ただ、10年後におよそ93〜96%、20年後でもおよそ8割前後が機能しているというのが、現在わかっていることです。歯ぎしりの癖がなく、清掃ができ、適切なメインテナンスを受けられていれば、10年以上もつことは珍しくありません。その状態が続き、骨の代謝に関わる病気にもかからなければ、20年、30年と機能している例もあります。ご自身の歯と同じで、手入れを続けていただけるかどうかで先が変わります。
Q. もしインプラントを失ってしまったら、入れ直せますか?
A. 多くの場合、入れ直しは可能です。ただし、炎症で骨が減っている場合は、まず炎症を治め、骨の状態を整えてからになります。骨をつくる処置が必要になったり、しばらく時間を置いてからの再手術になったりすることがあります。同じ場所に、すぐ同じように入れられるとはかぎりません。
ブリッジや入れ歯と比べてどうかは インプラントとブリッジ、どちらを選ぶ?
長持ちさせるためにできることは インプラントを長持ちさせるためにできること
ここで扱った数字を歯科医師向けにもう一段くわしく整理したものが インプラントの生存率と成功率——合併症の内訳をどう読むか【エビデンス編】
参考にした主な文献
- Howe MS, Keys W, Richards D. Long-term (10-year) dental implant survival: A systematic review and sensitivity meta-analysis. J Dent. 2019;84:9-21.
- Kupka JR, König J, Al-Nawas B, Sagheb K, Schiegnitz E. How far can we go? A 20-year meta-analysis of dental implant survival rates. Clin Oral Investig. 2024;28(10):541.
- Jung RE, Zembic A, Pjetursson BE, Zwahlen M, Thoma DS. Systematic review of the survival rate and the incidence of complications of single crowns on implants. Clin Oral Implants Res. 2012;23(Suppl 6):2-21.
- Pjetursson BE, Thoma D, Jung R, Zwahlen M, Zembic A. A systematic review of the survival and complication rates of implant-supported fixed dental prostheses. Clin Oral Implants Res. 2012;23(Suppl 6):22-38.
- Derks J, Håkansson J, Wennström JL, Tomasi C, Larsson M, Berglundh T. Effectiveness of implant therapy analyzed in a Swedish population: early and late implant loss. J Dent Res. 2015;94(3 Suppl):44S-51S.
- Derks J, Schaller D, Håkansson J, Wennström JL, Tomasi C, Berglundh T. Effectiveness of Implant Therapy Analyzed in a Swedish Population: Prevalence of Peri-implantitis. J Dent Res. 2016;95(1):43-9.
- Romandini M, Bougas K, Alibegovic L, et al. Long-term outcomes and prognostic factors of surgical treatment of peri-implantitis. Clin Oral Implants Res. 2024;35(3):321-329.
- Tan K, Pjetursson BE, Lang NP, Chan ESY. A systematic review of the survival and complication rates of fixed partial dentures. Clin Oral Implants Res. 2004;15(6):654-666.
LINE@にて、歯科関連の英語論文を日本語に翻訳し分かりやすく解説して配信しています。
今だけ無料で登録できるので、この機会に「お友達登録」してみてはいかがでしょうか?
