「最近、たくあんが少し食べにくくなった」
「硬いせんべいは避けるようになった」
「りんごは丸かじりせず、小さく切って食べている」
こうした何気ない食生活の変化。
実は歯科では昔から、「何が食べられるか」も、噛む能力を知る手がかりとして使われてきました。
そして2026年10月13日、大阪歯科大学の研究グループが、食品による噛み方の違いと、口の機能との関係を調べた研究を発表しました。[4]
食べ物が変わると、噛む回数や時間、筋肉の使い方はどう変わるのか。その違いは、噛む力や舌の力と関係しているのか。
身近な食品から、口の働きを考えてみましょう。

この記事のポイント
- 食べられる食品を尋ねることも、噛む能力を評価する方法の一つです。
- 食べにくさは硬さだけでなく、食品の性質や調理方法によっても変わります。
- 若年者15人の研究で、食品による噛み方の違いと、噛む力・舌の力との関連が調べられました。
- 「以前より食べにくくなったもの」は、歯科で相談する際の具体的な手がかりになります。
目次
「たくあん」で噛む能力を評価する?
噛む能力というと、「どれだけ強く噛めるか」を測る検査を想像するかもしれません。
しかし、普段どんな食品を普通に食べられているかを聞く方法もあります。
佐藤らは、上下とも全部床義歯を使用している110人に、100種類の食品の食べやすさを調査しました。その結果をもとに、食品への回答から咀嚼機能を評価する表を作成しています。[1]
2021年の論文に掲載された評価表では、食品が5つのグループに分けられています。代表的なものを挙げると、次のようになります。[2]
| グループ | 食品の例 |
|---|---|
| 1 | 豆腐、卵焼き、煮たじゃがいも |
| 2 | かまぼこ、ごぼう |
| 3 | 焼肉、ピーナッツ、たくあん |
| 4 | 硬いせんべい、古たくあん |
| 5 | するめ、干し貝柱、りんごの丸かじり |
※文献[2]の表1から食品例を抜粋。グループの数字は、口腔機能低下症の重症度を示すものではありません。
これは単純な食品の硬さの順位ではなく、義歯装着者が「普通に食べられる」と答えた割合をもとにした分類です。
「たくあんを普通に食べられますか?」という一見世間話のような質問も、噛む機能を知る情報になります。
もちろん、この一問だけで口腔機能低下症を診断するわけではありません。もともと義歯装着者を対象に作られた指標であり、自分で答える主観的な評価でもあります。
それでも、本人が日常の食事で感じている食べにくさを把握できることは、大きな長所です。
食べにくさは硬さだけでは決まらない
たくあんとビスケットでは、食べにくさの理由が違います。
食品には硬さだけでなく、弾力、崩れやすさ、粘り、水分量など、さまざまな性質があります。
2024年には、従来の食品一覧をもとに一部の食品を入れ替え、77食品・93試料の物性を機械で測定した研究が報告されました。[3]
食べやすさを表す指数は、食品の硬さや、硬さと凝集性を組み合わせた指標と関連していました。凝集性とは、ここでは食品の内部の結びつきの強さを表す性質です。
また、同じ食品でも、皮の有無、繊維の方向、調理方法や温度によって測定値が変わりました。
「何という食品か」だけでなく、「どのような状態で食べるか」も重要なのです。
口の中では、食品を噛み砕くだけでなく、舌や頬で動かし、唾液と混ぜ、飲み込める状態にまとめる作業が行われています。
食品による噛み方の違いを調べた研究
大阪歯科大学の研究では、健康な若年者15人が、ビスケット・かまぼこ・きゅうりを各約10g食べました。
耳掛け型の咀嚼計と咬筋の筋電図を使い、噛む回数・時間・速度・筋活動を測定。最大咬合力と最大舌圧も調べています。[4]
| 食品 | 咀嚼回数 中央値 |
咀嚼時間 中央値 |
|---|---|---|
| ビスケット | 100回 | 91秒 |
| かまぼこ | 36回 | 32秒 |
| きゅうり | 32回 | 31秒 |
ビスケットでは回数と時間が増えましたが、1分間あたりの咀嚼回数には、食品間で統計学的に有意な差が認められませんでした。
この実験では、ビスケットを食べる際に、速く噛むというより、長く噛み続けていたことになります。
これらは今回の条件で得られた値であり、「ビスケットは100回噛むべき」という目標ではありません。
噛み方の変化は、大きければよい?
最大咬合力が高い人ほど、ビスケットやきゅうりを食べる際の咀嚼回数が少ない傾向もありました。
また、ビスケットを噛むときの咬筋活動を、かまぼこやきゅうりと比べた比率は、最大舌圧が高い人ほど小さくなる傾向でした。[4]
つまり、筋活動を大きく変えられる人ほど、噛む能力が高いと示されたわけではありません。
対象者は平均26.2歳の健康な15人です。高齢者や口腔機能低下症の人を調べた研究ではなく、新しい診断方法が確立されたわけでもありません。
今回の研究は、食品ごとの噛み方と、噛む力・舌の力との関連を探った段階にあります。
最近、食べ方を変えたものはありませんか?
ここからは、日々の食事について考えてみましょう。
- 以前は普通に食べていた肉が、噛みにくくなった
- たくあんを薄く切るようになった
- りんごを小さく切って食べるようになった
- 食事に時間がかかるようになった
こうした変化には、歯の状態、義歯の具合、痛み、口の乾燥、飲み込みの問題など、さまざまな理由が考えられます。好みや調理習慣が変わっただけの場合もあり、必ずしも「噛む力が落ちた」という意味ではありません。
小さく切ることも、おいしく食べ続けるための工夫です。
大切なのは、丸かじりができるかを無理に試すことではなく、以前と比べて食べにくくなったものや、食べ方を変えたものに気づくことです。
気になる変化が続くときは、
「最近、たくあんが噛みにくいんです」
と、そのまま歯科で伝えてみてください。
身近な食品の話が、口の状態を確かめる会話の入口になります。
よくある質問
Q. たくあんが噛めないと、口腔機能低下症ですか?
それだけでは判断できません。食品を使った質問は評価方法の一つですが、一つの食品への回答だけで診断するものではありません。
Q. ビスケットは100回噛んだ方がよいですか?
100回は今回の研究で得られた中央値で、推奨回数ではありません。食品の量や製品、食べる人によっても噛む回数は変わります。
Q. 食品を小さく切るのは、よくないことですか?
小さく切ること自体は、食べやすくする工夫です。ただ、以前より噛みにくくなったために切るようになった場合は、その変化を歯科で伝えると参考になります。
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参考文献
- 佐藤裕二、石田栄作、皆木省吾、赤川安正、津留宏道.総義歯装着者の食品摂取状況.日本補綴歯科学会雑誌.1988;32(4):774–779.
- 七田俊晴、佐藤裕二、北川昇、松村圭祐、杉山一朗.改良型咀嚼能率判定表(咀嚼スコア10)の有効性の検討について.日本補綴歯科学会誌.2021;13(1):42–48.
本文の食品例は、この論文の表1に掲載された5群から抜粋しています。
- Shikama Y, et al. Texture Analysis of Food Samples Used for the Evaluation of Masticatory Function. Cureus. 2024;16(4):e58721.
- Takahashi N, Ono T, Kawamoto A, Shimada A, Takahashi K. Is the Modulation of Masticatory Behaviors in Response to Different Foods Associated with Oral Function?: A Preliminary Observational Study. Oral. 2026;6(5):133.
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