インプラント

持病があってもインプラントはできる?糖尿病・骨粗鬆症の薬・たばこ・血液の薬【第5講】

暗い机の上に置かれた錠剤のシート。持病の治療で使っている薬とインプラントの関係を示すイメージ

「糖尿病があるので、インプラントは無理だと言われました」——そうおっしゃって相談にみえる方がいます。お薬手帳を拝見すると、血糖はきちんとコントロールされていて、主治医の先生とも定期的に会っておられる。持病があるからインプラントは無理、と思い込んでおられただけで、道は閉ざされていません。

歯科が見ているのは病名そのものではなく、その状態がどう管理されているかです。そしてもうひとつ、どうか避けていただきたいことがあります。

この記事の要点
持病があるというだけで可否が決まることは、ほとんどありません。見ているのはいまの管理の状態です。
糖尿病があっても、インプラントが残っている割合に大きな差は出ていないという解析が重なっています。
そして——手術のために、ご自分の判断でお薬を止めないでください。

持病があるとき、歯科が最初に確かめること

診療室でまず伺うのは、お薬手帳と、最後に主治医の先生にかかった日です。同じ「糖尿病があります」でも、血糖が安定している方と、しばらく受診が途切れている方とでは、こちらの組み立てが変わります。判断が分かれるのは、病名ではなくそこです。

歯科が確かめているのは、病名ではありません糖尿病血糖のコントロールがついているか骨粗鬆症のお薬どのお薬を、どれくらいの量で使っているかたばこいま吸っているか、やめられそうか血液のお薬主治医の先生と連絡がとれるかどれも「あるかないか」ではなく、「いまどうなっているか」で判断が変わります。
▲ 病名を聞いて終わりにはなりません。歯科が見ているのは、その持病がいまどう管理されているかです

糖尿病があると、インプラントはもたない?

いちばん気にされている点からお答えします。14の研究をまとめた解析では、糖尿病のある方とない方とで、インプラントが残っている割合に大きな差は見られませんでした。その後に出た複数の解析でも、同じ方向の結果が続いています。

差が出たのは別のところです。インプラントのまわりの骨は、糖尿病のある方でわずかに減りやすい。そして埋めたあと、骨としっかり結びつくまでの最初の数週間に、時間がかかることが報告されています。

できるかどうかではなく、治っていく速さと、その後の手入れの話です。目安の数値は主治医の先生と歯科で相談しながら決めますので、ご自分の検査値だけを見て諦めないでください。

糖尿病で「大きな差が出なかったこと」と「差が出たこと」大きな差が出なかったことインプラントが残っている割合14の研究をまとめた解析で、糖尿病のある方とない方のあいだに大きな差は見られませんでした差が出たことまわりの骨の減り方骨と結びつくまでの時間血糖の管理がついているほど、この差は小さくなります
▲ 「もつかどうか」ではなく、「治り方と、その後の手入れ」に差が出ます

骨粗鬆症のお薬を飲んでいても、できますか

お薬を飲んでいる方から、最も多く聞かれる質問です。以前は否定的に見られていましたが、いまは違います。日本の6つの学会が合同で出した最新の見解(2023年)には、こう書かれています——骨を守るお薬を使っている方にインプラント手術を行ってはならない、とする根拠はない。

線が引かれているのは、病名ではなくお薬の量です。がんが骨に広がるのを抑えるために使う量は、骨粗鬆症の治療で使う量よりずっと多く、こちらは他の方法を選ぶことになっています。

ご自分がどちらに当たるのかは、お薬手帳を持って歯科で確認していただければ分かります。

線が引かれているのは、病名ではなくお薬の量です骨粗鬆症の治療で使う量インプラント手術を行ってはならない、とする根拠はない(2023年・6学会合同の見解)がんが骨に広がるのを抑えるために使う量ほかに選べる治療があるため、インプラント以外の方法を選びます
▲ 同じ系統のお薬でも、使う量が違えば扱いが変わります。判断はお薬手帳から始まります

たばこは、どれくらい影響しますか

持病ではありませんが、この記事で扱うなかで、いちばんはっきり差が出ます。107の研究を集めた解析では、たばこを吸う方はインプラントがだめになる割合がおよそ2.2倍でした。手術のあとの感染も約2倍、まわりの骨の減り方も大きくなります。

よく聞かれるのが加熱式たばこですが、こちらはインプラントとの関係を調べた臨床研究が、2026年の時点でまだ1本もありません。安全だという報告があるわけではなく、調べられていないというのが正確なところです。

入れたあとに何をすれば長くもつかは、第4講③「インプラントを長持ちさせるためにできること」にまとめています。

血液をサラサラにするお薬は、止めてから手術ですか

「手術の前に止めてきてください」と言われた経験のある方もいると思います。いまは考え方が変わっています。

海外のガイドラインは、インプラント手術を出血しやすい処置に数えたうえで、それでもお薬は続けたまま行うという立場をとっています。記録がはっきりしているからです。

お薬を止めて歯科の処置を受けた2,775件では、22件(0.8%)で血の塊が詰まる事故が起き、そのうち6件は亡くなっています。一方、お薬を続けたまま行った11,381件の処置のうち、いつもの止血処置では足りなかったのは31件(およそ0.6%)でした。

出血は歯科で対応できます。詰まってしまったほうは、取り返しがつきません。

お薬を止めた場合と、続けた場合に起きたこと止めて処置を受けた 2,775 件22 件(0.8%)血の塊が詰まる事故うち 6 件は亡くなっています続けたまま行った 11,381 処置31 件(約0.6%)いつもの止血では足りず歯科で対応できた範囲ですだから、お薬は続けたまま手術するのが標準になっています
▲ 出血は歯科で止められますが、血の塊が詰まったほうは元に戻せません。この差が扱いを決めています
注意
インプラントのために、ご自分の判断でお薬を止めないでください。止めるかどうかを決められるのは、そのお薬を出している主治医の先生だけです。

安心して読んでほしいこと

持病があることは、インプラントを諦める理由にはなりません。必要なのは、いまの状態を歯科と主治医の先生が共有していることです。そこさえ整えば、話は「できるかどうか」から「どう進めるか」に変わります。

相談に行かれるときは、お薬手帳と、直近の血液検査の結果をお持ちください。話がかなり具体的なところから始められます。治療がどんな順番で進むかは第2講「治療の流れと期間」をご覧ください。


よくある質問

Q. 糖尿病がありますが、インプラントはできますか。

A. 血糖の管理がついていれば、選択肢から外れることはありません。ただし、まわりの骨の減り方や、骨と結びつくまでの期間には差が出ますので、主治医の先生と歯科で状態を共有したうえで進めます。

Q. 骨粗鬆症のお薬を飲んでいます。止めてから手術したほうがいいですか。

A. 日本の学会が合同で出している見解は、抜歯のときにお薬を止めないことを提案する、という立場です。止めることで顎の骨のトラブルが減るという根拠は、いまのところ見当たりません。自己判断で止めず、お薬手帳を持って歯科でご相談ください。

Q. たばこは、いつからやめればいいですか。

A. よく使われている目安は「手術の少なくとも1週間前から、手術のあと8週間まで」です。1996年の報告で、この期間やめた方は吸い続けた方より経過がよく、もともと吸わない方と比べても差がありませんでした。ただし、この期間を確かめた研究はこの1本だけで、「何日前なら安全」と言い切れるほど調べられてはいません。やめられるなら早いほどよく、そのまま続けられればなおよい、というのが実際のところです。

Q. 加熱式たばこなら大丈夫ですか。

A. 分かっていません。インプラントと加熱式たばこの関係を調べた臨床研究は、2026年の時点でまだ報告されていません。紙巻きたばこより安全だという根拠がないため、同じように扱っています。

歯科医師の方へ
各研究の症例数と信頼区間、日本と海外のガイドラインの差、骨造成や即時荷重を伴う場合の層別は、エビデンス編「全身既往とインプラント」にまとめています。

参考にした主な文献

  1. Chrcanovic BR, Albrektsson T, Wennerberg A. Diabetes and oral implant failure: a systematic review. J Dent Res. 2014;93(9):859-867. doi:10.1177/0022034514538820
  2. Chrcanovic BR, Albrektsson T, Wennerberg A. Smoking and dental implants: a systematic review and meta-analysis. J Dent. 2015;43(5):487-498. PMID: 25778741
  3. 顎骨壊死検討委員会. 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 2023.
  4. Ruggiero SL, Dodson TB, Aghaloo T, Carlson ER, Ward BB, Kademani D. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons position paper on medication-related osteonecrosis of the jaws—2022 update. J Oral Maxillofac Surg. 2022;80(5):920-943. doi:10.1016/j.joms.2022.02.008
  5. Wahl MJ, Pinto A, Kilham J, Lalla RV. Dental surgery in anticoagulated patients—stop the interruption. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2015;119(2):136-157. doi:10.1016/j.oooo.2014.10.011
  6. Scottish Dental Clinical Effectiveness Programme. Management of dental patients taking anticoagulants or antiplatelet drugs. 2nd edition. 2022.
  7. Calciolari E, et al. Clin Oral Implants Res. 2026;37(3):262-286. doi:10.1111/clr.70108
  8. 日本歯科医学会編. 歯科インプラント治療指針. 平成25年3月.
  9. Bain CA. Smoking and implant failure—benefits of a smoking cessation protocol. Int J Oral Maxillofac Implants. 1996;11(6):756-759. PMID: 8990637

執筆・監修:林 剛永(Taketo Hayashi / Kangyeong Lim)

日本・米国の両方の歯科医師免許を持つ現役歯科医師。インプラント治療で ABOI/ID と AO の Diplomate 認定を取得(DDS・MS・DABOI/ID・DAO・FAAID)。プロフィール詳細はこちら

著者は ABOI/ID(American Board of Oral Implantology/Implant Dentistry)と AO(Academy of Osseointegration)の Diplomate 公式名簿に掲載されています。名簿の掲載数は ABOI/ID が世界511名(うち日本国内3名)、AO が149名です(2026年9月時点)。ABOI/ID 公式名簿/AO 公式名簿

ABOUT ME
林剛永 D.D.S., M.S.
2015年 大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院での研修、約4年間の開業医勤務を経て、2020年より米国カリフォルニア州 Loma Linda大学大学院に留学し、インプラント歯科学を専攻・修了。ABOI/ID(American Board of Oral Implantology/Implant Dentistry)と AO(Academy of Osseointegration)、双方の Diplomate 認定。現在は、インプラント治療を中心に臨床に従事しています。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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