「糖尿病があるので、インプラントは無理だと言われました」——そうおっしゃって相談にみえる方がいます。お薬手帳を拝見すると、血糖はきちんとコントロールされていて、主治医の先生とも定期的に会っておられる。持病があるからインプラントは無理、と思い込んでおられただけで、道は閉ざされていません。
歯科が見ているのは病名そのものではなく、その状態がどう管理されているかです。そしてもうひとつ、どうか避けていただきたいことがあります。
持病があるというだけで可否が決まることは、ほとんどありません。見ているのはいまの管理の状態です。
糖尿病があっても、インプラントが残っている割合に大きな差は出ていないという解析が重なっています。
そして——手術のために、ご自分の判断でお薬を止めないでください。
持病があるとき、歯科が最初に確かめること
診療室でまず伺うのは、お薬手帳と、最後に主治医の先生にかかった日です。同じ「糖尿病があります」でも、血糖が安定している方と、しばらく受診が途切れている方とでは、こちらの組み立てが変わります。判断が分かれるのは、病名ではなくそこです。
糖尿病があると、インプラントはもたない?
いちばん気にされている点からお答えします。14の研究をまとめた解析では、糖尿病のある方とない方とで、インプラントが残っている割合に大きな差は見られませんでした。その後に出た複数の解析でも、同じ方向の結果が続いています。
差が出たのは別のところです。インプラントのまわりの骨は、糖尿病のある方でわずかに減りやすい。そして埋めたあと、骨としっかり結びつくまでの最初の数週間に、時間がかかることが報告されています。
できるかどうかではなく、治っていく速さと、その後の手入れの話です。目安の数値は主治医の先生と歯科で相談しながら決めますので、ご自分の検査値だけを見て諦めないでください。
骨粗鬆症のお薬を飲んでいても、できますか
お薬を飲んでいる方から、最も多く聞かれる質問です。以前は否定的に見られていましたが、いまは違います。日本の6つの学会が合同で出した最新の見解(2023年)には、こう書かれています——骨を守るお薬を使っている方にインプラント手術を行ってはならない、とする根拠はない。
線が引かれているのは、病名ではなくお薬の量です。がんが骨に広がるのを抑えるために使う量は、骨粗鬆症の治療で使う量よりずっと多く、こちらは他の方法を選ぶことになっています。
ご自分がどちらに当たるのかは、お薬手帳を持って歯科で確認していただければ分かります。
たばこは、どれくらい影響しますか
持病ではありませんが、この記事で扱うなかで、いちばんはっきり差が出ます。107の研究を集めた解析では、たばこを吸う方はインプラントがだめになる割合がおよそ2.2倍でした。手術のあとの感染も約2倍、まわりの骨の減り方も大きくなります。
よく聞かれるのが加熱式たばこですが、こちらはインプラントとの関係を調べた臨床研究が、2026年の時点でまだ1本もありません。安全だという報告があるわけではなく、調べられていないというのが正確なところです。
入れたあとに何をすれば長くもつかは、第4講③「インプラントを長持ちさせるためにできること」にまとめています。
血液をサラサラにするお薬は、止めてから手術ですか
「手術の前に止めてきてください」と言われた経験のある方もいると思います。いまは考え方が変わっています。
海外のガイドラインは、インプラント手術を出血しやすい処置に数えたうえで、それでもお薬は続けたまま行うという立場をとっています。記録がはっきりしているからです。
お薬を止めて歯科の処置を受けた2,775件では、22件(0.8%)で血の塊が詰まる事故が起き、そのうち6件は亡くなっています。一方、お薬を続けたまま行った11,381件の処置のうち、いつもの止血処置では足りなかったのは31件(およそ0.6%)でした。
出血は歯科で対応できます。詰まってしまったほうは、取り返しがつきません。
インプラントのために、ご自分の判断でお薬を止めないでください。止めるかどうかを決められるのは、そのお薬を出している主治医の先生だけです。
安心して読んでほしいこと
持病があることは、インプラントを諦める理由にはなりません。必要なのは、いまの状態を歯科と主治医の先生が共有していることです。そこさえ整えば、話は「できるかどうか」から「どう進めるか」に変わります。
相談に行かれるときは、お薬手帳と、直近の血液検査の結果をお持ちください。話がかなり具体的なところから始められます。治療がどんな順番で進むかは第2講「治療の流れと期間」をご覧ください。
よくある質問
Q. 糖尿病がありますが、インプラントはできますか。
A. 血糖の管理がついていれば、選択肢から外れることはありません。ただし、まわりの骨の減り方や、骨と結びつくまでの期間には差が出ますので、主治医の先生と歯科で状態を共有したうえで進めます。
Q. 骨粗鬆症のお薬を飲んでいます。止めてから手術したほうがいいですか。
A. 日本の学会が合同で出している見解は、抜歯のときにお薬を止めないことを提案する、という立場です。止めることで顎の骨のトラブルが減るという根拠は、いまのところ見当たりません。自己判断で止めず、お薬手帳を持って歯科でご相談ください。
Q. たばこは、いつからやめればいいですか。
A. よく使われている目安は「手術の少なくとも1週間前から、手術のあと8週間まで」です。1996年の報告で、この期間やめた方は吸い続けた方より経過がよく、もともと吸わない方と比べても差がありませんでした。ただし、この期間を確かめた研究はこの1本だけで、「何日前なら安全」と言い切れるほど調べられてはいません。やめられるなら早いほどよく、そのまま続けられればなおよい、というのが実際のところです。
Q. 加熱式たばこなら大丈夫ですか。
A. 分かっていません。インプラントと加熱式たばこの関係を調べた臨床研究は、2026年の時点でまだ報告されていません。紙巻きたばこより安全だという根拠がないため、同じように扱っています。
各研究の症例数と信頼区間、日本と海外のガイドラインの差、骨造成や即時荷重を伴う場合の層別は、エビデンス編「全身既往とインプラント」にまとめています。
参考にした主な文献
- Chrcanovic BR, Albrektsson T, Wennerberg A. Diabetes and oral implant failure: a systematic review. J Dent Res. 2014;93(9):859-867. doi:10.1177/0022034514538820
- Chrcanovic BR, Albrektsson T, Wennerberg A. Smoking and dental implants: a systematic review and meta-analysis. J Dent. 2015;43(5):487-498. PMID: 25778741
- 顎骨壊死検討委員会. 薬剤関連顎骨壊死の病態と管理:顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023. 2023.
- Ruggiero SL, Dodson TB, Aghaloo T, Carlson ER, Ward BB, Kademani D. American Association of Oral and Maxillofacial Surgeons position paper on medication-related osteonecrosis of the jaws—2022 update. J Oral Maxillofac Surg. 2022;80(5):920-943. doi:10.1016/j.joms.2022.02.008
- Wahl MJ, Pinto A, Kilham J, Lalla RV. Dental surgery in anticoagulated patients—stop the interruption. Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol. 2015;119(2):136-157. doi:10.1016/j.oooo.2014.10.011
- Scottish Dental Clinical Effectiveness Programme. Management of dental patients taking anticoagulants or antiplatelet drugs. 2nd edition. 2022.
- Calciolari E, et al. Clin Oral Implants Res. 2026;37(3):262-286. doi:10.1111/clr.70108
- 日本歯科医学会編. 歯科インプラント治療指針. 平成25年3月.
- Bain CA. Smoking and implant failure—benefits of a smoking cessation protocol. Int J Oral Maxillofac Implants. 1996;11(6):756-759. PMID: 8990637
LINE@にて、歯科関連の英語論文を日本語に翻訳し分かりやすく解説して配信しています。
今だけ無料で登録できるので、この機会に「お友達登録」してみてはいかがでしょうか?
