見積書を受け取って、金額の大きさに固まってしまった。持ち帰って調べたら、今度はサイトごとに書いてある金額がばらばらで、どれを信じればいいのか分からなくなった——よくある場面です。
この記事で扱うのは、その金額が何に対して払われているのか、という一点です。
- インプラントに公的な価格統計はありません。金額の大小だけでは比べられません。
- 価格差の理由の大半は、誰がその手術を行うかです。
- インプラント治療は、ごく限られた場合を除いて保険が使えません。
目次
「相場」が出てこないのは、なぜ?
インプラントは自由診療です。保険のような全国一律の価格はなく、費用は各医療機関が決めます。そしてその金額を集計した公的な統計は、ありません。「相場は◯万円」と書かれた記事の多くは、その医院の水準です。
公的機関で金額に触れている資料は、ひとつだけあります。国民生活センターが相談事例を分析したもので、契約金額が分かる240件のうち50万円以上が70.4%、100万円以上が46.3%でした。
相談が寄せられた事例だけの分布です。金額が高いほうがトラブルになりやすい、という意味でもありません。動いている金額の桁を知る目安としてだけ見てください。
費用は、受ける処置ひとつひとつにかかります
インプラントの費用は、「1本いくら」というひとつの値段ではありません。診査・診断、第1講でお話ししたインプラント体を埋める手術、骨が足りなければ骨造成、歯ぐきが足りなければ軟組織の移植、型取り、上部構造の製作と装着——受ける処置の一つひとつに費用がかかります。
どの処置が必要になるかは、人によって違います。同じ「1本」でも、必要な処置が増えれば総額は変わります。金額を比べる前に、その見積もりがどの処置を含んでいるのかを見てください。
CTによる検査は、日本歯科医学会の治療指針が「必要である」としている工程です。メインテナンスも同じ指針が「必須」としています。見積もりを見るときは、金額が治療のどこからどこまでを指しているのかを、最初に確かめてください。
そして、支払いの方法は医院ごとに違います。段階ごとに分けて支払うところもあれば、治療を始めるときにまとめて支払うところもあります。いつ、何回に分けて払うのかも、契約の前に確かめてください。
価格差の理由の大半は、誰がその手術を行うか、です
同じ材料を使っても費用が違うのは、誰が計画し、誰が手術するかが違うからです。骨を読み、神経との距離を測り、仕上がりから逆算して埋入位置を決める——その精度は術者によって変わります。

ただ、その精度は外からは見えません。代わりに確認できる手がかりが、4つあります。
費用の差は、多くの場合ここに対応しています。遠慮せずに尋ねて構いません。
安さには理由があります。検査を簡略にする、材料を変える、メインテナンスを別料金にする——どこかに差が出ています。ただし、高ければ安心という意味でもありません。確かめるのは金額ではなく、その根拠です。
費用は途中で変わることがあります
骨の幅や高さ、神経の走り方は、詳しく調べてもなお、進めるなかで判断が変わることがあります。解剖学的な制約が想定より厳しく、計画を変える場合です。
| 変わること | 費用への影響 |
|---|---|
| インプラントの本数 | 本数に応じて増減します |
| 骨を増やす処置の追加 | 種類と範囲によって加わります |
| 矯正治療が入る | 期間も費用も大きく変わります |
治療指針は、治療費の総額、または費用が発生する段階ごとの費用を治療計画に沿って明示し、費用についても同意書を取り交わすよう求めています。見積もりのときに「変わりうる項目と、そのときの金額」まで聞いておいてください。
戻ってくるお金と、保険のこと
インプラントの費用は医療費控除の対象になります。間違えやすいのは、次の点です。
| 支払ったもの | 医療費控除 |
|---|---|
| インプラント治療の費用 | 対象になる |
| デンタルローン(立替払い) | 立替払いがあった年に対象 |
| 電車・バスでの通院費 | 対象になる |
| 自家用車のガソリン代・駐車場代 | 対象にならない |
保険が使える場合もありますが、腫瘍や外傷などで顎の骨を広い範囲で失った場合などに限られ、行えるのは病院だけです。歯周病や加齢による骨の吸収は、対象から除かれています。条文の細かい条件は、歯科医師向けのエビデンス編で扱います。
見積もりをもらったら、ここを見ましょう
ひとつめは、金額そのものより説明と見積もりが一致しているかです。受けた説明にあった治療が書かれていない、あるいは聞いていない項目が並んでいる——そのときは、その場で尋ねてください。
ふたつめは、あとから効いてきます。本数が変わったり骨造成が必要になったりすると、見積もりの金額も、治療にかかる期間も大きく変わることがあります。どの項目が動きうるのかを、先に聞いておいてください。
そして保証は、医院ごとに中身がかなり違います。喫煙している方には骨造成を保証の対象から外す、保証期間を半分にするといった条件を設けている医院もあります。期間だけでなく、何がどこまで対象になるのかを確かめてください。
手術の日からなのか、歯が入ってからなのかで、実際に守られる長さは変わります。上部構造が入り、問題なく噛めるようになった時点から数えるのが、私は誠実なかたちだと考えています。
費用についても、しっかり質問してください
費用を尋ねるのは、値切ることではありません。治療費を治療計画に沿って明示し、費用についても同意書を取り交わすこと——これは、先ほどの日本歯科医学会「歯科インプラント治療指針」が治療する側に求めていることです。納得できるまで聞いて、書面でもらってください。
よくある質問
Q. 保険は使えますか?
A. 基本的には使えません。一部の例外として、腫瘍や外傷などで顎の骨を広く失った場合や、生まれつきの疾患による場合などに限られます。歯周病や加齢による骨の吸収は対象外で、行える医療機関も一部の病院に限られます。
Q. デンタルローンでも医療費控除は受けられますか?
A. 受けられます。ただし、デンタルローンに対応していない医院もあります。また、対象になるのは信販会社が立替払いをした年で、自分が返済していく年ではないのでご注意ください。
Q. 治療の途中で医院を変えられますか?
A. 医院を変えること自体はできます。ただし、移った先の医院にそのメーカーに対応した器具や設備がないと、治療を引き継ぐのが難しくなります。どうしても移る必要があるときは、どのメーカーのどの製品を使ったかが分かる書類をもらっておいてください。
参考にした主な資料
- 独立行政法人国民生活センター「あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか——なくならない歯科インプラントにかかわる相談——」2019年3月14日. リンク
- 日本歯科医学会編「歯科インプラント治療指針」平成25年3月. リンク
- 国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」/「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」. リンク
- 厚生労働省 歯科診療報酬点数表 区分番号J109「広範囲顎骨支持型装置埋入手術」および施設基準
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