インプラント

インプラントとは?構造・仕組み・入れ歯やブリッジとの違いを専門医が解説【第1講】

インプラントの構造:上部構造(人工の歯)・アバットメント(連結部)・フィクスチャー(人工歯根)の3部品の分解図と、骨に埋入された完成形
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歯を1本、失ってしまったとき。歯科医院で提示される選択肢は、たいてい3つです。ブリッジ、入れ歯、そしてインプラント。「インプラントが良いらしい」とは聞くけれど、そもそも何がどう違うのか、なぜあんなに費用がかかるのか——はっきり答えられる方は、じつは多くありません。

この第1講では、口腔インプラント専門医として日々この治療を行っている立場から、インプラントの正体を、仕組みからお話しします。出発点は、いまから70年以上前の、ある「うっかり」の物語です。

ひとことで言うと
インプラントは、失った歯の下の骨にチタンの人工歯根(ネジ)を埋め込み、その上に人工の歯を作る治療です。まわりの歯を傷つけず、見た目も自然で、自分の歯があったときと同じような感覚で噛める——そのぶん、埋め込んだ後の「骨との結合」と「毎日のお手入れ」が主役になる治療です。

この記事のポイント

  • インプラントは「フィクスチャー(人工歯根)・アバットメント(連結部)・上部構造(人工の歯)」の3つの部品でできている
  • チタンが骨と直接結合する現象(オッセオインテグレーション)は、1952年に偶然発見された
  • 10年後も約96%のインプラントが機能していたと報告されている(Howe ら, 2019)——ただし読み方には少しコツがある

うっかり外れなくなった金属の話——インプラントの始まり

1952年、スウェーデンの研究者ブローネマルクは、骨の中の血流を調べるため、ウサギの脚の骨にチタン製の小さな観察装置を埋め込みました。実験が終わり、装置を回収しようとしたとき、思いがけないことが起きます。チタンが骨とがっちり結合して、外れなくなっていたのです。

金属は体にとって異物ですから、本来なら骨とくっつくどころか、排除されるはずです。この「うっかり」から生まれた発見を、彼はオッセオインテグレーション(osseo=骨、integration=統合)と名付けました。そして1965年、世界で初めての患者さんにチタン製インプラントが埋め込まれます。あごの変形で歯を失っていたその方のインプラントは、約40年間、亡くなるまで機能し続けました(Brånemark ら, 1977)。ひとつの偶然が、歯を失った人の人生を変える治療になった瞬間です。

インプラントの構造——3つの部品でできている

インプラントの構造:上部構造・アバットメント・フィクスチャーの3部品の分解図と骨に埋入された完成形
▲ インプラントの3つの部品。左が分解した状態、右が骨の中で組み上がった状態です

現在のインプラントは、基本的に3つの部品でできています。

  • フィクスチャー(人工歯根)——骨に埋め込むチタン製のネジ。直径はおよそ3〜5mm、長さは1cm前後。ここが骨と結合します。
  • アバットメント(連結部)——フィクスチャーと人工の歯をつなぐ土台。
  • 上部構造(人工の歯)——実際に見えて、噛む部分。セラミックなどで作ります。
インプラント体と単4形乾電池の大きさ比較写真。インプラント体は乾電池よりはるかに小さい
▲ 実際のインプラント体(フィクスチャー)と単4形乾電池の比較。「骨にネジを埋める」と聞くと大がかりに感じますが、実物は乾電池よりずっと小さな精密部品です
上顎前歯部インプラントの症例写真:左はアバットメント装着時、右はセラミックの人工歯装着後
▲ 実際の症例:左=アバットメント(連結部)を取り付けたところ、右=セラミックの人工の歯を装着した完成時。となりの天然の歯と見分けがつかない仕上がりです。
治療内容:上の前歯1本のインプラント治療(自費診療)/期間:埋入から完成まで数か月/主なリスク:術後の腫れ・痛み、清掃不良によるインプラント周囲炎など。掲載はご本人の同意を得ています。

よく「インプラント=白い歯」とイメージされますが、主役は見えないフィクスチャーのほうです。ここが骨としっかり結合するかどうかに、治療の成否がかかっています。ちなみに、チタンやセラミックでできたインプラントは虫歯には二度とかかりません——ただし後述するとおり、歯周病に似た病気にはかかります。

なぜ、骨とくっつくの?

チタンの表面には、空気に触れた瞬間にごく薄い酸化膜ができます。この膜のおかげでチタンは体の中でも「異物」として攻撃されにくく、骨を作る細胞が表面にじかに骨を作っていけるのです。埋め込んでから数か月かけて、骨の細胞がフィクスチャーの表面に少しずつ新しい骨を築き、最終的に顕微鏡レベルで骨とチタンが直接接触した状態——オッセオインテグレーション——が完成します(この治癒の中身を深掘りしたい方は、姉妹記事「オッセオインテグレーションの科学【エビデンス編】」へ)。

オッセオインテグレーションの拡大図:チタンインプラント表面に骨の細胞が直接結合している様子
▲ 拡大イメージ:骨の細胞がチタン表面にじかに骨を作り、すき間なく結合していきます
インプラント埋入直後(左)と数か月後・人工の歯装着後(右)のデンタルX線写真
▲ 実際の症例:左=インプラント埋入直後、右=数か月後に人工の歯を装着したところ。ネジ状の人工歯根が骨の中でしっかり噛む力を支えています。
治療内容:奥歯1本のインプラント治療(自費診療)/期間:埋入から人工の歯の装着まで数か月/主なリスク:術後の腫れ・痛み、まれに神経損傷、清掃不良によるインプラント周囲炎など。掲載はご本人の同意を得ています。

接着剤もセメントも使っていないのに、骨そのものが金属を抱え込んで固定する。だからインプラントは、入れ歯のように動いたり外れたりせず、自分の歯のような感覚で噛めるのです。

入れ歯・ブリッジと、どう違うの?

ここが一番知りたいところだと思います。3つの治療の違いを、できるだけ公平に並べてみます。

インプラント ブリッジ 入れ歯(部分床義歯)
まわりの歯 削らない 両隣を大きく削る バネをかける歯に負担
噛む感覚 自分の歯に近い 比較的自然 動き・違和感が出やすい
治療期間 数か月〜 数週間 数週間
外科手術 必要 不要 不要
費用 自費(高額) 保険適用あり 保険適用あり
寿命の傾向 10年で約96%が機能 支えの歯の状態に依存 調整・作り直しが前提
▲ どれが「上」ではなく、お口の状態と生活に合うものを選ぶのが正解です

大切なのは、インプラントが常に最善とは限らないということです。実際の診療での例をひとつ。

専門医の臨床から|あえてインプラントを選ばなかった症例
歯周病で歯を失った方で、手が不自由なため、ご自身での歯みがきがどうしても難しい状況でした。インプラントは天然の歯と同じように、清掃が行き届かないとインプラント周囲炎という病気で失われてしまう可能性が高くなります。長く快適に使っていただくことを最優先に考え、この方には入れ歯を選択しました。「入れられるか」ではなく「長く守れるか」——専門医はそれを判断基準としています。

インプラントは何年もつの?

世界中の追跡研究をまとめた解析では、埋入から10年後も約96%のインプラントが機能していたと報告されています(Howe ら, Journal of Dentistry 2019)。ただ、この論文の誠実なところは、途中で追跡できなくなった患者さんを厳しめに数え直すと約93%まで下がる、と自ら示している点です。それでも10本に9本以上が10年働いている計算で、これは歯科治療全体で見てもかなり優秀な成績です。

「高齢だと難しいのでは?」という心配については、65歳以上の方でも高い成績が報告されています。詳しくはインプラント大学トップのFAQをご覧ください。

治療後こそ、本番——メインテナンスの話

インプラント自体は虫歯になりません。でも、油断は禁物です。クリーニングを怠ると、歯ぐきと骨が壊れていくインプラント周囲炎——歯周病によく似た病気——にかかることがあります。インプラントを長持ちさせる鍵は、手術の腕前だけでなく、その後の毎日のお手入れと定期メインテナンスにあります(この話は第5講でじっくり扱います)。

インプラントを慎重に考えたほうがよいケース

  • あごの骨が成長中の10代など成長期の方(矯正用の一時的なミニインプラントを除く)
  • 歯周病の治療が終わっていない方(まず歯周病治療が先です)
  • ご自身でもご家族でも、毎日の清掃がどうしても難しい方
  • 糖尿病などの全身疾患が管理されていない方(管理できていれば可能性は十分あります)

安心して読んでほしいこと

インプラントは「特別な人の特別な治療」ではなく、仕組みのわかっている、歴史60年の確立された治療です。同時に、外科手術であり、費用も期間もかかる決断です。この大学の講義を順に読んでいけば、判断に必要な材料はすべて揃うように作っています。焦らず、納得してから決めてください。


よくある質問(FAQ)

Q. 手術をしたその日に、歯も入りますか?

A. 条件が揃えば当日に仮の歯を入れられる場合もありますが、すべての症例で可能なわけではありません。骨の質や噛み合わせによっては、骨との結合を数か月待ってから歯を入れるほうが確実です。ここは診査のうえでの判断になります。

Q. 総入れ歯ですが、インプラントは関係ない話ですよね?

A. そんなことはありません。少ない本数のインプラントで入れ歯をカチッと固定する「インプラントオーバーデンチャー」という方法があり、外れやすい・噛めないという総入れ歯の悩みを大きく改善できることがあります。

Q. 保険はききますか?

A. 原則としてききません(自費診療です)。例外は、生まれつき多くの歯がない場合や、腫瘍・外傷であごの骨を大きく失った場合など、ごく限られた条件のときだけです。費用の内訳は第3講で詳しく解説します。

Q. 金属アレルギーがあっても大丈夫ですか?

A. インプラントに使われるチタンは、金属の中でもアレルギーを起こしにくい素材として知られています。ただし心配な方は、事前にアレルギー検査を受けてから判断する方法がありますので、歯科医師にご相談ください。

参考にした主な文献

  1. Brånemark P-I, Hansson BO, Adell R, et al. Osseointegrated implants in the treatment of the edentulous jaw. Experience from a 10-year period. Scandinavian Journal of Plastic and Reconstructive Surgery, Supplementum 1977; 16: 1-132.
  2. Howe M-S, Keys W, Richards D. Long-term (10-year) dental implant survival: A systematic review and sensitivity meta-analysis. Journal of Dentistry 2019; 84: 9-21.
  3. Srinivasan M, Meyer S, Mombelli A, Müller F. Dental implants in the elderly population: a systematic review and meta-analysis. Clinical Oral Implants Research 2017; 28(8): 920-930.
さらに詳しく(歯科医師・詳しく知りたい方向け)
骨とチタンが結合していく治癒のメカニズム、安定性の谷(stability dip)、荷重時期の科学的分類は、オッセオインテグレーションの科学【エビデンス編】で解説しています。

執筆・監修:林 剛永(Taketo Hayashi / Kangyeong Lim)

日本・米国の両方の歯科医師免許を持つ現役歯科医師(口腔インプラント専門)。プロフィール詳細はこちら


ABOUT ME
林剛永 D.D.S., M.S., DABOI
2015年 大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院での研修、約4年間の開業医勤務を経て、2020年より米国カリフォルニア州 Loma Linda大学大学院に留学し、インプラント歯科学を専攻・修了。ABOI/ID(米国口腔インプラント学会)ボード認定医(Diplomate)。現在は、インプラント治療を中心に臨床に従事しています。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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