衛生

持ち手つきフロスと糸巻きフロス、どっちがいい?——臨床試験の答え

ホルダー型フロス(フロスピック)と糸巻き型フロスの比較イラスト。左はY字型の持ち手つきフロス、右はケースから糸を引き出して指に巻く様子で、HOLDERとSTRINGのラベルつき

フロス売り場に行くと、大きく2つのタイプが並んでいます。持ち手のついたホルダータイプ(フロスピック)と、ケースから糸を引き出して指に巻いて使う糸巻きタイプ(ロールフロス)。歯科医院では「指に巻くタイプのほうがいい」と言われた経験のある方も多いはずです。でも、本当にそうなのでしょうか?

じつはこの疑問、実際に人で比べた臨床試験がいくつかあります。結論は、多くの方にとって少し意外なものです。

ひとことで言うと
持ち手つきと糸巻きを直接比べた臨床試験では、汚れの落ち方にも歯ぐきの改善にも、統計的な差は見つかっていません。プロの技術で使えば糸巻きに理があるのは確かですが、データが教えてくれる答えはシンプルです——「あなたが毎日続けられるほう」が正解。

この記事のポイント

  • 2つの臨床試験(クロスオーバー試験と2集団での比較試験)で、ホルダー型と指巻き型の効果は同等でした。
  • むしろ試験参加者の55%はホルダー型のほうを好んだ——続けやすさは効果の一部です。
  • ただし使い方の質は道具の差より大きい。それぞれの「正しい使い方」も解説します。
ホルダー型フロス(フロスピック)と糸巻き型フロスの比較イラスト。左はY字型の持ち手つきフロス、右はケースから糸を引き出して指に巻く様子で、HOLDERとSTRINGのラベルつき
▲ 左:ホルダー型(フロスピック)/右:糸巻き型(ロールフロス)。効果は同等——だから「続くほう」を選ぶ

臨床試験は何を比べて、何がわかったのか

代表的な試験がふたつあります。

ひとつめは、歯周病学の国際誌に載ったクロスオーバー試験(Carter-Hanson ら, J Clin Periodontol 1996)。ふだんフロスを使っていない30人が、ホルダー型と指巻き型をそれぞれ30日ずつ(間に14日の休止期間を挟んで)両方使い、プラーク・歯ぐきの炎症・出血・歯ぐきの傷を測りました。結果は——どちらの方法でも、プラークも炎症も出血も有意に改善(p<0.01)。そして両者の間に統計的な差はどの時点でもなし。歯ぐきの傷も、どちらでも問題になりませんでした。おもしろいのはその先で、参加者の55%はホルダー型のほうを好んだと報告されています。

ふたつめは、歯学生36人と歯周病治療中の患者26人で行われた比較試験(Pucher ら, Quintessence Int 1995)。こちらも6週間の追跡で、どちらの方法でも歯間の炎症とプラークは有意に減り、方法の間に有意差なし。著者らは「手先の器用さに自信がない人や、フロスを面倒に感じる人には、ホルダー型が役立つだろう」と結んでいます。

この結果の読み方
「差がなかった」は「どちらでもいい加減でいい」という意味ではありません。正しい使い方を教わったうえで比べたら、道具の形による差は出なかった——ということです。裏を返せば、勝負を分けるのは道具ではなく、使い方と続くかどうかです。

では、どう選ぶ?——それぞれの得意分野

ホルダー型(フロスピック) 糸巻き型(ロールフロス)
向いている人 初めての方・お子さん・仕上げみがきをする保護者・手先に自信のない方 慣れている方・すみずみまでこだわりたい方
操作 片手でOK。奥歯はY字型が届きやすい(F字型は前歯向き) 両手を使う。慣れが必要だが歯面に沿わせる自由度が最も高い
清潔さ 同じ糸の部分を使い続けることになりやすい→数か所ごとにすすぐ/汚れたら新しい1本に 歯間ごとに新しい区間の糸を使える
コスト 1本あたりは割高 1回あたりは最安
▲ 効果は同等。違いは「操作性・清潔さ・コスト」の3点で、生活に合うほうを選べばよい

どちらを選んでも、押さえるべきコツは同じです。糸を歯の側面にC字に沿わせて、上下にこすること(パチンと勢いよく歯ぐきに落とさない)。そして1つの歯間につき、左右両方の歯面をこすること。ホルダー型でも、この動きは十分にできます。

「フロス自体、効果が低いのでは?」という話について

正直な情報もお伝えしておきます。歯間ケアの道具どうしを横並びで比べたネットワーク・メタアナリシス(Kotsakis ら, J Periodontol 2018、22試験・10種類の道具)では、歯ぐきの炎症を減らす効果の順位づけで歯間ブラシとウォータージェット(口腔洗浄器)が上位となり、フロスとつまようじは下位でした。

ではフロスは無意味かというと、そうではありません。この解析でもフロスは「何もしない」よりは歯ぐきの炎症を減らしていますし、そもそも歯間ブラシは歯間に隙間がないと入りません。歯ぐきが健康で歯間の詰まった若い方の第一選択は、いまもフロスです。隙間のない歯間はフロス、隙間ができてきたら歯間ブラシ——と覚えてください。詳しくは「フロスが先?歯ブラシが先?」もどうぞ。

そのほかのフロスたち——種類と使い分け

売り場にはホルダー型・糸巻き型のほかにも、いくつかの「変わり種」があります。じつはこれらは思いつきの商品ではなく、それぞれ守備範囲がはっきり決まった道具です。

ワックスあり・なし・PTFE(すべりやすい糸)——効果はどれも同等

糸そのものの種類も気になるところですが、ここは結論が出ています。4種類の糸(ワックスあり・ワックスなし・織り糸・ほつれにくいタイプ)を同じ人が順番に使って比べた試験(Carr ら, Am J Dent 2000、24名)では、プラーク除去率に有意差なし。一方で使い心地には差があり、ほつれにくいタイプが最も快適(VAS 6.99)、ワックスなしが最も不快(4.29)でした。

つまりここも「効果で選ぶ」必要はありません。詰め物に引っかかりやすい方・初心者はワックスつきやPTFE(すべる糸)、細かい感触で汚れを確かめたい上級者はワックスなし、で十分です。

スーパーフロス——ブリッジ・矯正・インプラントの専用装備

いちばん知られていない実力者がこれです。スーパーフロスは1本の糸が3つの部分でできています。①先端の硬い「通し糸」(ブリッジの下や矯正ワイヤーの下に差し込むための、糸を針のように硬くした部分)、②中央のスポンジ部(ふくらんだ繊維が広い面の汚れをからめ取る)、③ふつうのフロス部

下の歯列でスーパーフロスを使っている図。頬側から入れた白いフロス(FLOSS)がポンティック1本の真下だけをスポンジ部(SPONGE)で掃除し、濃紺の通し糸(THREADER)が舌側(歯列の内側)に抜けて上の指でつままれている
▲ スーパーフロスの使い方のイメージ。頬側から通し糸ですき間に入れ、ダミーの歯の真下だけをスポンジ部(SPONGE)でぬぐい、糸は舌側へ抜ける。ブリッジは固定されたまま掃除できる

ふつうのフロスは歯と歯が接するところに「上から」入れる道具なので、ブリッジのようにつながった被せ物の下には入れません。スーパーフロスは通し糸で「横から」入れることでこの問題を解決します。

データもあります。古典的なクロスオーバー試験(Wong & Wade, J Clin Periodontol 1985、34名)では、スーパーフロスがワックスつきフロスより歯間の清掃で優れていました(プラーク残存面 49.9% vs 54.7%)。矯正治療中の患者34名のRCT(Sawan ら, Int J Dent 2022)でも、プラーク指数を0.56→0.13まで下げ、ウォーターフロッサーと同等の効果(p=0.951)でした。

こんな方はスーパーフロス(または類似品)を

  • ブリッジが入っている方(ダミーの歯の下面は汚れの巣になりやすい)
  • 矯正装置(ワイヤー)がついている方
  • インプラントや連結冠のまわりを掃除したい方

ふつうのフロスに「通し糸」だけを後づけするフロススレッダーという道具もあります。手持ちのフロスを使いたい方はこちらでも同じことができます。

あなたの状況 第一候補 ひとこと
特に治療物なし・初めて ホルダー型(ピック) まず習慣化。奥歯はY字型
特に治療物なし・慣れてきた 糸巻き型(ワックスつき/PTFE) 清潔さ・コスパ・自由度で最良
ブリッジ・矯正・インプラント スーパーフロス(+スレッダー) 「横から入れる」ための専用設計
歯間に隙間ができてきた 歯間ブラシ サイズは歯科医院で。フロスとの併用も可
詰め物に糸が引っかかる PTFE(すべる糸) 毎回同じ場所で切れるなら受診を(詰め物の縁の破損サイン)
▲ 種類ごとの「守備範囲」早見表。迷ったら次の定期健診で口の中に合わせて選んでもらうのが確実です

安心して読んでほしいこと

「ピックタイプは邪道」と感じて、罪悪感を持ちながら使っている方が案外多いのですが、データを見る限りその罪悪感は不要です。続かない完璧な方法より、続くまあまあの方法のほうが、歯は確実に守られます。洗面台にロールフロス、リビングやオフィスにピック、という「置き分け」もおすすめです。使っていて糸が同じ場所で毎回引っかかる・切れる場合は、詰め物の縁が壊れているサインのことがあるので、一度歯科医院で見てもらってください。


よくある質問(FAQ)

Q. 歯医者さんに「指巻きのほうがいい」と言われました。間違いですか?

A. 間違いではありません。糸巻き型は歯面に沿わせる自由度が最も高く、プロが理想の動きを追求するなら糸巻きです。ただし臨床試験では、正しく使えばホルダー型でも結果(プラーク・炎症の改善)は同等でした。技術に自信がなければ、ホルダー型で毎日続けるほうが実利は大きい——というのがデータの示すところです。

Q. ホルダー型は同じ糸を使い回して不潔になりませんか?

A. もっともな心配で、ここが糸巻き型との実質的な違いです。対策は、数か所ごとに糸の部分を水ですすぐこと、糸がけば立ったり汚れが目立ったら新しい1本に替えること。1本のピックで全部の歯間を無理に済ませようとしないのがコツです。

Q. 子どもにはどちらがいいですか?

A. ホルダー型が現実的です。保護者が仕上げで使う場合も、片手で操作できるホルダー型のほうが安全で続けやすいです。子ども用の小さなピックも市販されています。デビューの目安は、歯と歯が接している箇所ができてきたとき(乳歯の奥歯どうしなど)です。

Q. フロスと歯間ブラシはどう使い分けますか?

A. 歯間に隙間がなければフロス、隙間ができてきたら歯間ブラシが基本です。歯ぐきが下がって隙間のできた部位には、ネットワーク・メタアナリシスで上位だった歯間ブラシが向きます。サイズ選びを誤ると歯ぐきを傷めるので、最初のサイズは歯科医院で合わせてもらってください。

Q. ブリッジや矯正中でもフロスは使えますか?

A. 使えます——ただし道具を替えてください。つながった被せ物や矯正ワイヤーの下には、ふつうのフロスは上から入りません。先端に硬い通し糸のついたスーパーフロス(またはフロススレッダー)なら横から通せます。矯正患者さんのRCTでもウォーターフロッサーと同等の清掃効果が確認されています。


参考にした主な文献

  1. Carter-Hanson C, Gadbury-Amyot C, Killoy W. Comparison of the plaque removal efficacy of a new flossing aid (Quik Floss) to finger flossing. Journal of Clinical Periodontology 1996;23(9):873-878. doi:10.1111/j.1600-051x.1996.tb00626.x
  2. Pucher J, Jayaprakash P, Aftyka T, Sigman L, Van Swol R. Clinical evaluation of a new flossing device. Quintessence International 1995;26(4):273-278. PMID: 7568747
  3. Kotsakis GA, Lian Q, Ioannou AL, Michalowicz BS, John MT, Chu H. A network meta-analysis of interproximal oral hygiene methods in the reduction of clinical indices of inflammation. Journal of Periodontology 2018;89(5):558-570. doi:10.1002/JPER.17-0368
  4. Worthington HV, MacDonald L, Poklepovic Pericic T, ほか. Home use of interdental cleaning devices, in addition to toothbrushing, for preventing and controlling periodontal diseases and dental caries. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019;(4):CD012018. doi:10.1002/14651858.CD012018.pub2
  5. Carr MP, Rice GL, Horton JE. Evaluation of floss types for interproximal plaque removal. American Journal of Dentistry 2000;13(4):212-214. PMID: 11763934
  6. Wong CH, Wade AB. A comparative study of effectiveness in plaque removal by Super Floss and waxed dental floss. Journal of Clinical Periodontology 1985;12(9):788-795. doi:10.1111/j.1600-051x.1985.tb01404.x
  7. Sawan N, Ben Gassem A, Alkhayyal F, ほか. Effectiveness of Super Floss and water flosser in plaque removal for patients undergoing orthodontic treatment: a randomized controlled trial. International Journal of Dentistry 2022;2022:1344258. doi:10.1155/2022/1344258

執筆・監修:林 剛永(Taketo Hayashi / Kangyeong Lim)

日本・米国の両方の歯科医師免許を持つ現役歯科医師(口腔インプラント専門)。プロフィール詳細はこちら

※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は歯科医院にご相談ください。

ABOUT ME
林剛永 D.D.S., M.S., DABOI
2015年 大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院での研修、約4年間の開業医勤務を経て、2020年より米国カリフォルニア州 Loma Linda大学大学院に留学し、インプラント歯科学を専攻・修了。ABOI/ID(米国口腔インプラント学会)ボード認定医(Diplomate)。現在は、インプラント治療を中心に臨床に従事しています。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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