キンキンに冷えた飲み物や、アイスをひと口食べた瞬間、奥歯に「キーン」と走る歯の痛み。思わず口をおさえてしまう——冷たいものがしみる経験は、多くの方が一度はしているのではないでしょうか。
この「冷たいものでしみる」も、じつは歯からのサインです。ほとんどは心配のいらない知覚過敏ですが、なかにはむし歯や神経の炎症が隠れていることもあります。ここでは、しみる仕組みと3つの原因、見分け方、そしておうち・歯科でできることを順番にお話しします。
冷たいものでしみる主な原因は、知覚過敏・むし歯・歯髄(神経)の炎症の3つ。しみが「その一瞬だけ」なら知覚過敏のことが多く、まずはセルフケアで様子を見られます。ただし、刺激を取り除いても痛みが長く続く・ズキズキするといったときは、むし歯や歯髄炎が進んでいるサインかもしれません。数日たっても変わらなければ、早めに歯科でみてもらいましょう。
この記事のポイント
- 冷たいものでしみるのは、露出した象牙質を通じて刺激が神経に届くから(動水力学説)
- 原因は主に3つ。「しみ方・痛みの続き方」で当たりをつけられるが、確定には診察が必要
- 知覚過敏用の歯みがき剤やフッ化物など、自宅でできる対策もある
目次
なぜ、冷たいものでしみるの?

歯の表面はふだん、硬いエナメル質で守られています。ところが、強い力の歯みがきで表面が削れたり、歯ぐきが下がって根元が出てきたりすると、その内側にある象牙質がむき出しになります。象牙質には「象牙細管」という無数の細い管が通っていて、その先は歯の神経(歯髄)につながっています。
ここに冷たいものが触れると、温度の変化で管の中の液体が動き、その動きが神経を刺激します。これが、あの一瞬の鋭いしみの正体です。「動水力学説(hydrodynamic theory)」と呼ばれ、冷たいものだけでなく、甘いものや酸っぱいものでしみる仕組みも同じように説明できる、いまいちばん受け入れられている考え方です(Ren ら, BMC Oral Health 2020)。
つまり冷たいものでしみるのは、象牙質が露出しているか、むし歯などで刺激が神経に近づいていることのあらわれ、というわけです。
しみる原因は、大きく3つ

① 知覚過敏(象牙質知覚過敏)
いちばん多いのがこれです。冷たいものに触れたその瞬間だけ「キーン」としみて、口をゆすいだり少し待ったりするとスッと引くのが特徴。専門的にも「露出した象牙質に温度・接触・甘味などの刺激が加わったときの一過性の痛みで、ほかの歯の病気では説明できないもの」と定義されています(Holland ら, 1997)。原因やケアのくわしい話は「象牙質知覚過敏とは」にまとめています。
② むし歯(う蝕)
むし歯が象牙質まで進むと、冷たいものや甘いものでしみるようになります。歯に穴があいていたり、茶色〜黒っぽい変色があったりすることが多く、進み具合によって治療の内容も変わります。気になる方は「虫歯(う蝕)とは」もあわせてどうぞ。
③ 歯髄炎(神経の炎症)
むし歯がさらに奥の神経(歯髄)まで達すると、歯髄炎になります。こうなると冷たいものへの痛みが刺激を取り除いた後も長く続く・何もしなくてもズキズキ痛む・夜に痛むようになります。くわしくは「歯髄炎とは」をご覧ください。
ざっくりした見分けの目安として、「冷たいものに触れた一瞬だけ」なら知覚過敏寄り、「穴や黒ずみがある・噛むと痛い」ならむし歯が進んでいるサイン、「刺激を取り除いても痛みが長く続く・夜も痛む」なら歯髄炎の疑い、と考えるとイメージしやすいと思います。とはいえ、これはあくまで目安。自己判断は難しいので、はっきりさせるには歯科での診察が必要です。
おうちでできること
「冷たいものに触れた一瞬だけしみる」タイプなら、まずは次のようなセルフケアで様子をみられます。
- 知覚過敏用の歯みがき剤を使う:硝酸カリウム入りのものは神経の過敏な反応をやわらげ、フッ化物入りのものは象牙細管をふさいだり再石灰化を助けたりします(Ren ら, 2020)。2週間ほど続けて使うのがコツです。
- 力を抜いて、やさしく磨く:硬い歯ブラシでゴシゴシ横磨きすると、かえって象牙質の露出が進みます。やわらかめのブラシで、なでるくらいの力で。
- 酸っぱいものの直後の歯みがきは少し待つ:炭酸・柑橘・スポーツ飲料などのあとはエナメル質が一時的にやわらかくなっています。30分ほどおいてから磨くと安心です。
- フッ化物を味方につける:フッ化物はむし歯予防と再石灰化に効果がはっきりしている成分です(厚生労働省 e-ヘルスネット ほか)。
ただし、数日ケアを続けてもよくならない、むしろ痛みが強くなる——そんなときは、むし歯や歯髄炎が隠れている可能性があります。無理をせず受診してください。
歯医者さんでは、どんな治療をするの?
原因によって対処は変わりますが、おおまかには次のような流れです。
- 知覚過敏:しみ止めの薬剤(フッ化物やシュウ酸塩など)を塗ったり、露出した部分をコーティング材やレジンで覆ったりします。なかなか改善しないケースではレーザーを当てて象牙細管をふさぎ、神経の反応を落ち着かせる方法もあり、複数の研究をまとめた解析でも症状をやわらげる効果が報告されています(Sgolastra ら 2013 ほか)。歯ぐきが下がっているときは、その対応も検討します。
- むし歯:むし歯の部分を取り除いて、詰め物や被せ物で修復します。
- 歯髄炎:炎症が元に戻らないところまで進んでいる場合は、神経を取る治療(歯内療法)が必要になることもあります。
- 冷たいものへの痛みが、刺激を取り除いた後も長く続く
- 何もしなくてもズキズキ痛む/夜になると痛む(自発痛)
- 噛むと痛い、歯に穴や黒ずみがある
- 熱いものもしみるようになってきた
安心して読んでほしいこと
冷たいものがしみると「むし歯かも、神経を取るのかも…?」と不安になりがちですが、実際にはいちばん多いのは知覚過敏で、セルフケアや簡単な処置で落ち着くことがほとんどです。大切なのは、「一瞬でおさまるしみ」なのか「刺激を取り除いても続く痛み」なのかを見きわめて、気になるときは早めに相談すること。早い段階ほど、治療もシンプルにすみます。
よくある質問(FAQ)
Q. どうして冷たいものでしみるの?
A. 冷たい刺激で露出した象牙質の細い管(象牙細管)の中の液が動き、その刺激が神経に伝わって一瞬しみます(動水力学説)。甘いものや酸っぱいものでしみるのも同じ仕組みです。
Q. 冷たいものがしみるのは、むし歯のサインですか?
A. むし歯のこともありますが、いちばん多いのは知覚過敏です。穴や黒ずみがある、噛むと痛い、痛みが長く続くといったときはむし歯や歯髄炎が疑われるので、歯科で確かめるのが安心です。
Q. 冷たいものへのしみは自然に治りますか?
A. 軽い知覚過敏なら、やさしい歯みがきや知覚過敏用歯みがき剤で落ち着くことがあります。ただし数日〜2週間ケアしても変わらない、強くなるときは受診してください。
Q. 市販の知覚過敏用歯みがきは効きますか?
A. 硝酸カリウムやフッ化物入りの製品は効果が示されています。ただし、まず「むし歯ではないか」を確かめることが大切。しばらく使っても変わらないときは歯科へ相談してください。
参考にした主な文献
- Ren Y-F, et al. Pathogenesis, diagnosis and management of dentin hypersensitivity: an evidence-based overview. BMC Oral Health. 2020.
- Brannstrom M. The hydrodynamic theory of dentinal pain.(動水力学説の原典)
- Holland GR, et al. Guidelines for the design and conduct of clinical trials on dentine hypersensitivity. J Clin Periodontol. 1997.(知覚過敏の定義)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「フッ化物」/ 日本歯科保存学会 診療ガイドライン
- Sgolastra F, et al. Lasers for the treatment of dentin hypersensitivity: a meta-analysis. 2013 / BMC Oral Health. 2024(scoping review).
