目次
治療した歯が痛い理由
歯医者さんで治療したはずなのに歯が痛いのはなぜ?と思いますよね?
怒りがこみ上げるお気持ちはよくわかりますが、その理由は以下のようなものがあります。
・象牙質知覚過敏
・虫歯の取り残し
・急性歯髄炎
以下ではそれぞれの理由について解説していきます。
象牙質知覚過敏とは
知覚過敏は歯の表面部分のエナメル質が何らかの原因で傷つき、削れてしまう事によって象牙質が露出し、象牙質にさまざまな刺激が加わって、象牙細管⇒歯髄神経⇒脳に刺激が伝わり、「ズキン!」といった歯がしみる症状へと繋がります。
歯の治療後、稀に象牙質が露出した面ができることにより歯がしみる症状が出ることがあります。象牙質が露出しているかどうかを肉眼やマイクロスコープで発見することは、厳密にはできません。
また、痛みの感覚は人によって異なるため、象牙細管が露出したからといって必ずしも知覚過敏が起こるわけでもありません。
象牙質知覚過敏の原因
象牙質知覚過敏症の原因は、まだ不明な点も多いですが、主として象牙細管の開口によって、細管内の組織液が動き神経を刺激することという動水力学説が広く受け入れられています。
細管内の組織液の移動は、エナメル質の欠損、歯頸部歯肉の退縮などによる根面露出を引き起こす様々な事象に由来します。
象牙質知覚過敏の自宅でできる対処法
知覚過敏用歯磨き粉を使う
知覚過敏は1日も早く歯科医に行って診察を受ける事が大切ですが、忙しい人にとってはなかなか歯医者さんに行く事もできないかもしれません。
そんなときに自宅で試したいのが『知覚過敏用歯磨き粉』、いわゆる「シュミテクト」などの知覚過敏用の歯磨き粉は、硝酸カリウム(カリウムイオン)という薬用成分が露出した象牙質をカバーし、象牙細管へ刺激が伝わらないようにし、使用を続ければ「歯がしみる」症状が緩和される事が期待できるのです(使用をやめれば再び歯がしみる可能性はあります)。
症状が軽ければこのような歯磨き粉を使用するだけで症状が改善、解消することも珍しくありませんが、1~2週間ほど知覚過敏用歯磨き粉を使用しても効果がなかった場合は虫歯の可能性もありますし、知覚過敏+歯周病の可能性も十分考えられますので、自宅でのケアを諦めて1日も早く歯科医に行きましょう。
象牙質知覚過敏の治療法
動水力学説に基づき、象牙質表面を被覆する方法や、象牙細管を閉塞させることにより、刺激を遮断することが処置の基本方針となります。
①薬物の塗布(塩化亜鉛や硝酸銀、アンモニア銀、フッ化ジアミン銀、フッ化ナトリウム、タンニン・フッ化物、塩化ストロンチウム、パラホルムアルデヒド等)
②象牙質の被覆(グラスアイオノマーセメントやレジン、高分子被膜、バーニッシュなどにより、露出象牙質を被覆する)
③レーザーによる神経の鈍麻や、象牙質の溶解、組織液の凝固など。
④イオン導入法(亜鉛イオンやフッ素イオン))
⑤抜髄処置(他の手段で症状が消失しない場合)
治療のイメージ
虫歯の取り残しについて
歯科医院で治療を受けた際、虫歯が完全に除去されないまま修復されることがあります。
すると、原因が除去されていないため、治療したにもかかわらず、痛みが残ることがあります。
これに関しては、基本的にはう蝕は取り切ることが前提なのですが、必ずしも取り残し=取り忘れとはならず、
あまりにもう蝕が神経に近い場合などは神経の露出を避けるため、あえて虫歯を取り切ることをせず、抗菌作用のある薬を置くなどしてそのまま修復することもあります。(シールドレストレーション)
上記の治療は、なんとか神経の保護をしたいという目的で行うものですが、もし痛みが残る場合は、神経に細菌が入り込み、炎症を起こしている可能性が高いので神経を取る治療に移行しなければならない可能性があります。
虫歯が取り切れたかどうかをある程度確認する方法はいくつかありますが、厳密に神経にまで細菌が到達しているかどうか、もしくは歯質の中に細菌が入り込んでいるかは顕微鏡やCTなどを使ってもみることはできません。どうしても見たければ、歯を抜いて切片にしてみるしかありませんが、それは治療を行う上では不可能なことなので、虫歯が取り切れたかどうかは、最終的には痛みがなくなるかどうか、経過観察をしてみるしかありません。
虫歯(う蝕)とは
う蝕(齲蝕・うしょく)とは、口腔内の細菌が糖質から作った酸によって、歯質が脱灰されて起こる、歯の実質欠損のことです。歯周病と並び、歯科の二大疾患の一つで、う蝕が進行して歯に穴ができていることが目に見えてわかる状態になった場合、その穴をう窩と呼びます。
虫歯の種類
虫歯は進行具合によって5種類に分けられています。
以下順番に解説していきます。
C0
表面一層だけが脱灰(石灰化が弱められている状態)していますが、歯の実質欠損(歯の一部が喪失していること)はない状態です。この状態であれば、しっかりと日々のお手入れをすれば唾液の作用によって”再石灰化”が期待できます。
脱灰している部分は白く白濁して見えます。
C1
虫歯による歯の実質欠損がエナメル質だけにとどまっている状態を言います。
この段階ではしみるなどの痛みの症状はなく、普通この段階では治療を行うことはありません。
この段階で歯を削ってしまうと治療によって得られるメリットよりも、歯を削りすぎてしまうデメリットの方が大きいからです。
C2
虫歯がエナメル質を通過して内部の象牙質にまで達した状態です。
ここまで進むと冷たいものや歯磨きでしみたりする症状が出てきます。
大きさによってはこの段階で治療の必要性が出てきます。
C3
虫歯が象牙質の下の歯髄にまで達した状態です。
この段階では歯髄が炎症を起こし、冷たいものや熱いものがしみたり、噛むと痛かったり、何もしなくてもズキズキ痛かったり、夜寝られないほど痛かったりなど様々な症状が出てきます。
この段階まで来ると必ず治療が必要となります。
C4
C3からさらに進行して、歯の歯冠(歯の口の中に出ている部分)が虫歯によって崩壊している状態を言います。ここまでくると神経は完全に死んでしまい、C3までにあった痛みは消失していることが多いです。
歯科医院による治療が必要ですが、ここまでくると進行の程度によっては歯を抜く必要があります。
虫歯(う蝕)の原因
感染が最初の原因ではあるがさまざまな菌が関わっており、共生しているため特定の菌に原因を求めるのは難しく、食や唾液の分泌などもかかわるため、「食」生活習慣病とも考えられます。
特に原因菌として注目されているのはS.mutansです。
虫歯(う蝕)の治療法
冷たいものがしみるが、神経にまで到達していなければC2と呼ばれる状態です。
ここでは、C2の状態の治療法について説明します。
C2は、エナメル質の下にある「象牙質」に虫歯が進行した状態で、虫歯が歯の中で大きく広がっています。虫歯が神経に近づくにつれて、冷たいものや熱いもの、甘いものがしみるようになります。
C2以降は歯科医院にて処置を受けない限り治ることはありません。
ただし、虫歯になってしまっても歯磨きをきちんとすれば進行を遅らせることはできるので諦めずにしっかりと歯磨きをするようにしましょう。
治療では、虫歯になっている部分を取り除き、コンポジットレジンでその場で詰めるか、詰め物(インレー)や被せ物(アンレー、クラウン)を入れるための歯型を取ります。詰め物が完成するまでは仮の詰め物を入れ、2回目の受診時に、完成した詰め物と交換します。このため、インレーによる詰め物の治療は、最短でも2回かかります。
治療のイメージ
急性歯髄炎とは
歯髄炎は歯の中の歯髄(神経や血管などで出来た歯の骨髄みたいなもの)が炎症を起こして腫れている状態です。歯髄炎による激痛になると夜も眠れないほどになることもあります。
治療中のドリルの熱や、歯質が削られて刺激に弱くなると、冷たいものを飲むなどの刺激で炎症を起こす可能性があります。
初期の歯髄炎であれば、歯髄炎を起こしている原因を取り除いた上で安静にする(歯髄に神経を与えるようなことをしない)ことで神経を抜く処置をしなくても治る場合があります。
歯髄炎の原因
外からの様々な刺激が、歯髄に加わることによって歯髄炎が生じます。しかし、刺激の性質や強さと、それらに対する歯質の性状や歯髄の抵抗力とのバランスの関係で、刺激があるからといって、必ずしも歯髄炎が起こるとは限りません。
歯髄炎の主な原因として以下のようなものが挙げられます。
細菌的原因
最も一般的な歯髄炎の原因は細菌です。細菌の歯髄への侵入経路として、
・虫歯
・外傷
・歯周病の進行に伴い根尖(こんせん)から感染する経路
・菌血症(きんけつしょう)により歯髄に感染する経路(非常に稀)
があります。
虫歯にかかると細菌由来の毒素や抗体などの生体由来の成分が歯髄に運ばれ、
最終的に壊死(えし)を引き起こします。
物理的原因
・外傷(がいしょう)
・咬耗(こうもう:噛むことにより歯がすりへること)、
摩耗(まもう:噛むこと以外の刺激で歯がすり減ること)などの機械的な刺激
・歯を削る時の熱、歯科材料による熱などの温度的な刺激
・飛行機などに乗った時や水に潜ったときなどの気圧変化
などが原因として考えられます。
化学的刺激
歯の修復をする材料などに含まれる歯髄刺激性の化学物質が原因となることがあります。
歯科材料の中で歯に対して使用する材料の中でも、歯髄に害の大きいものとそうでないものがあります。歯髄に害がある可能性があるからといえども状況によっては、それによって得られる患者さんへの利益が大きい場合には使用しなければならないことも多々あります。
修復材料の中ではカルボキシレートセメントやグラスアイオノマーセメントは歯髄への刺激が少ないと言われています。
その他
その他の原因として歯髄が入っている部分(歯髄腔)が石灰化を起こしたり、歯髄結石という石みたいなものができることによって炎症を起こしたり、また歯の内部や外部から吸収(歯が他の組織に侵食されていくこと)されることでも炎症が起きることがあります。
急性歯髄炎の自宅でできる対処法
痛み止めを飲む
自宅で急に歯髄炎による激痛が出た場合は、我慢せずに痛み止めをのんでください。おすすめなのがロキソニンSです。歯医者で出される痛み止めとほぼ同じ成分です。また、昔から使われているバファリンなども胃腸が弱い方には効果的です。
歯髄炎の歯を冷やす
歯髄炎は血液の流れが痛みの原因になります。痛い歯を冷やすことによって血液の流れを少なくすると、痛みが軽減します。頬側から冷えピタ、歯を水や氷で冷やすと痛みを抑えることができます。
噛まないように安静にさせる
歯髄炎によって噛むと痛みが出ている人は、歯に刺激を与えないようにしてください。炎症が歯髄だけでなく歯の周りにある歯根膜(しこんまく)まで広がっているため、噛むと痛みが出てしまいます。歯が浮いたような感じになり、噛みにくい方は高カロリーゼリーなどで栄養と水分を摂るようにしてください。
急性歯髄炎の治療法
抜髄法
まず、この処置は痛みを伴うので麻酔が必要です。
処置を行う歯に虫歯がある場合、まず基本的にその除去を行うことが優先です。そして虫歯等の処置が終わったらさらに歯を深く削っていき、歯髄へ到達します。穴を掘っていくの場所や方向は、歯の種類によって異なり、解剖学(かいぼうがく)の熟知が必須です。またこの時に歯が生えている方向や歯髄の石灰化(せっかいか)の程度を考えずに行うと、歯に人工的な穴を開けてしまう危険性を伴います。
歯髄へ到達したら、上の部分に存在する歯髄の除去を行った後、根管の入り口を発見し、ファイルという器具を使って根っこの先の方の歯髄の除去を行います。この時に歯髄の取り残しがあると、痛み等の不快症状につながります。抜髄が終わったら、それと同時に根管拡大(こんかんかくだい)・根管形成(こんかんけいせい)を行い、根管充填ができる状態にしていきます。
根管充填が終わった後、痛みが出ないことが確認できたら上の部分をレジン(樹脂の材料)で埋めて終わるか、歯が割れる可能性が高い場合はアンレー(被せ物)にして噛む力によって歯が割れるのを防ぎます。
急性歯髄炎の段階では根の先に病変をレントゲン上で確認できない場合が多いですが、稀に神経が生きていても根の先に病変が認められる場合があります。その場合でも抜髄が成功すれば病変は次第に消えていきます。
また、根っこの治療の際にはラバーダム防湿法を行うことが推奨されています。
ラバーダムとはゴムのマスクを用いて唾液などの細菌感染源の侵入を防ぐ方法です。
根っこの治療をする際にラバーダムをしているかどうかも良い歯科医院を選ぶ際の判断基準の一つとなります。
ラバーダムの例
生活歯髄断髄法
生活歯髄切断法(せいかつしずいせつだんほう)とは、歯髄の炎症が一部分に限局している場合に、炎症が起きている部分の歯髄のみ除去して、それより先の方の歯髄を残す方法です。生活断髄法(せいかつだんずいほう)とも呼ばれます。お子さんでまだ根っこの先が完成しきっていない場合には、この方法を行うことによって根っこの成長を継続させることができます。
※イラストはあくまで治療の一例です。
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