寝るときに、くちびるへ小さなテープをそっと1枚——。SNSや動画アプリで「マウステーピング(口テープ睡眠)」が大流行しています。「いびきが減った」「朝の口の乾きがラクに」「フェイスラインまで整う」なんて声もあって、気になっている方も多いのではないでしょうか。
でも、口をふさいで眠るって、そもそも安全なの?——今日は、話題の口テープについて、最新の研究レビューをもとに歯医者が正直にお話しします。結論から言うと、「合う人にはアリ、でも“ある条件”の人には危険」です。
- 研究をまとめると、口テープの効果は「軽いいびき・口の乾きが少しラクになる程度」で、はっきりした効果は限定的。魔法のケアではありません。
- いちばん大事なのは「鼻で呼吸できること」。鼻がつまる人が口をふさぐと、息の逃げ道がなくなり危険です。
- いびきや強い眠気があるなら、その裏に睡眠時無呼吸(SAS)が隠れていることも。自己流の前に、まず受診が安全です。
目次
マウステーピングって、そもそも何?
マウステーピングは、寝ている間に口が開いて口呼吸になるのを防ぐために、くちびるへ専用テープを貼る方法です。もともとは口呼吸対策として一部で行われてきましたが、いまはSNSの「美容・睡眠ハック」として一気に広がりました。
ねらいはシンプルで、「口を閉じて、鼻で呼吸するクセをつける」こと。鼻呼吸には、空気をあたため・うるおし・ほこりをろ過するといった利点があります。だから「口呼吸より鼻呼吸のほうがいい」という方向性そのものは、じつは間違っていません。問題は“やり方”です。
研究でわかったのは「効果は、思ったより控えめ」
2025年に発表された研究レビュー(10件の研究・のべ213人分をまとめたもの)では、口テープの効果は「一部の人に、限定的」でした。
いびきの程度や「口からの空気もれ」が減った、という報告はいくつかありました。一方で、睡眠時無呼吸そのものが改善したのは、ごく軽い人(しかも鼻がしっかり通っている人)に限られ、効果がなかった研究も複数ありました。研究チームの結論は、「今のところ、一般の人みんなにおすすめできる方法とは言えない」というもの。「試すなら、条件を選んで」というのが正直なところです。

いちばんの落とし穴:鼻がつまる人は「危険」
鼻がつまっている人が口をテープでふさぐと、息の逃げ道がなくなり、最悪の場合は窒息のおそれがあります。実際、先ほどのレビューでも複数の研究が「鼻づまりがある人には危険」と注意しており、多くの研究は鼻の通りが悪い人を最初から除外して行われていました。
さらに見落とせないのが、睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関係です。大きないびき・日中の強い眠気・朝の頭痛などがある場合、その裏に無呼吸が隠れていることがあります。口テープでいびきの“音”だけが小さくなると、本当の問題(無呼吸)に気づくのが遅れてしまうことも。テープは「原因」ではなく「症状」にフタをしているだけかもしれないのです。
口呼吸は、じつは「歯」にもよくない
歯科の立場から一つ。口呼吸が続くと口の中が乾き、唾液が減ります。唾液は、むし歯の酸を中和し、歯を修復し、細菌を洗い流す“天然の守り役”。これが減ると、むし歯・歯ぐきの炎症・口臭が起きやすくなります。とくに前歯の歯ぐきが赤くなりやすいことも知られています。だからこそ「鼻で呼吸したい」という気持ちは、歯医者としても応援したい。ただし——安全なやり方で、です。

“口テープ”の前に。まず試したい安全な対策
- まず「鼻の通り」を整える。花粉症・鼻炎・鼻づまりがあるなら、耳鼻科でそこを治すのが先。鼻が通れば、自然と口が閉じやすくなります。
- 横向きで寝る・枕の高さを見直す。あお向けはいびき・口開きが出やすい人がいます。
- 寝室の乾燥対策と水分。加湿や就寝前のひと口の水で、口の乾きはやわらぎます。
- 大きないびき・日中の強い眠気・朝の頭痛があるなら受診を。睡眠時無呼吸のサインかもしれません。自己流のテープで様子を見ないで。
- 口の乾きが気になる日は、フッ素入り歯みがき+就寝前ケアをていねいに。歯科の定期チェックも忘れずに。
「どうしても口テープを試したい」という場合も、鼻がしっかり通っていることを確認し、いびきや無呼吸が心配ならまず医科・歯科で相談してから。皮膚がかぶれにくい専用品を選び、少しでも息苦しさや違和感があればすぐ中止してください。
- 家族に「呼吸が止まっている」と言われたことがある
- 日中の強い眠気・朝の頭痛・熟睡感のなさが続く
- 朝起きると口がカラカラ、のどが痛い/口臭が気になる
より詳しい研究の中身(対象や数値、患者さんへの説明のしかた)を知りたい歯科関係者・専門的に読みたい方は、姉妹記事「マウステーピングは有効か——口呼吸・SDB・OSAでの有効性と安全性を精読【エビデンス編】」もどうぞ。
よくある質問(FAQ)
Q. マウステーピングは誰がやっても大丈夫ですか?
A. いいえ。鼻がつまっている人がやるのは危険です。息の逃げ道がなくなるためで、研究でも「鼻づまりがある人には安全でない」と注意されています。まず鼻で楽に呼吸できることが大前提。鼻炎・花粉症などがある方は、そちらの治療を優先しましょう。
Q. いびきが減れば、無呼吸も治ったと考えていい?
A. いいえ。いびきの“音”が小さくなっても、睡眠時無呼吸そのものが治ったとは限りません。むしろ問題に気づくのが遅れることも。大きないびきや日中の強い眠気があるなら、自己判断せず検査を受けてください。
Q. 口が乾くのを防ぎたいだけなのですが?
A. その気持ちは歯科としても大切にしたいところ。ただ手段はテープだけではありません。鼻の通りを整える・寝室の加湿・横向き寝・就寝前の水分など、安全な方法から試すのがおすすめです。口の乾きはむし歯や歯ぐきの炎症にもつながるので、気になる方は歯科でもご相談を。
Q. 子どもにやってもいい?
A. 自己判断ではおすすめしません。子どもの口呼吸はアデノイドや扁桃の肥大など、鼻・のどの原因が隠れていることが多く、テープでふさぐのはとくに注意が必要です。まず小児科・耳鼻科・歯科に相談してください。
参考にした主な文献
- Rhee J, Iansavitchene A, Mannala S, Graham ME, Rotenberg B. Breaking social media fads and uncovering the safety and efficacy of mouth taping in patients with mouth breathing, sleep disordered breathing, or obstructive sleep apnea: A systematic review. PLOS ONE. 2025;20(5):e0323643. doi:10.1371/journal.pone.0323643
- American Dental Association. Safety of social media mouth taping trend(ADA News). 2025.
- Wagaiyu EG, Ashley FP. Mouthbreathing, lip seal and upper lip coverage and their relationship with gingival inflammation in 11–14 year-old schoolchildren. J Clin Periodontol. 1991;18(9):698–702. PMID:1820769
- American Dental Association. Xerostomia(口腔乾燥症)Oral Health Topics.
▶ 研究の中身をもっと詳しく(歯科関係者の方へ):マウステーピングは有効か【エビデンス編】
▶ あわせて読みたい:口呼吸と歯並び/冷たいものがしみる(知覚過敏)
監修:Taketo Hayashi / Kangyeong Lim(林剛永)(歯科医師)
免責:本記事は一般的な情報提供であり、特定の診断・治療や特定製品の使用・中止を推奨するものではありません。マウステーピングは鼻閉のある方や未診断の睡眠時無呼吸が疑われる方には危険を伴う可能性があります。いびき・日中の眠気・鼻づまりなどが気になる場合は、自己判断せず医科(耳鼻咽喉科・睡眠外来)や歯科にご相談ください。
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