衛生

舌苔が少ない=健康、とは限らない|舌苔の量だけでは見えない高齢者の口腔内

「舌苔が少ない舌」と聞くと、なんとなくきれいで健康そうな印象を受けるかもしれません。

実際、口腔機能低下症の評価では、舌苔の付着量をみるTongue Coating Index(TCI)が用いられ、舌苔が多い状態は「口腔衛生状態不良」と評価されます。

ただし、ここで注意したいのは、

「舌苔が多いと問題になる」ことと、「舌苔は少なければ少ないほど健康」ということは同じではない

という点です。

高齢者を対象とした研究では、舌苔が少なく見えても、真菌が多く、う蝕関連菌が目立ち、実際にむし歯も多い集団が報告されています。

つまり、見た目が白くない=口腔内の状態が良いとは限らないのです。

舌苔が少ない舌と舌苔が多い舌を比較し、見た目だけでは口腔内の状態はわからないことを示した図
図1:舌苔が少ない=そのまま健康、とは限りません

今回は、口腔機能低下症で用いられるTCIと、Microbiology Spectrumに掲載された高齢者の研究結果をもとに、舌苔の量だけで判断しない舌の見方を整理します。

口腔機能低下症で使われるTCIとは

口腔機能低下症では、口腔機能を複数の項目から評価します。

そのうち「口腔衛生状態不良」の評価に用いられるのが、Tongue Coating Index(TCI)です。

TCIでは、舌背を9区画に分け、それぞれの区画の舌苔付着状態を0〜2点で評価します。

スコア 状態
0 舌苔を認めない
1 舌乳頭を確認できる程度の薄い舌苔
2 舌乳頭を確認できないほど厚い舌苔

合計点は0〜18点で、

TCI(%)= 合計点 ÷ 18 × 100

で算出します。

一般に、TCI 50%以上が「口腔衛生状態不良」の基準とされます。

つまりTCIは、舌苔が過剰に付着していないかを見るための指標です。

舌苔が少ない=健康、とは単純に言えない理由

ここで重要なのは、TCIが低いことと、舌そのものが健康であることはイコールではないという点です。

TCIが低いことでわかること

「舌苔の過剰な付着」という基準には該当していない

TCIが低いだけではわからないこと

舌粘膜の健康状態、舌乳頭の状態、真菌や細菌を含む微生物叢の詳細

舌苔は単なる「汚れ」ではありません。

細菌だけでなく、剥離した角化上皮、食物残渣、唾液由来成分などから構成されており、舌表面の構造や代謝とも関係しています。

そのため、舌苔が少ない舌を見たときには、

  • 本当に清潔だから少ないのか
  • 舌乳頭が萎縮していて少なく見えるのか
  • 口腔内の微生物環境が変化しているのか

といった視点が必要になります。

研究でわかったこと

2026年に掲載された高齢者の研究では、真菌量が多い高齢者を対象に、舌苔の少ない群と多い群とで口腔内の微生物叢を比較しています。

その結果、舌苔が少ない群では、

  • 真菌量は舌苔が多い群と有意差なし
  • 細菌総量は少ない
  • 酸産生性の細菌が相対的に多い
  • むし歯が多い

という特徴がみられました。

真菌量が多い高齢者における舌苔なし・少量群と舌苔が多い群の違いをまとめた図
図2:舌苔が少ない群でも、口腔内の状態が良いとは限らない

特に注目すべきなのは、舌苔が少ない群で、むし歯関連菌や酸産生性菌が相対的に多かったことです。

つまり、見た目としては「きれい」に見えても、微生物学的には必ずしも単純ではないということです。

舌苔の量だけでなく、微生物の「中身」も見る必要があります。

舌苔だけでなく、舌乳頭を見る

舌苔が少ない舌を見たときに、もう一つ大事なのが舌乳頭の状態です。

舌乳頭、特に糸状乳頭が保たれていれば、舌表面には細かな凹凸があります。

一方、糸状乳頭が萎縮すると、舌は赤く平滑に見え、結果として舌苔が少なく見えることがあります。

舌乳頭が保たれた舌と萎縮した舌を比較し、舌苔だけでなく形も見るべきことを示した図
図3:舌苔の量だけでなく、その下にある舌乳頭の形を見る

この違いを整理すると、次のようになります。

観察項目 乳頭が保たれた舌 乳頭が萎縮した舌
表面の見え方 凹凸がある 赤く平滑に見える
舌苔の見え方 少なくても構造は保たれる 少なく見えることがある
考えたいこと 見た目どおり少量の可能性 乳頭萎縮や粘膜状態の評価が必要

つまり、

舌苔が「ない」のか、
舌苔が付きにくいほど舌表面の構造が変化しているのか

を分けて考える必要があります。

臨床で見るべきポイント

舌苔が少ない舌を見たときには、以下のような点もあわせて確認したいところです。

チェックしたいポイント

  • 舌乳頭が保たれているか
  • 舌背が赤く平滑になっていないか
  • 口腔乾燥がないか
  • 疼痛や灼熱感がないか
  • う蝕が多発していないか
  • 歯垢や義歯の衛生状態はどうか
  • 全身状態や栄養状態に問題はないか

特に高齢者では、舌だけではなく、歯・義歯・唾液・全身状態を含めた口腔全体の評価が重要です。

よくある質問

Q1.舌苔は少なければ少ないほど良いのでしょうか?

必ずしもそうではありません。舌苔が過剰に多い状態は問題ですが、舌苔が少ないことだけで舌粘膜や口腔内環境まで良好とは判断できません。

Q2.TCIが低ければ安心と考えてよいですか?

TCIが低いことは「口腔衛生状態不良の基準には該当しない」ことを示しますが、舌乳頭の状態や微生物叢の変化まで評価しているわけではありません。

Q3.舌が赤くツルツルしている場合は健康ですか?

赤く平滑な舌では、糸状乳頭の萎縮が起きている可能性があります。見た目だけで健康と判断せず、必要に応じて歯科・医科での評価が必要です。

Q4.舌苔が少ないのにむし歯が多いことはありますか?

あります。高齢者を対象とした研究では、舌苔が少ない群で酸産生性細菌が相対的に多く、むし歯も多い傾向が報告されています。

まとめ

口腔機能低下症で用いられるTCIは、舌苔の付着量を評価するうえで非常に有用です。

しかし、

「舌苔が多いと問題」
=
「舌苔は少なければ少ないほど健康」

ではありません。

舌苔が少ない舌を見たときには、

  • 舌乳頭が保たれているか
  • 赤く平滑な舌ではないか
  • 真菌や細菌を含む口腔内環境はどうか
  • むし歯や口腔衛生状態はどうか

まで含めて考えることが大切です。

舌苔の量だけでなく、
その下にある舌乳頭と、口腔内環境も見る。

舌の視診では、この一歩が意外に重要なのかもしれません。


参考文献

  1. Ganaha S, Asakawa M, Furuta M, et al. Differences in tongue microbiota of older adults with a high fungal load according to tongue coating status. Microbiology Spectrum. 2026.
  2. Shimizu T, Ueda T, Sakurai K. New method for evaluation of tongue-coating status. Journal of Oral Rehabilitation. 2007.
  3. Watanabe H. Observation of the ultrastructure of the tongue coating. Kokubyo Gakkai Zasshi. 2006.

※本記事は学術論文等の情報をもとに、舌苔評価について解説したものです。個々の疾患の診断や治療を目的としたものではありません。気になる症状がある場合は、歯科・医科の専門家に相談してください。

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shun
2017年卒業。100年時代の口腔を守るには良い治療と共に質の高い予防が絶対不可欠!と思い日々診療、研究に取り組んでいます。このサイトでは歯のお悩みに対して何がおきているのか、どういう治療が出来るのか、何故そうなってしまったのか、今後どうすれば予防出来るのかを分かりやすくお伝えできればと思います。よろしくお願い致します。
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