「入れ歯は普通の歯磨き粉で磨いていい?」
「洗浄剤につけているから、ブラシでは磨かなくても大丈夫?」
「寝るときは外した方がいい?」
毎日のことなのに、意外と迷うことが多いのが入れ歯のお手入れです。
2026年10月22日、英国の口腔保健に関する非営利団体「Oral Health Foundation」が、2018年に初めて公表した義歯ケアのガイドラインを改訂しました。[1]
総入れ歯と部分入れ歯の違い、洗浄剤の選び方、夜間の取り扱いなどを整理した指針です。
この記事では、新しいガイドラインと関連する研究から、毎日のお手入れで確認したいポイントを紹介します。
ひとことで言うと
入れ歯は「ブラシ清掃+材質に合った洗浄剤」でお手入れし、通常の歯磨き粉は入れ歯には使いません。部分入れ歯では、残っている天然歯をフッ化物配合歯磨剤で磨きます。夜間は原則として外し、歯科医師から別の指示があればそれに従います。安定剤の使用量が増えてきたら、入れ歯の合い具合を見直すきっかけです。
この記事のポイント
- 入れ歯のお手入れは、ブラシ清掃と適切な洗浄剤を組み合わせます。
- 入れ歯と天然歯では、使う歯磨き剤を分けて考えます。
- 洗浄剤は、入れ歯の材質に対応したものを選びます。
- 夜間は原則として外しますが、個別の事情は歯科医師に確認します。
- 安定剤の使用量が増えてきたら、入れ歯の適合を見直すきっかけです。
入れ歯のお手入れは「ブラシ+洗浄剤」が基本
「毎日洗浄剤につけているから、ブラシは使わなくてもよい」
そう考えている方もいるかもしれません。
今回の指針では、ブラシによる清掃と、義歯洗浄剤への浸漬を組み合わせることが勧められています。[1]
ブラシは、食べかすやプラークを物理的に取り除く役割を担います。洗浄剤は、製品の作用によって汚れや微生物を減らすのを助けます。
高齢者13人を対象とした臨床試験でも、機械的な清掃に加えて洗浄錠を使った条件では、水だけで保管した条件より総細菌量が減りました。
ただし、カンジダ量やプラークスコアには有意差がなく、すべての指標で効果が認められたわけではありません。[3]
毎日のケアでは、それぞれの方法の役割を生かすことが大切です。
洗浄剤は必ず口の外で使用します。
洗浄後は、入れ歯を口に戻す前に十分すすぎましょう。
普通の歯磨き粉で入れ歯を磨かない
天然の歯に使っている歯磨き粉を、そのまま入れ歯にも使っていませんか。
一般的な歯磨き粉には研磨剤が含まれており、製品や使い方によっては、入れ歯の樹脂表面を傷つけたり、摩耗させたりすることがあります。
実験室で義歯材料への影響を調べた研究でも、歯磨き粉を使ったブラッシングによる傷や表面の摩耗が確認されています。[4]
そのため今回の指針では、通常の歯磨き粉を避け、やわらかい義歯用ブラシと、義歯に適した研磨剤を含まない専用洗浄剤を使うことが勧められています。[1]
ブラシで清掃したうえで、浸け置き用洗浄剤は説明書に従って使用します。浸け置き用の錠剤を、そのまま磨き粉として使うわけではありません。
部分入れ歯では、残っている歯も守る
部分入れ歯を使っている方には、天然の歯が残っています。
入れ歯だけを洗っても、残っている歯のお手入れはできません。特に、入れ歯を支える歯や金具がかかる周囲は、丁寧に清掃したい場所です。
入れ歯を外したら、次のように分けて考えましょう。[1]
- 天然歯:フッ化物配合歯磨剤で磨く
- 歯と歯の間:歯間ブラシやフロスなどで清掃する
- 入れ歯:口の外で別に清掃する
「入れ歯に普通の歯磨き粉を使わない」という注意は、天然歯にフッ化物配合歯磨剤を使わない、という意味ではありません。
部分入れ歯のお手入れには、今ある歯を守るという目的もあります。

洗浄剤は入れ歯の材質に合わせる
入れ歯洗浄剤にはさまざまな成分が使われています。大切なのは、自分の入れ歯の材料に対応しているかを確かめることです。
今回の指針では、金属部分を含む義歯には、次亜塩素酸系・塩素系の洗浄液を一般的に避けるとしています。[1]
材料試験でも、漂白剤によるコバルトクロム合金などの腐食が報告されています。これは実験条件での結果ですが、殺菌力だけでは選べないことを示しています。[4]
購入するときは、次の3点を確認しましょう。
- 使える義歯の種類・材質
- 浸ける時間
- 使用する水の温度
金属床や特殊な部品、軟らかい裏装材などを使っている場合は、歯科医院で適した製品を確認してください。

入れ歯は寝るときに外した方がいい?
今回の指針では、臨床的に適切な場合には、睡眠中は義歯を外すことが勧められています。特に、高齢者や全身の健康上のリスクがある方への配慮が示されています。[1]
夜間装着については、日本の研究も参考になります。
85歳以上の地域在住高齢者を追跡した研究では、睡眠中にも義歯を装着していた人で、肺炎による入院・死亡のリスクが高いという関連が報告されました。[5]
ただし、これは観察研究です。
「入れ歯を入れて寝ること自体が肺炎を引き起こす」と証明したものではありません。また、評価したのは肺炎による入院・死亡であり、誤嚥性肺炎だけを対象にした研究ではありません。
基本は夜間に外す。ただし、個別の事情で歯科医師から別の指示を受けている場合は、その指示に従う。
このように考えるとよいでしょう。
外した入れ歯は、材質に合った方法で保管する
入れ歯は、外した後の取り扱いも大切です。
今回の指針では、使っていない間は清潔な容器に入れ、材質に適した条件で保管することが勧められています。
アクリルレジン製の義歯は乾燥から守り、高温による変形にも注意します。[1]
ただし、洗浄剤への浸漬と、その後の保管は分けて考えましょう。
すべての洗浄剤に、一晩中つけてよいわけではありません。浸漬時間や保管方法は、製品の説明書と歯科医院の指示に従ってください。
入れ歯安定剤は使ってもいい?
今回、義歯安定剤の指針も改訂されました。
主に扱っているのはクリーム型の安定剤で、効果の根拠は総入れ歯についての研究が中心です。[2]
適合した総入れ歯に適切に使用すると、保持や安定性、快適性を改善し、食べ物が義歯の下に入り込むのを減らすことがあります。
一方、
「最近、たくさん使わないと入れ歯が落ちる」
という変化は、入れ歯の適合を確認するきっかけです。
安定剤を増やして使い続ける前に、入れ歯の合い具合を確認しましょう。
調整・裏装・作り直しなどが必要になっている可能性があります。
使う場合は説明書に従って少量を使用し、義歯と口の中の両方に残った安定剤を毎日取り除きます。
部分入れ歯への使用は、総入れ歯ほど根拠が十分ではありません。自己判断で常用する前に相談してください。[2]

入れ歯のお手入れについて、よくある質問
Q. 洗浄剤につけていれば、ブラシで磨かなくてもよいですか?
今回の指針では、ブラシ清掃と適切な洗浄剤の併用が勧められています。洗浄剤だけに任せず、やわらかい義歯用ブラシで食べかすやプラークも取り除きましょう。
Q. 部分入れ歯を使っている場合、歯磨き粉は使わない方がよいですか?
入れ歯と天然歯を分けて考えます。残っている天然歯には、フッ化物配合歯磨剤を使用します。入れ歯自体には通常の歯磨き粉を避け、材質に合った専用洗浄剤を使ってください。
Q. 「部分入れ歯用」の洗浄剤なら、どんな入れ歯にも使えますか?
表示だけで一律に判断せず、対応する材質や使用上の注意を確認してください。特殊な部品や軟らかい裏装材が使われている場合は、歯科医院で確認すると確実です。
Q. 入れ歯洗浄剤には、一晩中つけてもよいですか?
製品によって異なります。長くつければよいとは限りません。説明書に記載された浸漬時間を守り、その後の保管方法も入れ歯の材質に合わせてください。
Q. 入れ歯を入れたまま寝るよう、歯科医師から言われています。
個別の事情で指示されている場合は、その指示に従ってください。記事だけを見て変更せず、気になる場合は担当の歯科医師に、夜間装着の理由と清掃・取り外しの時間を確認しましょう。
Q. 痛くなければ、入れ歯の定期検診は不要ですか?
症状がなくても、適合や口腔粘膜、残っている歯の状態を確認することが大切です。今回の指針では、できれば少なくとも年1回の専門的な評価を勧めています。実際の受診間隔は、口の状態に合わせて相談してください。[1]
まとめ|入れ歯と口の中を、セットでお手入れする
毎日の入れ歯のお手入れで、覚えておきたいのは次の6点です。
- ブラシ清掃と適切な洗浄剤を組み合わせる
- 入れ歯には通常の歯磨き粉を使わない
- 部分入れ歯では、残っている歯も清掃する
- 洗浄剤と保管方法を材質に合わせる
- 夜間の取り外しは、個別の指示も確認する
- 安定剤の使用量が増えたら、適合を見直す
痛みや赤みがある。以前より外れやすい。どの洗浄剤を使えばよいか分からない。
そんなときは、洗浄剤や安定剤だけで対応しようとせず、歯科医院で確認してもらいましょう。
入れ歯をきれいにすることと、口の中を健康に保つこと。その両方を意識することが、毎日のお手入れでは大切です。
本記事で紹介する指針について
Oral Health Foundationは英国の非営利団体であり、今回の指針は英国政府のガイドラインではありません。科学的根拠と専門家の合意に基づく実務的な推奨です。
作成にはHaleonの資金提供とフィードバックがあり、OHFが最終的な内容・編集判断に責任を持つと明記されています。引用した研究の一部にも企業の資金提供や所属著者が含まれます。本記事は特定商品を推奨するものではありません。
関連記事
参考文献
-
Oral Health Foundation.
Denture care guidelines.
2026年10月改訂。
公式ガイドライン・白書 -
Oral Health Foundation.
Denture adhesives guidelines.
2026年10月改訂。
公式ガイドライン・白書 -
Duyck J, Vandamme K, Krausch-Hofmann S, et al.
Impact of Denture Cleaning Method and Overnight Storage Condition on Denture Biofilm Mass and Composition: A Cross-Over Randomized Clinical Trial.
PLoS One. 2016;11(1):e0145837.
原著論文 -
Kiesow A, Sarembe S, Pizzey RL, Axe AS, Bradshaw DJ.
Material compatibility and antimicrobial activity of consumer products commonly used to clean dentures.
Journal of Prosthetic Dentistry. 2016;115(2):189–198.e8.
原著論文 -
Iinuma T, Arai Y, Abe Y, et al.
Denture wearing during sleep doubles the risk of pneumonia in the very elderly.
Journal of Dental Research. 2015;94(3 Suppl):28S–36S.
原著論文
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