歯科医師や歯科衛生士ではない人が、口の中を調べるようになるのでしょうか。
2026年10月6日、世界保健機関(WHO)は、世界各国の口腔健康を調べるための調査方法について、新たな発表を行いました。
今回注目されるのは、歯科専門職以外の調査担当者でも、適切な研修を受ければ、口腔内の簡易的な観察を実施できるように設計されたことです。
これまで以上に多くの国や地域で、虫歯や歯の喪失などの実態を調べられるようにすることが狙いです。
なぜ歯科医師以外の人が調査を行う必要があるのでしょうか。そして、私たちの歯科医療にはどのような関係があるのでしょうか。
ひとことで言うと
WHOは、歯科専門職が不足する地域でも口腔健康の実態を把握できるよう、国際的な口腔保健調査の仕組みを見直しました。
質問票に加えて、歯の本数や目で見て分かる虫歯などを確認する簡易的な口腔観察を導入し、研修を受けた歯科専門職以外の調査員も参加できるように設計しています。
ただし、歯科医師以外の人が虫歯を正式に診断したり、歯科治療を行ったりできるようになったわけではありません。
あくまで、国や地域の口腔健康の状態を把握するための公衆衛生調査です。

この記事のポイント
- WHOが2026年10月6日、改訂版の口腔保健調査モジュールを紹介
- 従来の質問票に、簡易的な口腔内の観察を追加
- 研修を受けた歯科専門職以外の調査員でも実施できる設計
- 歯科医療資源が不足する地域でも、口腔健康のデータを集めやすくすることが目的
- 調査結果を虫歯予防や歯科医療へのアクセス改善などの政策に活用することが期待される
WHOが口腔健康調査の新たな仕組みを発表
今回WHOが紹介したのは、「STEPS」と呼ばれる国際的な健康調査の口腔保健モジュールです。
STEPSとは、生活習慣病などの危険因子を、国際的に共通した方法で調べるための仕組みです。
喫煙、食生活、身体活動などの情報に加え、口腔健康の状態も把握することで、各国が健康政策を考えるためのデータを集めます。
WHOは2024年に口腔保健モジュールを改訂し、その内容と開発の背景を2026年10月6日の発表で紹介しました。
今回の大きな特徴は、本人への質問だけでなく、実際に口の中を簡単に確認する項目を取り入れたことです。
何が変わったの?
| 項目 | 従来のモジュール | 改訂版 |
|---|---|---|
| 調査方法 | 本人への質問が中心 | 質問票+簡易的な口腔観察 |
| 調査内容 | 自覚する口腔状態や受診行動など | 質問項目を更新し、歯の本数や虫歯などの観察項目を追加 |
| 調査の担い手 | 主に質問票による情報収集 | 研修を受けた非歯科専門職も簡易観察を担当できる設計 |
これまで、本人が「口の中に問題はない」と回答していても、実際には虫歯や歯の喪失がある可能性がありました。
もちろん、今回の簡易観察ですべての口腔疾患を見つけられるわけではありません。
それでも、本人の回答と口腔内の簡単な観察を組み合わせることで、集団の口腔健康をより多面的に把握できるようになります。
具体的に何を調べるの?
WHOの改訂版モジュールには、質問票と簡易的な口腔内の観察が含まれています。
質問票では、本人が感じている口腔健康の状態や歯科受診の状況などを確認します。
さらに、口腔内の観察では、主に次のような項目を確認します。
| 観察項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 歯の本数 | 残っている天然歯の数を大まかな区分で確認 |
| 未治療の虫歯 | 目で見て分かる穴の開いた虫歯があるかを確認 |
| 虫歯に伴う合併症 | 歯髄への進行や膿瘍などが疑われる所見を簡易的に確認 |
| 口腔粘膜の異常 | 唇や口の中に、目で見て分かる異常があるかを確認 |
これらは、複雑な歯科診断を行うためのものではありません。
例えば、未治療の虫歯については、目で見て分かる穴が1つ確認できた時点で、その人に該当する所見があると記録する簡略化された方法が採用されています。
つまり、虫歯を1本ずつ詳しく診断するのではなく、集団の中で口腔疾患がどれくらい存在するかを把握することが目的です。
初期の虫歯など、目で見ただけでは分からない問題もあります。そのため、この調査は歯科医院で行う精密な検査や診断の代わりにはなりません。
なぜ歯科医師以外でも調査できる仕組みが必要なのか?
背景には、世界各国の歯科医療資源の格差があります。
日本では比較的多くの歯科医院がありますが、世界に目を向けると、歯科医師や歯科衛生士が十分に確保できない国や地域があります。
そのような地域では、住民の口腔健康を調べようとしても、調査を担当する専門職が不足する場合があります。
すると、虫歯や歯の喪失などがどの程度あるのか、正確な実態を把握しにくくなります。
さらに、どの地域に歯科医療の支援が必要なのか、どのような予防対策を優先すべきなのかという判断も難しくなります。

そこでWHOは、調査方法を簡素化し、適切な研修を受けた調査員が参加できる仕組みを整えました。
これは、歯科医師の代わりに治療を行わせるためのものではありません。
専門職が不足する地域でも、口腔健康の実態を調べるためのデータ収集を可能にすることが目的です。
調査の範囲や観察方法を統一することで、国や地域の間で比較しやすい情報を得ることも期待されています。
世界では約37億人が口腔疾患を抱えている
WHOが2025年に公表したファクトシートでは、世界で約37億人が何らかの口腔疾患を抱えていると推計されています。
虫歯や重度の歯周病、歯の喪失などは、世界的に大きな健康課題となっています。
特に、所得が低い人や医療サービスを利用しにくい人では、口腔疾患の負担が大きくなる傾向が指摘されています。
虫歯や歯周病の多くは予防可能な側面がありますが、適切な予防や治療を受ける機会が十分ではない地域もあります。
こうした格差を改善するためには、まず「どこで、誰が、どのような口腔健康の問題を抱えているのか」を把握する必要があります。
今回の改訂は、そのためのデータ収集を支える取り組みといえます。
歯科医療も「治療」だけでなく「実態把握と予防」へ
WHOは以前から、口腔保健政策において、治療だけでなく予防や健康増進を重視する方針を示しています。
虫歯や歯周病が悪化してから治療することはもちろん重要です。
しかし、地域全体の口腔健康を改善するためには、病気が発生する前の予防や、早期に問題を把握する取り組みも欠かせません。
今回の調査方法の改訂は、そのための基盤づくりです。

例えば、ある地域で未治療の虫歯を抱える人が多いことが分かれば、その地域で虫歯予防の取り組みや歯科医療へのアクセスを見直す判断材料になります。
歯を失っている高齢者が多い地域であれば、高齢者の口腔機能や歯科医療の利用状況を詳しく調べるきっかけにもなります。
ただし、調査方法を整備しただけで虫歯や歯周病が減るわけではありません。
実際に各国で調査を行い、その結果を予防政策や医療サービスの改善に活用することが重要です。
日本の歯科医療にも関係する?
日本でも「歯科疾患実態調査」などを通じて、国民の歯や口腔の健康状態が調べられています。
また、歯科健診や地域の口腔保健対策をどのように充実させていくかという議論も行われています。
今回のWHOの改訂によって、日本の歯科健診制度や歯科医師・歯科衛生士の業務範囲が直ちに変更されるわけではありません。
一方で、国際的に共通した方法で口腔健康のデータが集まれば、日本の口腔健康の特徴を海外と比較する際にも役立つ可能性があります。
また、歯科専門職が不足する地域で、どのように口腔健康の情報を収集するかという考え方は、日本の地域保健を考えるうえでも参考になります。
よくある質問
Q. 歯科医師以外でも虫歯を診断できるようになるのですか?
いいえ。今回の改訂は公衆衛生調査のためのものです。研修を受けた調査員が、定められた方法で口腔内の状態を簡易的に観察しますが、歯科医師による診断や治療の代わりにはなりません。
Q. 歯科衛生士ではない人も口の中を見るのですか?
WHOの改訂版モジュールでは、適切な研修を受けた歯科専門職以外の調査担当者も、簡易的な口腔観察を行えるように設計されています。ただし、実際の運用は各国の制度や実施体制によります。
Q. 今回の調査で虫歯や歯周病は減るのですか?
調査方法の改訂そのものが虫歯や歯周病を減らすと証明されたわけではありません。集められたデータを、各国が予防対策や医療アクセスの改善に活用することが期待されています。
Q. 日本の歯科健診も変わるのですか?
今回のWHOの発表だけで、日本の歯科健診制度が変更されるわけではありません。日本での導入や制度変更については、国内の行政機関による別途の検討が必要です。
まとめ|世界の口腔健康を「見える化」するための新たな仕組み
WHOが2026年10月6日に紹介した口腔保健調査モジュールの改訂では、従来の質問票に加え、簡易的な口腔内の観察が取り入れられました。
また、適切な研修を受けた歯科専門職以外の調査担当者も、調査に参加できるよう設計されています。
今回の目的は、歯科医師以外に診断や治療を任せることではありません。
歯科医療資源が不足する地域でも口腔健康の実態を把握し、そのデータを予防対策や医療サービスの改善に役立てることです。
虫歯や歯周病などの口腔疾患は、多くの人にとって身近な健康問題です。
世界の口腔健康を改善するためには、治療を提供するだけでなく、どこにどのような問題があるのかを知ることも重要です。
今回の調査方法の改訂が、世界各国の口腔保健政策にどのように活用されるかが注目されます。
関連記事
日本でも検討が進む歯科健診の仕組み。口の問題を見つけるだけでなく、実際の受診につなげるための課題を紹介しています。
口腔健康の問題を把握した後、どうすれば必要な歯科受診につながるのか。海外の研究をもとに考えます。
日本では歯科衛生士の診療補助のあり方も検討されています。WHOの公衆衛生調査とは別の取り組みですが、歯科医療を支える人材の役割を考えるうえで関連する話題です。
参考文献・参考資料
- World Health Organization. WHO reinforces oral disease surveillance with an updated NCD STEPS module. 6 October 2026.
WHO公式発表 - An oral health module for use in noncommunicable disease risk factor surveys. Bulletin of the World Health Organization. 2026.
PubMed・原著論文 - World Health Organization. Global strategy and action plan on oral health 2023–2030. 2024.
WHO公式資料 - World Health Organization. Oral health. Fact sheet. 17 March 2025.
WHO・口腔健康ファクトシート
※本記事は2026年11月6日時点の公表資料に基づいています。WHOの調査方法の改訂は2024年に行われ、2026年10月6日にその内容を紹介する公式発表がありました。調査方法の普及や予防対策への効果については、今後の実施状況を確認する必要があります。
LINE@にて、歯科関連の英語論文を日本語に翻訳し分かりやすく解説して配信しています。
今だけ無料で登録できるので、この機会に「お友達登録」してみてはいかがでしょうか?
