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インプラントの費用は何にいくらかかる?相場が出ない理由と見積もりの見方【第3講】

インプラントが2本入った下顎骨模型の写真と、「見積もりで見る3つのこと」の文字が入った第3講のアイキャッチ
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見積書を受け取って、金額の大きさに固まってしまった。持ち帰って調べたら、今度はサイトごとに書いてある金額がばらばらで、どれを信じればいいのか分からなくなった——よくある場面です。

この記事で扱うのは、その金額が何に対して払われているのか、という一点です。

この記事の要点

  • インプラントに公的な価格統計はありません。金額の大小だけでは比べられません。
  • 価格差の理由の大半は、誰がその手術を行うかです。
  • インプラント治療は、ごく限られた場合を除いて保険が使えません

「相場」が出てこないのは、なぜ?

インプラントは自由診療です。保険のような全国一律の価格はなく、費用は各医療機関が決めます。そしてその金額を集計した公的な統計は、ありません。「相場は◯万円」と書かれた記事の多くは、その医院の水準です。

公的機関で金額に触れている資料は、ひとつだけあります。国民生活センターが相談事例を分析したもので、契約金額が分かる240件のうち50万円以上が70.4%100万円以上が46.3%でした。

これは「相場」ではありません
相談が寄せられた事例だけの分布です。金額が高いほうがトラブルになりやすい、という意味でもありません。動いている金額の桁を知る目安としてだけ見てください。

費用は、受ける処置ひとつひとつにかかります

インプラントの費用は、「1本いくら」というひとつの値段ではありません。診査・診断、第1講でお話ししたインプラント体を埋める手術、骨が足りなければ骨造成、歯ぐきが足りなければ軟組織の移植、型取り、上部構造の製作と装着——受ける処置の一つひとつに費用がかかります

どの処置が必要になるかは、人によって違います。同じ「1本」でも、必要な処置が増えれば総額は変わります。金額を比べる前に、その見積もりがどの処置を含んでいるのかを見てください。

治療の流れと、費用がかかる場面相談・検査CTで骨と神経を立体的に確認STEP 1手術埋入・骨造成・軟組織移植などSTEP 2治癒を待つ骨と結合するまで数か月・仮歯の期間STEP 3上部構造型取り・製作・上部構造の装着STEP 4メインテナンス入れたあとも定期的に通院ずっと必要な処置は人によって違います。いつ・何回に分けて支払うかも、医院ごとに違います
▲ 治療の流れと、費用がかかる場面。ここに描いたのは大きな流れで、実際にはこの中の処置ごとに費用がかかります。

CTによる検査は、日本歯科医学会の治療指針が「必要である」としている工程です。メインテナンスも同じ指針が「必須」としています。見積もりを見るときは、金額が治療のどこからどこまでを指しているのかを、最初に確かめてください。

そして、支払いの方法は医院ごとに違います。段階ごとに分けて支払うところもあれば、治療を始めるときにまとめて支払うところもあります。いつ、何回に分けて払うのかも、契約の前に確かめてください。

価格差の理由の大半は、誰がその手術を行うか、です

同じ材料を使っても費用が違うのは、誰が計画し、誰が手術するかが違うからです。骨を読み、神経との距離を測り、仕上がりから逆算して埋入位置を決める——その精度は術者によって変わります。

診療室で画面を見ながら治療計画を検討している歯科医師の横顔
▲ 埋入位置は、骨の形・神経との距離・最終的な歯の並びから逆算して決めます。この判断にかける時間と精度が、費用の差になって表れます。

ただ、その精度は外からは見えません。代わりに確認できる手がかりが、4つあります。

術者を見るときの4つの手がかり年数と症例数どれだけ重ねてきたか経験の量受けてきた教育大学院・専門研修留学など学会の資格専門医・認定医第三者による認定継続学習しているか学会発表・講習症例検討
▲ どれも完璧な指標ではありませんが、患者さんの側から確認できる数少ない手がかりです。

費用の差は、多くの場合ここに対応しています。遠慮せずに尋ねて構いません。

安いほうを選ぶとき、高いほうを選ぶとき
安さには理由があります。検査を簡略にする、材料を変える、メインテナンスを別料金にする——どこかに差が出ています。ただし、高ければ安心という意味でもありません。確かめるのは金額ではなく、その根拠です。

費用は途中で変わることがあります

骨の幅や高さ、神経の走り方は、詳しく調べてもなお、進めるなかで判断が変わることがあります。解剖学的な制約が想定より厳しく、計画を変える場合です。

変わること 費用への影響
インプラントの本数 本数に応じて増減します
骨を増やす処置の追加 種類と範囲によって加わります
矯正治療が入る 期間も費用も大きく変わります
▲ 途中で費用が変わりうる主な場合。

治療指針は、治療費の総額、または費用が発生する段階ごとの費用を治療計画に沿って明示し、費用についても同意書を取り交わすよう求めています。見積もりのときに「変わりうる項目と、そのときの金額」まで聞いておいてください。

戻ってくるお金と、保険のこと

インプラントの費用は医療費控除の対象になります。間違えやすいのは、次の点です。

支払ったもの 医療費控除
インプラント治療の費用 対象になる
デンタルローン(立替払い) 立替払いがあった年に対象
電車・バスでの通院費 対象になる
自家用車のガソリン代・駐車場代 対象にならない
▲ 国税庁「No.1128」「No.1122」にもとづく。デンタルローンは、返済していく年ではなく立替払いのあった年です。

保険が使える場合もありますが、腫瘍や外傷などで顎の骨を広い範囲で失った場合などに限られ、行えるのは病院だけです。歯周病や加齢による骨の吸収は、対象から除かれています。条文の細かい条件は、歯科医師向けのエビデンス編で扱います。

見積もりをもらったら、ここを見ましょう

見積もりをもらったら、この3つ1必要な治療がすべて入っているか説明と見積もりが一致しているか2変更や代替がありうる項目金額も期間も大きく動く3保証の期間とその範囲・起算点いつから数えるのか
▲ この3つが書面にあれば、ほかの医院と比べるときにも比べやすくなります。

ひとつめは、金額そのものより説明と見積もりが一致しているかです。受けた説明にあった治療が書かれていない、あるいは聞いていない項目が並んでいる——そのときは、その場で尋ねてください。

ふたつめは、あとから効いてきます。本数が変わったり骨造成が必要になったりすると、見積もりの金額も、治療にかかる期間も大きく変わることがあります。どの項目が動きうるのかを、先に聞いておいてください。

そして保証は、医院ごとに中身がかなり違います。喫煙している方には骨造成を保証の対象から外す、保証期間を半分にするといった条件を設けている医院もあります。期間だけでなく、何がどこまで対象になるのかを確かめてください。

保証は「いつから」始まりますか
手術の日からなのか、歯が入ってからなのかで、実際に守られる長さは変わります。上部構造が入り、問題なく噛めるようになった時点から数えるのが、私は誠実なかたちだと考えています。

費用についても、しっかり質問してください

費用を尋ねるのは、値切ることではありません。治療費を治療計画に沿って明示し、費用についても同意書を取り交わすこと——これは、先ほどの日本歯科医学会「歯科インプラント治療指針」が治療する側に求めていることです。納得できるまで聞いて、書面でもらってください。


よくある質問

Q. 保険は使えますか?

A. 基本的には使えません。一部の例外として、腫瘍や外傷などで顎の骨を広く失った場合や、生まれつきの疾患による場合などに限られます。歯周病や加齢による骨の吸収は対象外で、行える医療機関も一部の病院に限られます。

Q. デンタルローンでも医療費控除は受けられますか?

A. 受けられます。ただし、デンタルローンに対応していない医院もあります。また、対象になるのは信販会社が立替払いをした年で、自分が返済していく年ではないのでご注意ください。

Q. 治療の途中で医院を変えられますか?

A. 医院を変えること自体はできます。ただし、移った先の医院にそのメーカーに対応した器具や設備がないと、治療を引き継ぐのが難しくなります。どうしても移る必要があるときは、どのメーカーのどの製品を使ったかが分かる書類をもらっておいてください。


参考にした主な資料

  1. 独立行政法人国民生活センター「あなたの歯科インプラントは大丈夫ですか——なくならない歯科インプラントにかかわる相談——」2019年3月14日. リンク
  2. 日本歯科医学会編「歯科インプラント治療指針」平成25年3月. リンク
  3. 国税庁「No.1128 医療費控除の対象となる歯の治療費の具体例」/「No.1122 医療費控除の対象となる医療費」. リンク
  4. 厚生労働省 歯科診療報酬点数表 区分番号J109「広範囲顎骨支持型装置埋入手術」および施設基準

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執筆・監修:林 剛永(Taketo Hayashi / Kangyeong Lim)

日本・米国の両方の歯科医師免許を持つ現役歯科医師(口腔インプラント専門)。プロフィール詳細はこちら

ABOUT ME
林剛永 D.D.S., M.S.
2015年 大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院での研修、約4年間の開業医勤務を経て、2020年より米国カリフォルニア州 Loma Linda大学大学院に留学し、インプラント歯科学を専攻・修了。ABOI/ID(アメリカインプラントボード認定機関)ボード認定医(Diplomate)。現在は、インプラント治療を中心に臨床に従事しています。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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