「たばこは吸いますか?」
歯科の問診で、こんな質問を見たことがある方は多いでしょう。
「吸わない」に丸をつければ、それで終わり。
しかし今、この一問だけでは、その人が使っているたばこ・ニコチン製品を十分に把握できない場合があります。
紙巻きたばこだけでなく、IQOSなどの加熱式たばこ、VAPE・電子タバコ、口の中に入れるパウチなど、製品も使い方も多様になっているからです。
「紙巻きはやめた」「VAPEはたばこではないと思っていた」「口に入れるだけなので、吸ってはいない」
患者さんは正直に答えていても、聞く側との間にすれ違いが生まれるかもしれません。

2026年のOral Health Congressでは、歯科医療者によるVAPE使用中止支援をテーマにした研究が取り上げられました。公開抄録から見えてくるのは、聞く側も「どう会話を始めればよいか」に悩んでいるという現状です。[1]
この記事のポイント
- 「吸う・吸わない」だけでなく、使っている製品を具体的に確認することが大切です。
- 加熱式たばこ、VAPE、パウチは、使い方も口への影響についての研究状況も異なります。
- 現在の製品だけでなく、以前の使用歴や併用も、口の状態を理解する手がかりになります。
- 問診は使用者を責めるためではなく、本人の状況を知り、必要な支援につなげるための会話です。
新しいたばこ・ニコチン製品は何が違う?
まず整理したいのは、加熱式たばこと電子タバコ・VAPEは別のものだということです。
加熱式たばこはたばこ葉を加熱し、一般的なVAPEは液体を加熱します。口の中で使うパウチは、煙やエアロゾルを吸い込む製品ではありません。[2][3]
| 種類・例 | 使い方・特徴 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 紙巻きたばこ | たばこ葉を燃やし、煙を吸う | 本数、使用年数、やめた時期 |
| 加熱式たばこ IQOS、glo、Ploomなど |
たばこ葉を燃やさず加熱。ニコチンを含む | 紙巻きからの切り替えか、併用か |
| 電子タバコ・VAPE | 液体を加熱。ニコチンの有無は製品による | 製品名、ニコチンの有無、使用頻度 |
| 口の中で使うパウチ ZYNなど |
唇と歯ぐきの間などに置き、ニコチンを摂取する | 製品名、置く場所、使用時間・頻度 |
※パウチ製品は国や製品によって成分・分類が異なります。海外の研究でいう「ニコチンパウチ」と、日本で販売される「オーラルたばこパウチ」を、すべて同じ製品として扱うことはできません。
口への影響は、どこまでわかっている?
製品ごとに聞く理由は、名前が違うからだけではありません。口のどこに接触するか、どのような変化が研究されているかも違うからです。
VAPE:歯周組織の変化は研究されているが、喫煙歴の影響が残る
2025年の系統的レビューは、40研究を検討しました。VAPE使用者では歯垢や一部の炎症指標などの違いが報告される一方、歯周ポケットの深さなど、非喫煙者・元喫煙者との差が明確でない指標もありました。[4]
大きな課題は、紙巻きたばこの併用や過去の喫煙の影響を十分に除けていないことです。「変化が報告されている」ことと「VAPEだけが原因で歯周病になると証明された」ことは区別する必要があります。
加熱式たばこ:人での研究はあるが、長期的な影響の判断には限界がある
2024年の66人を対象とした研究では、加熱式たばこ使用者の歯周ポケットの深さや歯を支える組織の喪失は、紙巻き使用者と非喫煙者の中間でした。ただし、加熱式たばこ使用者と非喫煙者の差は統計学的に明確ではありませんでした。[5]
これは一時点を比較した小規模な研究です。この結果だけで「影響がない」とも「切り替えれば歯周病を防げる」ともいえません。
ニコチンパウチ:接触部位の粘膜変化が報告されている
2024年の系統的レビューでは、パウチを置く場所の白い変化や、口の痛み・乾燥などが報告されていました。ただし対象は3研究・計190人で、すべて偏りのリスクが高いと評価されています。[6]
スヌース使用者を含む研究もあり、パウチ単独の影響や長期的な病気のリスクは十分に判断できません。問診では、「使うかどうか」に加えて「どこに、どのくらい置くか」も手がかりになります。
詳しくは、ニコチンパウチと歯ぐきの記事で紹介しています。
研究の限界は、問診で確認したいことにもつながります。
現在の製品名だけでは、以前の紙巻きたばこの影響や、複数製品の併用まではわかりません。口の状態を理解するには、使用の経過も知る必要があります。
聞く側も「どう話せばよいか」に悩んでいる
では、歯科医療者はこうした製品について、十分に聞けているのでしょうか。
Oral Health Congress 2026の公開抄録で、Jessica Nguyenらは、オーストラリアの口腔保健職へのインタビュー研究を報告しています。[1]
VAPEについてほとんど取り上げない人から、日常的に使用中止支援を行う人まで、対応には幅がありました。課題として挙がったのは、
- 患者との会話をどう始めるか
- どのような助言をするか
- 口への影響についての根拠や、教育・研修が不足していること
でした。
これは、VAPE使用中止支援の効果を確かめた臨床試験ではありません。支援する側が、どこで困っているかを調べた研究です。
「聞いた後にどうすればよいかわからない」。その戸惑いに対応する準備も必要なのです。
歯科の問診は「何を使っていますか?」から
まずは「たばこ」という言葉の受け取り方を、患者さんだけに委ねない聞き方が考えられます。
「紙巻きたばこ以外に、加熱式たばこや電子タバコ、口の中に入れるパウチなどを使っていますか?」
「吸っていますか?」から「使っていますか?」へ。製品の例を添えると、吸わずに使うものも会話に含められます。

現在だけでなく、以前の使用も聞く
例えば、「今は加熱式だけです」という返答なら、
「以前は紙巻きたばこを使っていましたか? いつごろ切り替えましたか?」
「今も紙巻きたばこを使うことはありますか?」
と続けられます。
VAPEならニコチンの有無、パウチなら置く場所や時間も確認します。わからないことは「不明」のままで構いません。
こうした情報は、目の前の歯ぐきや粘膜の状態を、現在の製品だけの影響だと決めつけないためにも役立ちます。
聞くことを、説得の始まりにしない
使用状況がわかったら、本人がどう感じているかも尋ねます。
「使っていて、口の中で気になることはありますか?」
「やめることについて、何か相談したいことはありますか?」
ここで示した言葉は、効果を検証された定型文ではなく、会話を始めるための一例です。
歯科医療者による従来のたばこ使用中止支援には研究の蓄積があります。一方、その結果をそのまま「歯科でVAPEをやめる支援の効果」として扱うことはできません。[7]
歯科だけですべて解決しようとせず、本人の希望を聞き、必要に応じて禁煙支援などの適切な相談先につなぐ。その入口を作ることも役割の一つです。

よくある質問
Q. 紙巻きたばこをやめてIQOSに変えた場合も伝えますか?
はい。「以前は紙巻き、現在はIQOS」と伝えると、使用の経過がわかります。切り替えた時期や、今も併用しているかも大切な情報です。
Q. 加熱式たばことVAPEは同じものですか?
違います。加熱式たばこはたばこ葉を加熱します。一般的なVAPE・電子タバコは液体を加熱し、ニコチンの有無は製品によって異なります。製品名がわかれば、それを伝えてください。[2]
Q. ニコチンなしのVAPEも伝えた方がよいですか?
はい。使用製品を確認するという目的では、ニコチンの有無にかかわらず伝えると状況を整理しやすくなります。含有の有無がわからなければ、「わからない」で構いません。
Q. 煙が出ないパウチも、歯科に関係しますか?
口の粘膜に直接触れる製品なので、使用状況は参考になります。製品名に加え、置いている場所や時間、痛みや見た目の変化があるかを伝えてください。
Q. 伝えたら、必ずやめるよう説得されますか?
医院によって対応は異なりますが、使用状況を確認することと、一方的に説得することは別です。「今はやめるつもりはない」「少し気になっている」など、現在の気持ちも伝えて構いません。
まとめ|「吸う・吸わない」から、使用の経過がわかる会話へ
新しいたばこ・ニコチン製品は、使い方も、口への影響についてわかっていることも同じではありません。
だから歯科の問診でも、
「何を使っていますか?」
「以前は何を使っていましたか?」
「気になっていることはありますか?」
と、少し聞き方を広げてみる。
その目的は、使用者を見つけて注意することではありません。口の状態と生活習慣を理解し、相談できる関係を作ることです。
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参考文献・資料
製品の特徴と健康影響の根拠を分けて記載しています。メーカー資料[2・3]は仕組み・使用方法の確認に用い、安全性の根拠には用いていません。[1]は学会公開抄録です。
-
Nguyen J, Adam R, Saraswat N, Yap T, Lim M.
Oral health professionals’ experiences and perspectives providing vaping cessation support – A qualitative study.
Oral Health Congress 2026. 学会公開抄録.
公開抄録 -
IQOS公式. 電子たばこと加熱式たばこの違い.
製品の仕組みの説明 -
ZYN公式. オーラルたばこパウチZYNとは?
製品・使用方法の説明 -
Tattar R, Jackson J, Holliday R.
The impact of e-cigarette use on periodontal health: a systematic review and meta-analysis.
Evidence-Based Dentistry. 2025.
doi:10.1038/s41432-025-01119-6.
論文全文 -
Mišković I, Kuiš D, Špalj S, Pupovac A, Prpić J.
Periodontal Health Status in Adults Exposed to Tobacco Heating System Aerosol and Cigarette Smoke vs. Non-Smokers: A Cross-Sectional Study.
Dentistry Journal. 2024;12(2):26.
doi:10.3390/dj12020026.
PubMed -
Rungraungrayabkul D, Gaewkhiew P, Vichayanrat T, Shrestha B, Buajeeb W.
What is the impact of nicotine pouches on oral health: a systematic review.
BMC Oral Health. 2024;24:889.
doi:10.1186/s12903-024-04598-8.
論文全文 -
Holliday R, et al.
Interventions for tobacco cessation delivered by dental professionals.
Cochrane Database of Systematic Reviews. 2021;2:CD005084.
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