衛生

歯が痛い。でも仕事は休めない——その我慢、仕事に響いていませんか?

「歯が痛い。でも仕事は休めない」と、我慢しながら働いていませんか?

出勤できているからといって、いつも通り働けているとは限りません。

歯が気になって集中できない。食事のたびに痛みが気になる。それでも、「休むほどではないから」と受診を後回しにしてしまう。

こうした問題を考える鍵になるのが、プレゼンティーズムという言葉です。

健康上の問題を抱えながら働き、本来の力を十分に発揮できない状態を指します。

腰痛や頭痛だけでなく、歯や口の不調についても、仕事への影響を調べる研究が行われています。

この記事では日本の研究をもとに、「歯が痛くても仕事には行ける」の、その先を考えます。

この記事のポイント

  • 口の問題は、欠勤だけでなく「出勤していても集中しにくい」という形で表れることがあります。
  • 日本の追跡研究では、歯科受診を始めた人の方が、仕事機能の改善と関連していました。
  • ただし、歯科受診によって仕事の能率が上がると証明されたわけではありません。
  • 「仕事を休むほどではない」を、受診を先延ばしにする理由にしないことが大切です。

腰痛や頭痛、歯が痛いときも「休まない不調」に

「腰が痛くて、今日は仕事に集中できない」

「頭痛がするけれど、休むほどではない」

こうした経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。

2023年に日本の労働者1万人を対象として行われたインターネット調査では、35.6%が仕事に影響する健康問題を報告しました。

主な問題として挙げられたのは、腰痛、首の痛み・肩こり、メンタルヘルスの問題などです。研究は2025年に公表されています。[1]

「会社には来ている。でも、不調で仕事がはかどらない」

こうしたプレゼンティーズムは、産業保健でも研究されてきた課題です。

では、その健康問題の中に「歯」も入れて考えているでしょうか。

「まだ噛めるから」
「歯が痛いけれど、我慢できるから」
「仕事を休むほどではないから」

口の不調では、こんな理由で受診を先延ばしにしてしまうことがあります。

肩や腰のつらさ、頭痛、歯が痛いなどの不調を抱えながら働く人たち
出勤できていても、不調が仕事中の集中や取り組みやすさに影響することがあります。

口の問題は「欠勤」だけに表れるわけではない

日本の企業で働く559人を対象に、歯科健診と質問票を用いて口の健康と仕事への影響を調べた研究があります。

この研究では、口の問題による欠勤を報告した人が6.6%、仕事への集中の支障を報告した人が8.9%でした。[2]

歯の問題があっても、必ずしも会社を休むとは限りません。

出勤はしている。でも、歯が気になって集中しにくい。

そんな形で、仕事中の困りごとになっている場合もあります。

さらに、年齢や職種、仕事上のストレスなどを考慮した解析では、未処置のむし歯の本数や、口腔関連QOLの低さが仕事への支障と関連していました。

口腔関連QOLとは、口の状態が日常生活にどの程度影響しているかを捉える指標です。

ただし、これは一時点の状態を調べた横断研究です。むし歯が仕事への支障を引き起こした、と因果関係まで証明したわけではありません。

それでも、口の健康を仕事と無関係なものとして扱うのは、見直してよさそうです。

歯科受診を始めた人を、1年間追跡すると?

次に紹介するのは、2026年に公表された「Hitachi Oral Healthcare Survey」の縦断研究です。

対象は、職場の口腔健康評価で異常を指摘され、仕事の機能にも一定の支障があり、それまで歯科受診をしていなかった501人でした。[3]

ここで注意したいのは、仕事への支障が、歯や口の問題によるものと特定されていたわけではないという点です。

研究では、健康問題に伴う仕事の支障を測る質問票「WFun」を使っています。売上や作業量を直接測定したものではありません。

1年間で歯科受診を始めた82人と、受診しなかった419人を比較すると、研究上の改善基準を満たした割合は次のようになりました。

1年後に仕事機能の改善基準を満たした人の割合
1年間の歯科受診 対象人数 改善した割合
受診を始めた人 82人 39.0%
受診しなかった人 419人 27.0%

出典:Yamamotoら。表は調整前の観察値です。「改善」は、WFunが開始時の14点以上から、1年後に14点未満になったことを指します。[3]

年齢や仕事に関する条件などを調整した解析でも、受診を始めた人の方が改善と関連していました。

「仕事の能率が39%上がった」という意味ではありません。

39.0%は、質問票で定めた改善基準を満たした人の割合です。

「歯医者に行けば能率が上がる」とは、まだ言えない

この研究では、受診する人としない人を無作為に振り分けたわけではありません。

受診した人は、もともと健康への関心が高かった可能性もあります。また、具体的な治療内容や受診時期は把握されておらず、予防目的の受診と治療目的の受診も区別されていません。

対象者の約97%が男性で、特定の企業グループの従業員だった点にも注意が必要です。[3]

したがって、歯科受診によって仕事機能が改善したと断定することはできません。

それでも、口に問題を指摘された人について、その後の受診行動と仕事機能の変化を追った研究として、考える材料になります。

歯が痛いとき、「休むほどではない」を受診の基準にしない

ここで、最初の話に戻りましょう。

腰痛や頭痛なら、「仕事には行けるけれど、今日はつらい」と感じることがあります。

歯や口の不調についても、同じ視点で振り返ってみてはどうでしょうか。

  • 歯が痛い。
  • 噛みにくい。
  • 食事のたびに気になる。
  • 仕事中も、口の違和感に気を取られる。

こうした困りごとがあるなら、受診を考える理由はすでにあります。

仕事に行けることと、不調を放置してよいことは別です。

今回の研究は、早く受診すれば仕事の能率が上がると証明したものではありません。

しかし、受診するかどうかを「会社を休むほど困っているか」だけで判断する必要もありません。

職場でも、受診につながる仕組みを考えたい

もう一つ考えたいのは、本人の我慢や心がけだけで解決できるのか、ということです。

忙しくて通院時間を確保しにくい。

健診で指摘されたものの、どの程度急ぐべきか分からない。

受診先を探すところで止まっている。

そんな場合は、本人への呼びかけに加えて、職場側の支援も考えられます。

  • 健診結果を分かりやすく伝える。
  • 受診先の情報を案内する。
  • 通院時間を相談しやすくする。

これは、今回の研究から企業の利益や費用対効果が証明された、という話ではありません。

口の不調も働く人の健康問題の一つとして捉え、必要な受診につながりやすくする。そのための実務上の提案です。

仕事への影響が数値に表れるかどうかにかかわらず、不調を抱える本人が相談しやすい環境には意味があります。

あわせて読みたい

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「歯医者に行きましょう」では人は動かない?国民皆歯科健診の課題

健診結果を確認し、職場で通院時間を相談して歯科受診につなげる様子
我慢の限界を待たず、気になる不調や健診結果について相談する。職場での受診しやすさも大切です。

よくある質問

Q. プレゼンティーズムとは、仕事を休むことですか?

いいえ。働いていても、健康上の問題によって仕事に支障が出ている状態を指します。健康問題によって仕事を休むことは、一般に「アブセンティーズム」と呼ばれます。

Q. 歯科受診をすれば、仕事の能率が上がりますか?

今回の研究だけで、そう断定することはできません。歯科受診を始めた人では仕事機能の改善が多くみられましたが、受診以外の要因が影響した可能性もあります。

Q. 「39.0%が改善」とは、仕事の成果が39%増えたということですか?

違います。健康問題に伴う仕事の支障を評価する質問票「WFun」で、研究上の改善基準を満たした人が39.0%だったという意味です。売上や作業量の増加を示した数字ではありません。

Q. 歯が痛いけれど仕事はできる場合も、受診してよいですか?

はい。「仕事に行けるか」だけを受診の基準にする必要はありません。痛みや噛みにくさが続く場合は歯科医院に相談してください。健診で異常を指摘された場合も、結果に応じた受診について確認しましょう。

この記事から持ち帰りたいこと

「仕事を休むほどではない」は、「受診しなくても大丈夫」という意味ではありません。

  • 歯が痛い、噛みにくいといった不調が続くなら、我慢の限界を受診の目安にしない。
  • 健診で異常を指摘されたら、症状の有無だけで判断せず、結果に応じて歯科医院に相談する。
  • 職場では、休んだ日数だけでなく、出勤している人が抱えている不調にも目を向ける。

今回の研究を日常の判断につなげるなら、まず見直したいのは、この3つではないでしょうか。


参考文献

  1. Yoshimoto T, et al. Presenteeism Caused by Health Conditions and Its Economic Impacts Among Japanese Workers in the Post-COVID-19 Era. Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2025;67(4):e227–e232.
    論文全文(PMC)
    DOI: 10.1097/JOM.0000000000003319
  2. Adachi N, Sugimoto K, Suzuki H, Shinada K. Influence of oral health status on absenteeism and presenteeism as indices of work productivity loss. Journal of Dental Sciences. 2025;20(2):794–801.
    論文全文(PMC)
    DOI: 10.1016/j.jds.2024.09.029
  3. Yamamoto Y, Fujino Y, Kimura M, et al. Association Between Dental Visits and Presenteeism Among Workers Receiving Workplace Oral Health Assessments: A Longitudinal Study in Japan—The Hitachi Oral Healthcare Survey. Journal of Occupational and Environmental Medicine. 2026;68(7):539–544.
    論文全文(PMC)
    DOI: 10.1097/JOM.0000000000003717
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shun
2017年卒業。100年時代の口腔を守るには良い治療と共に質の高い予防が絶対不可欠!と思い日々診療、研究に取り組んでいます。このサイトでは歯のお悩みに対して何がおきているのか、どういう治療が出来るのか、何故そうなってしまったのか、今後どうすれば予防出来るのかを分かりやすくお伝えできればと思います。よろしくお願い致します。
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