顎関節症

「あくびをすると顎が痛い」「口を開けるとカクッと音がする」「朝起きたら口が開かなくなっていた」——こうした症状で来院される患者さんは少なくありません。その多くは顎関節症(がくかんせつしょう)によるものです。このページでは、口が開かない・閉じない・顎が鳴る・痛いという症状の原因と、自分でできる対処法、歯科を受診すべきタイミングを現役歯科医師が解説します。

ひとことで言うと
顎関節症は成人の約5〜12%にみられる、ありふれた顎の不調です。多くは手術をせず、セルフケアと生活指導で数週間〜数ヶ月のうちに落ち着いていきます。ただし「急に口が開かない・閉じない」ときは、早めに歯科を受診してください。

顎関節症のサイン:口が開かない・顎がカクカク鳴る・顎が痛い

✔ この記事でわかること

  • 顎関節症かどうかのセルフチェック
  • 3つのタイプと原因(歯ぎしり・TCH・ストレスなど)
  • 自分でできるセルフケアと歯科での治療
  • 受診したほうがよい症状の目安

まずはセルフチェック

  • 口を大きく開けると、顎(耳の前あたり)が痛む
  • 口の開け閉めで「カクカク」「ジャリジャリ」と音がする
  • 縦にした指が2本分(約3cm)しか口に入らない
  • 口が途中までしか開かない、または閉じにくい
  • 朝起きると顎が疲れている・こわばっている

ひとつでも当てはまれば、顎関節症の可能性があります。特に「指2本分しか開かない」「急に口が開かなく/閉じなくなった」場合は、関節内のクッション(関節円板)がずれて引っかかっている状態が疑われるため、早めの受診をおすすめします。

顎関節症とは?3つのタイプ

顎関節症は、顎の関節とその周りの筋肉に起こるトラブルの総称です。大きく分けて次の3タイプがあります。

顎関節の解剖図(矢状断面):側頭骨の下顎窩と下顎頭の間に関節円板が挟まり、前方に外側翼突筋が付着する
▲ 顎関節の構造(矢状断面)。1・2:外側翼突筋(上頭・下頭)/3:下顎窩(側頭骨)/4・8:関節軟骨/5〜7:関節円板(中間帯・後方肥厚部・前方肥厚部)/9:下顎頭(下顎骨)/10:円板後部組織/11〜13:関節包。円板がクッションとして骨と骨の間に挟まっているのがわかります。
図:Frank Gaillard・M. Komorniczak, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

①筋肉のタイプ(咀嚼筋痛障害)

顎を動かす筋肉の使いすぎ・緊張による痛みです。頬やこめかみのあたりが重く痛み、朝に症状が強いのが特徴です。

②関節円板のタイプ(顎関節円板障害)

関節の中にあるクッション(関節円板)が前方にずれるタイプです。口の開け閉めで「カクッ」と音が鳴るのはこのタイプ。ずれが大きくなると円板が引っかかり、口が開かなくなること(クローズドロック)があります。

③関節そのもののタイプ(変形性顎関節症など)

関節の骨が変形したり、炎症を起こしたりするタイプです。「ジャリジャリ」「ミシミシ」という音や、長く続く痛みが特徴です。

原因は「噛み合わせ」だけではありません

かつて顎関節症は噛み合わせの悪さが主原因と考えられていましたが、現在は複数の要因が重なって起こると考えられています。

  • TCH(歯列接触癖):気づかないうちに上下の歯を触れさせ続けるクセ。本来、上下の歯が接触するのは食事等を含めて1日17.5〜20分程度と報告されています(Graf, Dent Clin North Am 1969)。パソコン作業やスマホ操作中に歯が触れていたら要注意です。
  • 歯ぎしり・食いしばり:睡眠中の強い力は顎関節に大きな負担をかけます。
  • ストレス・緊張:筋肉のこわばりを招きます。
  • 頬杖・うつぶせ寝・片側噛みなどの生活習慣
  • 外傷:顎をぶつけた、大きく開けすぎた(長時間の歯科治療やあくび)など

自分でできる対処法

  1. 顎を休ませる:硬い食べ物・ガム・大きなあくびを避け、食事はやわらかめに。痛みが強い間は無理に開ける練習をしないでください
  2. 温める:痛む部分を蒸しタオルなどで温めると、筋肉タイプの痛みには効果的です(急にひどく腫れて痛む場合は冷やし、早めに受診を)。
  3. TCHに気づいたら歯を離す:「歯を離す・力を抜く」と書いた付箋をパソコンなどに貼り、見るたびに脱力する方法が有効です。
  4. 頬杖・うつぶせ寝をやめる:顎に横向きの力がかかる習慣を減らします。

歯科ではどんな治療をするの?

顎関節症の多くは、生活指導とセルフケアで数週間〜数ヶ月のうちに改善していきます。歯科では症状やタイプに応じて次のような治療を行います。

  • スプリント(マウスピース)療法:就寝時に装着し、歯ぎしり・食いしばりによる顎関節への負担を軽減します。
  • 生活習慣・TCHの指導:原因となるクセの改善が治療の柱です。
  • 開口訓練・マッサージ:症状が落ち着いてきた段階で、筋肉をほぐし可動域を回復させます。
  • 薬物療法:痛みが強い時期には消炎鎮痛薬を使うことがあります。

こんなときは早めに受診を

ひとつでも当てはまったら、歯科へご相談ください

  • 口が指2本分以下しか開かない(開かなくなった)
  • 口が閉じられなくなった(脱臼の可能性。無理に閉じようとせず、できるだけ早く受診してください
  • 痛みが1〜2週間以上続いている、強くなっている
  • 食事に支障が出ている

顎関節症は命に関わる病気ではありませんが、放置してクセや負担が続くと長引きやすくなります。「音が鳴るだけで痛みはない」段階なら経過観察で良いことも多いので、まずは一度チェックを受けて、ご自身のタイプと対処法を知っておくと安心です。

あわせて読みたい


よくある質問(FAQ)

Q. 顎関節症は自然に治りますか?

A. 多くの方は、顎を休ませる・クセを直すといったセルフケアと生活指導で、数週間〜数ヶ月のうちに症状が落ち着いていきます。日本顎関節学会も、まずは手術をしない「元に戻せる治療」から始めることを推奨しています。ただし、痛みが強くなる場合や口が開かなくなった場合は早めに受診してください。

Q. 顎がカクカク鳴るだけで痛みはありません。放置しても大丈夫?

A. 音だけで痛みや開けにくさがなければ、経過観察でよいことが多いです。とはいえ、音に加えて「開きにくい」「痛む」が出てきたときは、関節円板のずれが進んでいるサインのことがあるため、一度診てもらうと安心です。

Q. マウスピース(スプリント)は作ったほうがいいですか?

A. 就寝時に使うスタビリゼーション型のスプリントは、自己開口訓練とあわせて初期治療の選択肢として提案されています(日本顎関節学会 初期治療診療ガイドライン2023改訂版)。ただし全員に必須ではなく、合わない装置はかえって負担になることもあるため、歯科医師の診断のうえで検討しましょう。

Q. 顎関節症は珍しい病気ですか?

A. いいえ。米国NIH(NIDCR)の資料では成人の約5〜12%にみられ、慢性の痛みとしては珍しく若い世代に多く、女性に約2倍多いと報告されています。ありふれた不調ですので、必要以上に不安にならず、ご自身のタイプと対処法を知っておくことが大切です。

参考にした主な文献

  1. 一般社団法人 日本顎関節学会 編「顎関節症治療の指針 2020」
  2. 日本顎関節学会 診療ガイドライン委員会 編「顎関節症初期治療診療ガイドライン 2023改訂版」
  3. Schiffman E, et al. Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders (DC/TMD) for Clinical and Research Applications. J Oral Facial Pain Headache. 2014;28(1):6-27.
  4. National Institute of Dental and Craniofacial Research (NIDCR). Prevalence of TMJD and its Signs and Symptoms.
  5. Graf H. Physiologic stress and tooth contact. Dent Clin North Am. 1969.
監修者 林 剛永

執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi)
日本・米国歯科医師/口腔インプラント Diplomate(ABOI/ID・AO)| DDS・MS・DABOI/ID・DAO・AAID Fellow