歯周病

歯周病と糖尿病の関係|双方向の悪循環と、治療でHbA1cが改善する理由

この記事は一般的な情報提供です。 持病のある方の治療方針は、担当の歯科医師・内科医にご相談ください。

「糖尿病があると歯周病になりやすい」——聞いたことはあっても、なぜなのか、どちらがどちらに影響するのか、はっきり知る機会は少ないかもしれません。じつはこの2つは、お互いを悪くし合う「双方向」の関係にあることが、数多くの研究でわかっています。

大切なのは、これが一方通行ではないということ。糖尿病が歯周病を進める一方で、歯周病もまた血糖コントロールを乱します。裏を返せば、片方をきちんとケアすると、もう片方も良くなりうる——この記事では、その関係を一次資料にもとづいて整理します。

この記事の要点

  • 歯周病と糖尿病は双方向——お互いを悪化させ合います。
  • 糖尿病があると歯周病は進みやすく、歯周病は「糖尿病の第6の合併症」とも呼ばれます。
  • 逆に歯周病(炎症)は血糖を乱し、2型糖尿病の発症リスクを高めるという報告もあります。
  • 歯周治療でHbA1cが改善したとの報告があり、歯科と内科の連携が力になります。
ひとことで言うと
糖尿病と歯周病は「どちらか一方が原因」ではなく、お互いに悪くし合う悪循環になりがち。だからこそ、両方を同時にケアすることが、いちばんの近道です。

歯周病と糖尿病は「双方向」の関係

まず全体像です。下の図のように、2つは矢印が両方向に向いています。歯周病の炎症が糖尿病を悪くし、糖尿病がまた歯周病を悪くする——この繰り返しが「悪循環」です。

歯周病と糖尿病の双方向の関係。歯周病の炎症がインスリンの働きを妨げ、糖尿病の高血糖が歯周病を悪化させる。
▲ 歯周病 ⇄ 糖尿病は双方向。片方の治療でもう片方も改善しうる。

ここからは、その一つひとつの向きを、研究にもとづいて見ていきます。

なぜ、糖尿病だと歯周病が悪くなるの?

血糖が高い状態が続くと、体にはいくつかの変化が起こります。感染に弱くなり(免疫・白血球の働きの低下)血管がもろくなり傷の治りが遅くなる。さらに高血糖ではAGEs(終末糖化産物)という物質が組織にたまり、炎症を強めます。唾液が減って口が乾きやすくなることも重なり、歯周組織が壊れやすくなるのです。

実際の数字でも、2型糖尿病の人は、そうでない人に比べて歯周病の発症が約2.6倍多いと報告されています(ピマインディアン研究)。血糖コントロールが悪いほど悪化しやすく、HbA1cが7.0%以上になると歯周組織の悪化が目立つとされています。こうした深い関わりから、歯周病は「糖尿病の第6の合併症」とも呼ばれます。これは1993年に歯周病学者のLöe(レー)が提唱した考え方で(Diabetes Care 1993)、糖尿病と歯周病の深い関わりを表す言葉として広く使われています。

逆に、歯周病は糖尿病を悪くする

驚かれるかもしれませんが、影響は逆向きにも働きます。歯周病は歯ぐきの慢性的な炎症です。この炎症から出る物質(TNF-αなどの炎症性サイトカイン)が血液に流れ込むと、インスリンの働きを妨げて(インスリン抵抗性)、血糖が下がりにくくなるのです。

その結果、歯周病は将来の糖尿病そのもののリスクにも関わります。研究では、歯周炎がある人は2型糖尿病を発症するリスクが約26%高い(ハザード比1.19〜1.33)と報告され、日本の久山町研究でも、重い歯周病の人は10年後に血糖の異常を生じるリスクが2〜3倍に上がっていました。

歯周治療で、血糖(HbA1c)が改善する

ここが希望の持てるところです。歯周病を治療して歯ぐきの炎症が治まると、妨げられていたインスリンの働きが戻り、血糖の指標(HbA1c)が改善したという報告が積み重なっています。

歯周治療によるHbA1c改善の報告例。メタ分析で約0.4%、強力な治療で12か月後0.6%の低下。
▲ 歯周治療でHbA1cが改善したとの報告(数値には個人差)。

数値には幅がありますが、3〜4か月後にHbA1cが約0.4%下がったとするメタ分析や、強力な治療で12か月後に0.6%下がったという報告があります。HbA1cの0.4%前後の改善は、血糖管理のうえで意味のある変化とされています。もちろん歯周治療は「血糖を下げる薬」ではありませんが、糖尿病ケアを後押しする一手になり得ます。

だから「歯科と内科、両方のケア」を

双方向ということは、裏返せば好循環にもできるということ。血糖を整えれば歯周病が落ち着きやすく、歯周病を治せば血糖が整いやすくなります。糖尿病をお持ちの方は、内科の治療と並行して、定期的な歯科でのチェックと歯周ケアをぜひ習慣にしてください。可能であれば、かかりつけの内科と歯科で情報を共有できると理想的です。

糖尿病のある方に、特に気をつけてほしいこと

  • 歯ぐきの出血・腫れ・口臭は歯周病のサイン。痛みがなくても歯科でチェックを。
  • 血糖コントロールが乱れると歯周病も悪化しやすくなります。両方を一緒に管理しましょう。
  • 歯科を受診するときは、糖尿病であること・服薬内容を必ず伝えてください。

安心して読んでほしいこと

「歯周病も糖尿病も」と聞くと不安になるかもしれませんが、逆に言えば片方のケアがもう片方の助けになるということです。歯みがきや定期受診といった毎日の積み重ねが、歯だけでなく全身の健康につながります。できることから、一緒に始めていきましょう。


よくある質問(FAQ)

Q. 糖尿病だと、必ず歯周病になりますか?

A. 必ずではありません。ただしなりやすく、進みやすいのは確かです。血糖コントロールと毎日のケア、定期的な歯科受診でリスクは十分に下げられます。

Q. 歯周病を治せば、糖尿病も治りますか?

A. 糖尿病が「治る」わけではありません。ただし歯周治療でHbA1cが改善したという報告があり、血糖管理を後押しする効果は期待できます。あくまで内科治療と組み合わせるものと考えてください。

Q. HbA1cが高めです。歯科でも何かできますか?

A. はい。歯ぐきに炎症があれば、その治療が血糖管理の助けになる可能性があります。歯科受診の際に糖尿病であることとHbA1cの値を伝えると、より安全で適切なケアが受けられます。

Q. 糖尿病だと歯の治療は受けられない?

A. 受けられます。多くの治療は問題なく行えますが、血糖の状態によっては配慮が必要なこともあります。必ず糖尿病であることを歯科に伝え、相談しながら進めましょう。

参考にした主な文献

  1. 日本歯周病学会「糖尿病患者に対する歯周治療ガイドライン」改訂第2版・改訂第3版(2023)——双方向性、HbA1c改善、発症リスク、機序.
  2. 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024」第16章 歯周病.
  3. Simpson TC, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022(歯周治療とHbA1c、35試験・3,249名).
  4. Löe H. Periodontal disease: the sixth complication of diabetes mellitus. Diabetes Care. 1993;16(1):329-334.(「第6の合併症」という呼称の初出・提唱).
  5. 久山町研究、米国NHANES、ピマインディアン研究(各ガイドライン内引用).
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今の歯ぐきの状態は「歯周病セルフチェック(10項目)」で確認できます。治療の進み方は「歯周病の治し方・治療の流れ」もご覧ください。
執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi) DDS, MS, DABOI/ID・平和歯科医院(愛知県西尾市)
日米で歯科医師免許を持つ口腔インプラント専門医。科学的根拠にもとづく歯科情報の発信に取り組んでいます。著者プロフィールは運営者情報ページをご覧ください。

ABOUT ME
林剛永 D.D.S., M.S., DABOI
2015年 大阪大学歯学部卒業。大阪大学歯学部附属病院での研修、約4年間の開業医勤務を経て、2020年より米国カリフォルニア州 Loma Linda大学大学院に留学し、インプラント歯科学を専攻・修了。ABOI/ID(米国口腔インプラント学会)ボード認定医(Diplomate)。現在は、インプラント治療を中心に臨床に従事しています。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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