「妊娠中だけど、歯が痛い……でもレントゲンって、お腹の赤ちゃんに影響しないの?」——妊娠中は、普段なら気にしないことまで心配になりますよね。歯の治療を我慢すべきか、迷っている方も多いはずです。
結論から言うと、妊娠中でも歯科のレントゲンは、どの時期でも受けられます。赤ちゃんが受ける放射線はごくわずかで、影響が出るとされる目安とは桁が大きく違います。この記事では、その理由を一次資料の数値とともに、やさしく解説します。
- 歯科のレントゲンは妊娠のどの時期でも受けられます(ADA・ACOG・AAOMR)。
- 放射線が当たるのは口元で、お腹から離れているため、胎児が受ける線量はほぼゼロ。影響が出ないとされる目安(50mGy)とは桁違いに小さい量です。
- むしろ、必要な検査や治療を我慢するほうがリスクになることも。歯の感染や強い痛みは、我慢せず相談を。
妊娠中でも、歯のレントゲンは受けて大丈夫?
はい。歯科のレントゲンは、妊娠のどの段階でも安全に受けられます。
アメリカ歯科医師会(ADA)は、産婦人科学会(ACOG)や口腔顎顔面放射線学会(AAOMR)の見解をふまえ、「歯科のレントゲンは妊娠のどの時期でも安全で、腹部や甲状腺の遮蔽(防護)はもはや必要ない」と明記しています(ADA, Oral Health Topics: Pregnancy)。日本歯科放射線学会も、生殖腺(卵巣)の線量は極端に低いとしています(防護エプロン使用についての指針, 2015)。
赤ちゃんへの影響は? ― 数字で見る「安全のものさし」
いちばん気になるのは、やはり赤ちゃんへの影響ですよね。ここは数字で見ると安心できます。

アメリカ産婦人科学会(ACOG)は、「胎児の被ばくが50mGyを下回る場合、胎児の異常や流産の増加は報告されていない」とし、必要な検査は控えるべきではないと明言しています(ACOG Committee Opinion 723, 2017)。国際放射線防護委員会(ICRP)も、胎児に確定的な影響が出るとされる目安を約100mGyとしています(ICRP Publication 84)。
これに対して、歯科のレントゲンで胎児が受ける線量は「ほぼゼロ」。放射線が当たる方向(主線束)が口元で、お腹から離れているうえ、散乱してお腹に届くわずかな線量も、上の目安とは桁が何段階も違うほど小さいのです。だから「妊娠中の歯科レントゲンで赤ちゃんに影響が出た」という心配は、通常は必要ありません。
鉛エプロンをしなくても平気?
「昔は必ず鉛のエプロンをかけたのに、最近しないけど大丈夫?」と不安に思う方もいます。これは防護をやめたのではなく、より新しい科学的根拠にもとづいた判断です。研究が進み、鉛エプロンによる線量低減効果はごくわずかで、むしろ位置がずれて撮り直し(=余計な被ばく)につながることがわかってきました。そのためAAOMRは2023年に「日常的な患者の遮蔽は推奨しない」との見解を示しています(AAOMR, JADA 2023)。もちろん、安心のために希望すれば使ってもらえますので、遠慮なく伝えてください。
むしろ、我慢するほうがリスクになることも
妊娠中は、ホルモンの影響で歯ぐきが腫れやすく(妊娠性歯肉炎)、むし歯も進みやすくなります。「念のため」でレントゲンや治療を我慢して、感染や強い痛みを放置するほうが、かえってお母さんと赤ちゃんの負担になることもあります。ACOGも、必要な歯科ケアは妊娠中でも行うべきとしています。気になる症状があれば、我慢せず歯科医院に相談してください。受診の際は妊娠していること(週数)を伝えると、より安心して進められます。
歯科のレントゲンで赤ちゃんが受ける線量は、影響が出るとされる目安のはるか手前で、通常は心配のいらない量です。それでも不安なときは、その気持ちを担当医に伝えて大丈夫。撮る目的や、どうしても今必要かを一緒に確認しながら、納得して進められます。
よくある質問(FAQ)
Q. レントゲンを撮るなら、妊娠のどの時期がいいですか?
A. 歯科のレントゲンはどの時期でも受けられます。線量がごくわずかなため、時期による大きな差はありません。体調の落ち着く安定期(中期)が受診しやすい方も多いですが、痛みや腫れがあるときは時期を問わず早めに相談を。
Q. 妊娠に気づかず撮ってしまいました。大丈夫でしょうか?
A. 過度な心配はいりません。歯科レントゲンで胎児が受ける線量は、影響が出るとされる目安(50mGy)を大きく下回ります。気になる場合は、担当の歯科医師や産婦人科に相談すると安心です。
Q. 授乳中のレントゲンは避けるべき?
A. 歯科のレントゲンは母乳に影響しません。授乳中でも通常どおり受けられます。
Q. どうしても不安です。撮らずに治療できませんか?
A. 症状によっては応急的な対応が可能なこともありますが、むし歯の深さや根の状態はレントゲンでしか正確にわからないことが多く、撮らないことで適切な治療が遅れる不利益のほうが大きい場合があります。不安な気持ちは遠慮なく担当医に伝えてください。
参考にした主な文献
- American College of Obstetricians and Gynecologists. Committee Opinion No. 723: Guidelines for Diagnostic Imaging During Pregnancy and Lactation. Obstet Gynecol. 2017;130(4):e210-e216(50mGy未満で胎児の異常・流産の増加は報告なし/必要な検査は控えるべきでない).
- ICRP. Pregnancy and Medical Radiation, Publication 84(胎児の確定的影響のしきい値の目安 約100mGy).
- American Dental Association. Oral Health Topics: Pregnancy(妊娠のどの時期も安全・遮蔽は不要/ACOG・AAOMRの見解を含む).
- American Academy of Oral and Maxillofacial Radiology. Patient shielding during dentomaxillofacial radiography. J Am Dent Assoc. 2023.
- 日本歯科放射線学会 防護委員会. 歯科エックス線撮影における防護エプロン使用についての指針. 2015(生殖腺線量は極端に低い).
- Ludlow JB, Davies-Ludlow LE, White SC. Patient risk related to common dental radiographic examinations. J Am Dent Assoc. 2008;139(9):1237-1243(歯科各撮影の実効線量).
この記事は一般的な情報提供です。 個別の検査の必要性や妊娠中の対応は、担当の歯科医師・産婦人科医にご相談ください。
執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi)DDS, MS, DABOI/ID, DAO・平和歯科医院(愛知県西尾市)|著者プロフィールは運営者情報ページをご覧ください。
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