ズキズキと脈打つような痛みで、夜も眠れない——歯の痛みのなかでも、とりわけつらいのがこのタイプです。冷たいものや熱いものがしみて、刺激がなくなってもなかなか痛みが引かない。そんなときに疑われるのが「歯髄炎(しずいえん)」です。

「歯髄炎=もう神経を抜くしかない」と思ってしまいますよね。でも、じつはそうとは限りません。炎症が軽いうちなら、神経を残せることもあるのです。ここでは、歯髄炎がどんな状態で、どう対応するのかを、なるべくやさしく説明します。

ひとことで言うと
歯髄炎は、歯の芯にある神経の集まり「歯髄」が炎症を起こした状態です。軽い「可逆性」なら原因を取り除いて神経を残せることもありますが、刺激がなくてもズキズキ痛む「不可逆性」に進むと、神経の処置(根管治療)が必要になります。

この記事のポイント

  • 歯髄炎には、神経を残せる可能性がある「可逆性」と、神経の処置が必要な「不可逆性」があります。
  • 見分けの目安は、刺激がなくなったあとも痛みが続くか/何もしなくても痛むか。夜間にズキズキ痛むのは要注意のサインです。
  • 原因の多くはむし歯。放っておくと神経が死に、根の先に膿がたまることもあるため、痛みが強い・長引くときは早めに歯科へ。

歯髄炎って、どんな状態?

健康な歯と、歯髄が赤く炎症した歯(歯髄炎)の断面を並べて比較したイラスト。
▲ 左は健康な歯髄、右は炎症で赤く腫れた歯髄。硬い組織に囲まれ逃げ場がないため、腫れると強い痛みが出ます

歯の中心には「歯髄」という、神経や血管が集まった歯の芯にあたる部分があります。この歯髄が細菌や刺激によって炎症を起こし、腫れてしまった状態が歯髄炎です。

歯髄は硬い象牙質に囲まれた狭い空間にあるため、炎症で腫れても逃げ場がなく、内側から圧が高まって強い痛みが出ます。夜、横になると痛みが増すのも、頭の血流が増えて歯髄の内圧が高まりやすいためと考えられています。

なぜ、歯髄炎になるの?

歯髄炎は、外からのさまざまな刺激が歯髄に届くことで起こります。ただし、刺激の強さと歯や歯髄側の抵抗力とのバランスによるので、刺激があれば必ず起こるわけではありません。主なきっかけは次のとおりです。

① 細菌によるもの(最も多い)

いちばん多い原因は細菌感染で、その代表がむし歯です。むし歯が深く進んで歯髄に達すると、細菌が神経に感染して炎症を起こします。ほかに、外傷や歯周病から根の先を通じて感染する経路もあります。

② 物理的な刺激

歯をぶつけた外傷、歯ぎしりなどによるすり減り、歯を削るときの熱、まれに飛行機や潜水での気圧変化などが刺激になることがあります。

③ 化学的な刺激・そのほか

詰め物・被せ物に使う材料の刺激が原因になることもあり、歯髄にやさしい材料が選ばれることもあります。ほかに歯髄の石灰化や歯の吸収などが関わる場合もあります。

「可逆性」と「不可逆性」——ここが分かれ道

歯髄炎でいちばん大事なのが、この2つの区別です。米国歯内療法学会(AAE)の診断用語でも、炎症が自分の力で治まりうる可逆性歯髄炎と、そのままでは治まらない不可逆性歯髄炎に分けて考えます。

可逆性歯髄炎では、冷たいものなどでしみても、刺激を取り除けば比較的すぐに痛みが引くのが特徴です。むし歯などの原因を取り除いて安静にすれば、神経を抜かずに治せることがあります。この段階は知覚過敏とも見分けが難しいことがあります。

不可逆性歯髄炎になると、熱いものや冷たいものの痛みが刺激を除いたあとも長く続いたり、何もしなくてもズキズキと痛んだりします。夜間や横になったときに強く痛むのも典型的で、この段階では歯髄が元に戻る力を失っているため、神経の処置が必要になります。

さらに放置して歯髄が死んでしまうと、細菌が根の先へ広がり、のちに急性化して激しく痛むフェニックス膿瘍を起こすこともあります。だからこそ、痛みが強いうちに受診することが大切です。

歯医者さんでは、どんな治療をするの?

治療は、炎症が可逆性か不可逆性かによって大きく変わります。

  • 可逆性のとき:むし歯など原因を取り除き、歯髄を保護する薬やつめ物で覆って(覆髄)、経過をみます。近年は、深いむし歯でもできるだけ神経を残す「歯髄保存」の考え方が重視されています(欧州歯内療法学会の見解ほか)。
  • 不可逆性のとき:炎症を起こした神経を取り除く根管治療(抜髄)を行います。神経を取ったあとは根の中を消毒してふさぎ、被せ物で歯を補強します。
  • 炎症が一部だけのとき:傷んだ部分の歯髄だけを取り、健全な神経を残す「生活歯髄断髄法」が選べる場合があります。特に根がまだ完成していない子どもの歯では、根の成長を続けさせられることがあります。
神経を残せる可能性(新しいエビデンス)
「神経に達した虫歯=すぐ全部抜く」は、いま見直されつつあります。成熟した永久歯の歯髄炎でも、適応が合えば傷んだ歯髄の一部だけを取る生活歯髄断髄法(pulpotomy)で神経を残せることがあり、複数の研究をまとめた解析では約86%(11研究)で良好な結果が報告されています(Ather ら, Sci Rep 2022)。ただし適応できるかは歯の状態しだいで、すべての不可逆性歯髄炎に使えるわけではありません。
よくある誤解:抗生物質(化膿止め)では治まりません
「化膿止め(抗生物質)」を飲んでも、歯髄炎の痛みは治まりません。抗生物質が不可逆性歯髄炎の痛みを減らすという十分な証拠はない、というのが現時点の科学的評価です(Cochraneレビュー)。市販の痛み止めは用法どおりなら応急的に有効ですが、錠剤を砕いて歯や歯ぐきに直接当てるのは危険(粘膜のやけど・潰瘍の原因)。温めると痛みが強まりやすいので、痛む間は患部を温めず、できるだけ早く歯科を受診してください。
歯髄炎の治療の3つの選択肢。神経を残して詰める・断髄・根管治療を比べた歯の断面イラスト。
▲ 歯髄炎の治療の選択肢。左=神経を残して詰める、中央=断髄(神経を一部残す)、右=根管治療(神経を全部取る)。段階と歯の状態に応じて選ばれます。

知覚過敏やむし歯との見分け方

いちばん知りたいのは、「これは様子を見ていい痛みなのか、それとも神経の治療が必要なのか」というところですよね。ざっくりした目安は次のとおりです。

刺激のある一瞬だけしみてすぐ治まるなら知覚過敏や可逆性の炎症のことが多く、むし歯の穴が神経に近いだけの段階もあります。一方、刺激のあとも痛みが長引く、何もしなくてもズキズキする、夜に痛んで眠れない——場合は不可逆性歯髄炎が疑われます。見た目や自覚症状だけでの自己判断は難しいので、迷ったら歯科で確かめるのが安心です。

こんなときは、早めに歯科へ

  • 何もしなくてもズキズキ痛む/夜に痛んで眠れない
  • 冷たい・熱いものの痛みが、刺激を除いても長く続く
  • ズキズキする痛みが数日おさまらない、または繰り返す
  • 痛みのあと急に痛みが消えた(神経が死んだ可能性)/歯ぐきが腫れてきた

安心して読んでほしいこと

強い歯の痛みは不安なものですが、歯髄炎は歯科でよく扱う病気で、適切に対応すれば痛みは必ず和らぎます。「神経を抜く」と聞くと怖く感じるかもしれませんが、早く受診できれば神経を残せる可能性も高まりますし、たとえ抜髄が必要でも、その後きちんと治療すれば歯を長く使っていけます。がまんせず、痛みが続くときは早めにご相談ください。


よくある質問(FAQ)

Q. 歯髄炎になったら、必ず神経を抜くのですか?

A. いいえ。炎症が軽い「可逆性歯髄炎」であれば、むし歯などの原因を取り除いて安静にすることで、神経を残せることがあります。ただし、刺激がなくてもズキズキ痛む「不可逆性歯髄炎」まで進むと、神経の処置(抜髄・根管治療)が必要になります。早めの受診ほど、神経を残せる可能性が高まります。

Q. 夜になると歯が痛むのはなぜですか?

A. 横になると頭部の血流が増え、炎症を起こした歯髄の内圧が高まりやすいためと考えられています。夜間や横になったときにズキズキ強く痛むのは不可逆性歯髄炎のサインのことがあり、早めの受診をおすすめします。

Q. 痛み止めで様子を見ても大丈夫ですか?

A. 一時的に和らげることはできますが、歯髄炎そのものは自然には治りにくく、放置すると神経が死んで根の先に膿がたまることがあります。痛み止めはあくまでつなぎと考え、痛みが強い・繰り返すときは歯科で原因の治療を受けてください。

Q. 神経を抜いた歯はどうなりますか?

A. 根管治療で神経を取り除いた歯は痛みを感じなくなりますが、もろくなりやすいため、被せ物などで補強することが多いです。治療後もむし歯や再感染は起こり得るので、定期的なメンテナンスが大切です。

Q. 痛み止めや化膿止め(抗生物質)でしのげば治りますか?

A. 市販の痛み止めは用法どおりなら一時的に痛みを抑えられますが、炎症の原因は消えません。とくに「化膿止め(抗生物質)」で歯髄炎の痛みは治まらないことが研究で示されています(Cochraneレビュー)。自己判断で抗生物質に頼らず、早めに受診してください。

参考にした主な文献

  1. American Association of Endodontists. AAE Consensus Conference Recommended Diagnostic Terminology. 2009.
  2. Duncan HF, ほか. European Society of Endodontology position statement: management of deep caries and the exposed pulp. International Endodontic Journal. 2019.
  3. 戸田忠夫 ほか(編). 歯内療法学 第3版. 医歯薬出版.
  4. Agnihotry A, ほか. Antibiotic use for irreversible pulpitis. Cochrane Database Syst Rev. 2019;5:CD004969. doi:10.1002/14651858.CD004969.pub5
  5. Ather A, Patel B, Gelfond JAL, Ruparel NB. Outcome of pulpotomy in permanent teeth with irreversible pulpitis: a systematic review and meta-analysis. Sci Rep. 2022;12:19664. doi:10.1038/s41598-022-20918-w
  6. Duncan HF, ほか. European Society of Endodontology position statement: Management of deep caries and the exposed pulp. Int Endod J. 2019;52(7):923-934. doi:10.1111/iej.13080
監修者 林 剛永

執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi)
日本・米国歯科医師/口腔インプラント Diplomate(ABOI/ID・AO)| DDS・MS・DABOI/ID・DAO・AAID Fellow