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親知らずは抜くべきか?見極めのポイントを歯科医師が解説

「レントゲンを撮ったら親知らずがありますね、と言われたけど、痛くも痒くもないのに抜く必要があるんですか?」よく受ける質問です。「親知らず=とりあえず抜くもの」というイメージがありますが、これは正確ではありません。国内外の研究やガイドラインをもとに、抜くべきケースと残してよいケースの見分け方をまとめました。

この記事の3つのポイント
  • 「親知らず=とりあえず抜歯」は世界的にはもう見直されている考え方です
  • 抜歯の要否は、痛みの有無ではなくレントゲン・CTでの客観的な評価で判断します
  • 健康な親知らずは、将来の「歯の予備(自家歯牙移植)」として残す選択肢もあります

1.親知らずはなぜトラブルを起こしやすいのか

親知らず(第三大臼歯)は10代後半〜20代前半に一番奥に生えてくる歯です。人類学の研究では、農耕による柔らかい食生活への移行で顎が縮小した一方、歯のサイズはほぼ変わらず、歯とあごのサイズのミスマッチが生じたことが親知らずのスペース不足の一因とされています(Pinhasi et al., 2015, PLOS ONE)。まっすぐ生えず歯ぐきに一部覆われたままだと汚れがたまりやすく、炎症の原因になります。

顎の痛みを感じる女性のイメージ

親知らず周辺の炎症は、顎全体の痛みや違和感として現れることもあります

2.「とりあえず抜く」は国際的にはもう見直されている

イギリスの医療技術評価機関NICEは2000年発表・2015年レビューのガイダンス(TA1)で、次のように明言しています。

病的な所見のない埋伏智歯(親知らず)を予防的に抜歯する慣行は、中止されるべきである。
“The practice of prophylactic removal of pathology-free impacted third molars should be discontinued.”
――NICE Technology Appraisal Guidance TA1

智歯周囲炎も「初回だけなら手術適応とすべきでない」とし、繰り返す場合のみ抜歯を検討するとしています。つまり「問題を起こしている、あるいは起こす可能性が高い親知らずだけを抜く」というのが現在の基本方針です。

3.抜歯を検討すべきケース

親知らずに食べ物が挟まるイメージ

親知らずは歯ブラシが届きにくく、食べかすが残って炎症の引き金になりやすい部位です

  • 智歯周囲炎を繰り返している何度も繰り返すなら抜歯が現実的な選択肢に。
  • 修復が難しい虫歯・歯髄の病変がある:器具が届きにくく治療・再発防止が困難な場合。
  • 手前の歯に悪影響を与えている:隣の歯の根の吸収や虫歯の原因になっている場合。
  • のう胞や腫瘍ができている含歯性のう胞は「無症状でレントゲンから偶然見つかる」ことが多く、定期確認が重要です(日本口腔外科学会)。
  • 矯正治療の妨げになる:スペース確保や歯の移動の障害になる場合。

4.残しておいてよいケース、そして「使い道」も

まっすぐ生えて噛み合っている/歯ブラシが届き清掃できている/レントゲンで異常がない――この3つがそろえば無理に抜く必要はないケースが多いです。

健康な奥歯のイメージ

健康にまっすぐ生えた親知らずは、将来「歯の予備」として役立つこともあります

さらに、健康な親知らずは将来ほかの奥歯を失ったときの「歯の予備」(自家歯牙移植)として使える可能性もあります。

豆知識:自家歯牙移植の成功率
根が未成熟な状態での移植は1〜5年で約95%、10年後でも約90%、根完成後でも5年生存率80.5%と報告されています(Dioguardi et al., 2021, Bioengineering)。

5.自己判断はせず、まずは画像検査を

痛みの有無だけで自己判断できるものではありません。智歯周囲炎の初期やのう胞は無症状のことが多いためです。特に下顎の親知らずは「下歯槽神経」が近く、抜歯前はパノラマレントゲンとCTで位置関係を確認するのが一般的です。

先延ばしにしすぎない、という視点
抜歯が必要と分かっている場合、25歳以上は25歳未満より合併症リスクが約1.46倍、26〜35歳で最大になるとの報告があります(Chuang et al., 2007)。※健康な歯を若いうちに予防的に抜くべき、という意味ではありません。

まとめ

親知らずは「生えていたら抜くもの」ではなく、「問題を起こしている、または起こしそうなものだけを抜く」が現在の基本的な考え方です。自己判断はせず、レントゲン・CTでの評価を受けましょう。

参考文献・出典

  1. NICE. Guidance on the extraction of wisdom teeth(TA1). 2000(2015年レビュー). nice.org.uk/guidance/ta1
  2. Pinhasi R, et al. PLOS ONE. 2015. doi.org/10.1371/journal.pone.0117301
  3. 日本口腔外科学会「口腔外科相談室:嚢胞」 jsoms.or.jp
  4. Chuang SK, et al. J Oral Maxillofac Surg. 2007.
  5. Dioguardi M, et al. Bioengineering. 2021. PMC8468762

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の治療方針は歯科医師による診察・画像検査の結果に基づいて判断してください。

ABOUT ME
林剛永
2015年に大阪大学歯学部卒業、同大学での研修後、現在は勤務医として日々診療に全力投球中。大学卒業後、各歯科医院によって方針や治療の幅や質にとても大きな違いがあることに驚き、患者さんが自分に最もあった治療を受けられるようになる一助になればと願い、当サイトを立ち上げました。
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