「歯のレントゲン、この前も撮ったばかりなのに、また撮って大丈夫?」——歯科の受付でそう感じたことはありませんか。とくに小さなお子さんや、妊娠中の方は、放射線と聞くとどうしても不安になりますよね。
結論から言うと、歯科のレントゲンで受ける放射線は、日常生活で自然に浴びている放射線のほんの数日分ほどで、通常の診療で心配するような量ではありません。とはいえ「なんとなく大丈夫」ではなく、数字と根拠で納得できたほうが安心できるはず。この記事では、実際の被ばく量を一次資料の数値で示しながら、やさしく解説します。
- 歯のレントゲン1回の被ばくは自然放射線の数日〜2週間分ほどと、ごくわずかです。
- デンタル(口内法)は約数µSv、パノラマは約14〜24µSv、歯科用CBCTでも小照射野なら平均約84µSv。胸部X線や飛行機での被ばくと同じかそれ以下の範囲です。
- 妊娠中でも、歯科のレントゲンはどの時期でも受けられます。主線束(放射線の当たる方向)はお腹から離れており、胎児が受ける線量はごくわずかです。
目次
そもそも、放射線の「被ばく量」ってどう測るの?
放射線が体に与える影響の大きさは「実効線量」で表し、単位はシーベルト(Sv)を使います。
歯科で扱う量はごく小さいので、その100万分の1にあたるマイクロシーベルト(µSv)という単位で示すのが一般的です。1,000µSv=1ミリシーベルト(mSv)、1,000mSv=1Svです。
ここで大切なのは、私たちはもともと、何もしなくても放射線を浴びて暮らしているということ。大地や宇宙、食べ物、空気中のラドンなどからの「自然放射線」です。世界平均で年間およそ2.4mSv(=2,400µSv)、日本でも年間およそ2.1mSvとされています(UNSCEAR 2008/Omori ら, J Radiol Prot 2020)。1日あたりにならすと、約6.6µSvです。この「自然に浴びている量」を”ものさし”にすると、歯科の被ばくがどれくらいかがイメージしやすくなります。
歯のレントゲン、実際の被ばく量はどれくらい?
歯科のレントゲンには、小さなフィルムを口の中に入れて撮るデンタル(口内法)、あご全体をぐるっと撮るパノラマ、立体的に撮影する歯科用CBCT(コーンビームCT)があります。それぞれの実効線量を、放射線防護の代表的な研究から見てみましょう。

- デンタル(口内法):ごく小さく、数µSv程度。奥歯のバイトウィング4枚でも約5.0µSvでした(Ludlow ら, JADA 2008/デジタル・高感度・矩形絞り使用時)。
- パノラマ:機種により約14〜24µSv(Ludlow ら, JADA 2008)。
- 歯科用CBCT:撮影範囲(照射野)で大きく変わります。小照射野で平均約84µSv(5〜652µSv)、中〜大照射野では平均約177〜212µSvと報告されています(Ludlow ら, Dentomaxillofac Radiol 2015・9機種+既報のメタ解析)。
同じ「歯のレントゲン」でも、デジタル機器・高感度センサー・矩形絞り(照射範囲をしぼる工夫)を使うと被ばくは大きく下がります。数値に幅があるのはこのためで、最新の設備ほど少ない線量で撮影できます。
自然放射線とくらべると、どのくらい?
ここが一番知りたいところですよね。1日あたり約6.6µSvの自然放射線を”ものさし”にすると——
- デンタル1枚(約5µSv)=自然放射線の約1日分
- パノラマ(約20µSv)=約3日分
- 歯科用CBCT・小照射野(約84µSv)=約2週間分
比較のために、医療でおなじみの胸部X線は1回およそ20〜50µSv、飛行機で東京〜ニューヨークを往復すると宇宙線で約100〜200µSvを浴びます。つまり、歯のレントゲンは、飛行機の旅や胸のレントゲンと同じか、それ以下。日常の延長線上にある、とても小さな量だとわかります。
妊娠中でも、歯のレントゲンは受けて大丈夫?
はい。妊娠中でも、歯科のレントゲンはどの時期でも受けられます。
アメリカ歯科医師会(ADA)は、産婦人科学会(ACOG)や口腔顎顔面放射線学会(AAOMR)の見解をふまえ、「歯科のレントゲンは妊娠のどの段階でも安全で、腹部や甲状腺の遮蔽(防護)はもはや必要ない」と明記しています(ADA, Oral Health Topics: Pregnancy)。理由は、放射線が当たる方向(主線束)が口元で、お腹から離れていること、そして散乱してお腹に届くわずかな線量が、胎児に影響が出るとされる目安(確定的影響のしきい値=約100mGy/ICRP)とは桁が何段階も違うほど小さいからです。
日本でも、日本歯科放射線学会は、パノラマ撮影では防護エプロンを使わない方がよく、生殖腺(卵巣・精巣)の線量は極端に低いとしています(歯科エックス線撮影における防護エプロン使用についての指針, 2015)。「念のため」で撮影を我慢して、むし歯や歯周病、親知らずのトラブルを見逃すほうが、かえってお母さんと赤ちゃんの負担になることもあります。気になる時期や体調は、担当の歯科医師に遠慮なく相談してください。
最近、鉛エプロンをしないのはなぜ?
「昔は必ず鉛のエプロンをかけたのに、最近しないけど大丈夫?」と不安に思う方もいます。じつはこれ、防護をやめたのではなく、より新しい科学的根拠にもとづいた判断です。
研究が進み、鉛エプロンや甲状腺カラーによる線量低減効果はごくわずかで、むしろ位置がずれて写り込み、撮り直し(=余計な被ばく)につながることがわかってきました。そのためAAOMRは2023年に「日常的な患者の遮蔽は推奨しない」との見解を示し(AAOMR, JADA 2023)、日本歯科放射線学会も同様の方針を示しています。今は、そもそもの線量を下げる(デジタル化・矩形絞り・必要な範囲だけ撮る)ことが、いちばん確実で効果的な防護と考えられています。
歯科のレントゲンは、必要なときに、必要な範囲だけを、できるだけ少ない線量で撮るのが原則です。1回あたりの被ばくは自然放射線の数日分ほどで、妊娠中や小さなお子さんでも、通常の診療で心配するような量ではありません。むしろ、レントゲンで見えない部分を確認できることのメリットのほうが大きい場面がほとんどです。
よくある質問(FAQ)
Q. 短期間に何度も撮って大丈夫ですか?
A. 1回あたりが自然放射線の数日〜2週間分ほどと小さいため、治療で必要な範囲であれば過度に心配はいりません。ただし「必要なときだけ撮る」が原則なので、不安なときは目的を歯科医師に確認しましょう。
Q. 子どものレントゲンは大人より危険ですか?
A. お子さんは放射線への感受性がやや高いため、より少ない線量で、必要な範囲だけ撮るよう配慮されます。歯科用CBCTのメタ解析でも小児の線量は評価され、適切な設定なら過度な心配はいりません(Ludlow ら, 2015)。
Q. 授乳中はレントゲンを避けるべき?
A. 歯科のレントゲンは母乳に影響しません。授乳中でも通常どおり受けられます。
Q. 被ばくを減らす方法はありますか?
A. デジタル撮影・矩形絞り・必要最小限の撮影が有効です。設備や方針は歯科医院で異なるので、気になれば「デジタルですか?」と尋ねてみてください。
Q. レントゲンなしで治療できませんか?
A. むし歯の深さ、骨の状態、親知らずと神経の位置などは、目視だけでは正確にわからないことが多く、レントゲンは安全な治療のための大切な情報源です。撮らないことでリスクを見逃す不利益のほうが大きい場面が多くあります。
参考にした主な文献
- Ludlow JB, Davies-Ludlow LE, White SC. Patient risk related to common dental radiographic examinations: the impact of 2007 ICRP recommendations regarding dose calculation. J Am Dent Assoc. 2008;139(9):1237-1243.
- Ludlow JB, Timothy R, Walker C, et al. Effective dose of dental CBCT—a meta analysis of published data and additional data for nine CBCT units. Dentomaxillofac Radiol. 2015;44(1):20140197.
- UNSCEAR. Sources and Effects of Ionizing Radiation, UNSCEAR 2008 Report(自然放射線 世界平均 年間約2.4mSv).
- Omori Y, et al. Japanese population dose from natural radiation. J Radiol Prot. 2020;40(3)(日本の自然放射線 年間約2.1mSv).
- American Dental Association. Oral Health Topics: Pregnancy(ACOG・AAOMRの見解を含む).
- American Academy of Oral and Maxillofacial Radiology. Patient shielding during dentomaxillofacial radiography. J Am Dent Assoc. 2023.
- 日本歯科放射線学会 防護委員会. 歯科エックス線撮影における防護エプロン使用についての指針. 2015.
- ICRP. Pregnancy and Medical Radiation, Publication 84(胎児の確定的影響のしきい値の目安).
この記事は一般的な情報提供です。 個別の検査の必要性や妊娠中の対応は、担当の歯科医師にご相談ください。
執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi)DDS, MS, DABOI/ID, DAO・平和歯科医院(愛知県西尾市)|著者プロフィールは運営者情報ページをご覧ください。
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