米国の歯科大学のウェブサイトを開いて、まず面食らった——という話を、留学を考えている先生方からよく聞きます。Residency、Fellowship、Externship、Internship、Preceptorship、Advanced Clinical Training。似たような英単語が並んでいるのに、どれがどれだか分からない。同じ「1年間の臨床プログラム」でも、大学が違えば呼び名が違う。じつは、これは先生方の理解力の問題ではありません。米国には、プログラムの名称を統一するルールがそもそも存在しないからです。
では、何を手がかりにすればいいのか。答えは意外とシンプルで、名前ではなく「たった2つの質問」で見分ける——これだけです。この記事では、その2つの質問を軸に、米国で学ぶ道の全体像を1枚の地図に整理します。個別の手続きや体験談は連載の各稿にゆずり、ここでは「自分がどこを目指しているのか」を見定めるところまでをご案内します。
米国で学ぶ道は、まず臨床系か研究系かで分かれます。臨床系はさらに、CODA(米国歯科認定評議会)の認定を受けているかどうかで、その後に開ける扉がまったく違います。プログラムの名前は大学ごとに揺れるので、名前ではなく「患者を診られるか」「認定を受けているか」の2点で整理してください。
この記事のポイント
- 米国には、歯科プログラムの名称を統一する決まりがない。同じ内容でも大学によって呼び名が違う
- CODA認定プログラム(専門医12分野・AEGD・GPR)は資格や専門医試験につながる。非認定プログラムは技術を持ち帰るための道
- 「レジデンシー=大学院」ではない。本体はcertificate(修了証)で、修士号が付くかどうかは大学しだい
米国の歯科留学は、なぜプログラム名がこんなに分かりにくいのか
日本の歯科医師にとって、米国の制度がつかみにくい最大の理由は、「同じ言葉が、大学によって違うものを指している」ことにあります。
たとえばUCLA歯学部は、留学歯科医師向けのプログラムを「Advanced Clinical Training Program(ACTP)」と「Preceptorship Program」に分けています。前者は実際に手を動かす臨床トレーニングで、後者についてUCLAは「患者診療をともなわない見学プログラム」とはっきり書いています(UCLA School of Dentistry, Programs for International Dentists)。ところが別の大学では、ほぼ同じ内容を「Internship」や「Externship」と呼んでいることがあります。名前だけを頼りに出願すると、「手を動かせると思って渡米したのに、1年間ほとんど見学だった」という取り返しのつかないミスマッチが起こり得ます。
つまり、パンフレットに書かれた名称は入り口の看板にすぎません。中に入って何ができるのかは、別のものさしで測る必要があります。
覚えるのは、たった2つの質問
そのものさしが、次の2つです。プログラムの資料を読むときは、この順番で確認してください。
質問1:そのプログラムで、自分は患者を診られるのか。
見学中心か、指導のもとで実際に治療するのか。これは身につく技術の量を決めるだけでなく、ビザの種類や必要な手続きにも直結します。
質問2:そのプログラムは、CODAの認定を受けているのか。
CODA(Commission on Dental Accreditation)は、米国歯科医師会のもとで歯科教育プログラムの質を評価する機関で、1,400を超えるプログラムを認定しています。認定の有無は、修了後に専門医試験を受けられるか、州の免許審査で評価されるかを大きく左右します。

この2つの質問を組み合わせると、次の表のように整理できます。渡米してから「思っていたのと違う」となるのを防ぐために、出願前にどのマスに入るかを確かめてください。
| 患者を診る | 見学が中心 | |
|---|---|---|
| CODA認定あり | 専門医プログラム/AEGD/GPR 資格・専門医試験につながる |
基本的に該当なし |
| CODA認定なし | 実地研修型(Advanced Clinical Training など) 技術は身につくが資格にはつながりにくい |
見学型(Preceptorship など) 短期間で全体像をつかむのに向く |
臨床系①:CODA認定プログラム ── 資格につながる道
CODAは、歯学部の学位プログラムだけでなく、卒後の高度歯科教育プログラムも認定しています。日本の歯科医師が目指す先として現実的なのは、次の3種類です。
専門医プログラム(12分野)
米国で「専門医」として公に認められているのは、現在12分野です。歯科麻酔科、歯科公衆衛生、歯内療法、口腔顎顔面病理、口腔顎顔面放射線、口腔顎顔面外科、口腔内科、口腔顔面痛、矯正歯科、小児歯科、歯周病、補綴——この12分野が、米国歯科専門分野・認定機関認定委員会(NCRDSCB)によって認定されています。
インプラント歯科は、この12分野に含まれていません。米国でインプラントを深く学ぶ道は確かにありますが、それは「専門医になる道」とは別の枠組みです。日本で目にする「米国インプラント専門医」といった表現には、この点で注意が必要です。
AEGD と GPR ── 専門分野ではないけれど、認定されている
AEGD(Advanced Education in General Dentistry)とGPR(General Practice Residency)は、上の12分野には入りません。けれどもCODAの認定を受けた正規の卒後プログラムです。ADAは、AEGDを臨床技術の幅を広げるもの、GPRを病院で全身管理を含めて学ぶものとして紹介しています。専門分野を一つに絞りきれない方、あるいはまず米国の臨床現場に身を置きたい方にとって、現実的な入り口になります。
「レジデンシー=大学院」ではありません
ここが、日本の歯科医師がもっとも取り違えやすいところです。日本語で「大学院に留学する」と言うとき、多くの方は修士号や博士号を思い浮かべます。ところが米国の卒後臨床プログラムでは、本体はcertificate(修了証)であって、修士号はオプションです。ADAも、たとえば歯内療法について「certificateまたはMaster of Science」、口腔病理について「certificateおよび/またはMaster of Science」と記しています。つまり同じ分野でも、大学によってMSが付いたり付かなかったりします。
専門医試験(board)を受けるうえで問われるのは、修士号ではなくCODA認定プログラムの修了です。「修士号が取れる大学を選ぶ」という基準で絞り込むと、本来の目的から外れてしまうことがあります。
なお、これらのCODA認定プログラムの多くは、ADEA PASSという共通出願サービスを通じて出願します。2026–27年サイクルでは2026年5月13日に出願が開き、最初のプログラム締切は7月1日、サービス全体は2027年2月12日まで開いています。費用は1校目が199ドル、追加1校ごとに92ドルです。締切が渡米希望の1年以上前に来ることは、早い段階で知っておいてください。
臨床系②:認定を受けていないプログラム ── 技術を持ち帰る道
一方で、CODAの認定を受けていないプログラムも数多くあります。冒頭で触れたUCLAのACTPやPreceptorshipがこれにあたり、UCLA自身が「Advanced Clinical TrainingおよびPreceptorshipプログラムは、CODAの認定を受けていません」と明記しています。
患者を診るタイプと、見学が中心のタイプ
非認定プログラムは、さらに二手に分かれます。指導医のもとで実際に治療を行うタイプと、診療を見て学ぶタイプです。UCLAの例では前者がACTP(5つの専門領域で実地経験を積む、1〜3年)、後者がPreceptorship(1〜4クォーター、患者診療をともなわない)でした。この違いはパンフレットの表紙では分かりません。出願前に、プログラムディレクターに直接「自分は患者に触れるのか」を確認してください。
では、認定がなければ価値がないのか
そんなことはありません。非認定プログラムは、米国の資格を取るための道ではなく、技術と人脈を日本に持ち帰るための道だと考えると腑に落ちます。数か月から1年で、日本では見られない症例数や材料、チーム医療の組み立て方に触れられる。帰国後の診療に直接生きるものを取りに行く、という目的であれば、これは十分に合理的な選択です。
大切なのは、目的と手段を取り違えないことです。米国で専門医になりたいのに非認定プログラムに1年かけてしまう、あるいは技術だけ学びたいのに認定プログラムの厳しい出願要件に何年も費やす——どちらも、最初に地図を持っていれば避けられます。
フェローシップ ── もう一段深く、あるいは教えながら
レジデンシーを修了した先に、フェローシップという段があります。多くは1年で、より狭い領域を掘り下げたり、後輩を指導する側に回りながら学んだりします。
ただし、出願条件はプログラムによってかなり違うという点は押さえておいてください。たとえばメリーランド大学の口腔顎顔面外科フェローシップは、認定されたOMSレジデンシーの修了を「推奨」としつつ、一般外科1年+MD/DDS課程といった別ルートも認めています。一方、タフツ大学のインプラント歯科フェローシップのように、専門医レジデンシーの修了を前提としないものもあります。「フェローシップ=レジデンシー修了者のためのもの」と一律に考えず、個別に条件を読むのが確実です。
研究系:白衣ではなく、実験台の前に立つ道
ここまでは臨床系の話でした。もう一方の柱が研究系です。リサーチフェロー、客員研究員、あるいはPhD課程として、大学の研究室に籍を置きます。
臨床系との一番の違いは、患者を診ないことです。そのぶん米国の歯科免許は問われず、出願で重視されるのは臨床実績よりも研究計画と受け入れ教員とのつながりになります。ビザも、臨床研修とは別のJ-1 Research Scholarなどの区分が使われます。米国務省は、この区分を「研究プロジェクトに関連して研究・観察・助言を行うことを主目的として渡米する外国人のため」と説明しています。
「臨床がしたい」と思って渡米を考え始めた方でも、話を聞いていくうちに、じつはほしかったのは論文が書ける環境と国際的な共同研究者だった——というケースは少なくありません。臨床系と研究系を最初に切り分けておくのは、そのためでもあります。
「学ぶ道」と「米国で診療する免許」は、どこで交わるのか
以前の版でこの記事は、「学ぶ道と診療する道は別物」と書いていました。正確にはこう言い直すべきです——この2つは別物ではなく、途中で交わります。
CODA認定のレジデンシーでは、実際に患者を診ます。州によっては、研修期間中に使える限定的な免許が出ます。そして専門医試験を受ける資格そのものが、CODA認定プログラムの修了とひもづいています。つまり「学ぶ」を突き詰めていくと、どこかで免許と州の制度の話に必ず行き当たります。
ただし、そこから先は州ごとにルールが違い、変更も頻繁です。この記事ではこれ以上踏み込まず、連載の各稿にゆずります。
- ①デンタルスクールを卒業する ── 学位から入り直すルート
- ③Residencyプログラムを卒業する ── 筆者自身が通った道
- アメリカ歯科医師免許取得までの流れ ── 試験と州免許の全体像
- アメリカで歯科専門医を取得する方法 ── boardまでの道のり
歯科留学の道を決める、3つの問い
最後に、地図の上で自分の現在地を決めるための問いを3つ置いておきます。順番に答えてみてください。
問い1:持ち帰りたいのは、資格ですか、技術ですか、それとも業績ですか。
資格ならCODA認定プログラム、技術なら非認定の実地研修、業績なら研究系。ここで大枠が決まります。
問い2:何年、日本を離れられますか。
専門医プログラムは分野によって2〜6年。非認定プログラムは数か月〜3年。診療所や家族の事情と、ここで正直に突き合わせます。
問い3:米国で診療を続けたいですか、日本に帰りますか。
米国に残る前提なら免許と州の制度の検討が必須になり、準備の質がまったく変わります。帰国前提なら、認定の有無にこだわりすぎる必要はないかもしれません。
まとめ
米国で学ぶ道は、プログラム名で覚えようとすると必ず迷子になります。臨床系か研究系か、そして臨床系ならCODA認定があるかどうか——この2段階で整理すれば、たいていのプログラムは正しいマスに収まります。
そのうえで、「資格か、技術か、業績か」「何年出せるか」「帰国するか」の3つに答えれば、次に調べるべきことは自然と絞られてきます。そこから先の具体的な手続きは、連載の各稿で一つずつ見ていきましょう。
ここで扱った内容は、公的な資料で裏を取ったうえで書いています。ただし米国の歯科教育制度、とくに州ごとの免許要件やプログラムの認定状況は年単位で変わります。出願を具体的に検討される際は、必ず各大学とCODA・州歯科委員会の最新情報をご自身で確認してください。連載の目次はこちらから、関心のある稿へ進めます。
よくある質問
Q. 日本の歯科医師免許があれば、米国のレジデンシーに出願できますか。
A. 日本の免許だけで出願できるプログラムもありますが、多くのCODA認定プログラムは米国の歯科学位(DDS/DMD)や英語試験、NBDE/INBDEの成績などを求めます。要件はプログラムごとに異なるため、志望校のadmissions要件を一つずつ確認するのが確実です。学位から入り直すルートについては、連載の第03稿と第04稿で扱っています。
Q. certificate だけで、修士号がなくても大丈夫でしょうか。
A. 米国で専門医試験を受けるうえで問われるのは、CODA認定プログラムの修了です。修士号は付加価値であって必須条件ではありません。ただし帰国後にアカデミックなポジションを目指す場合は、学位が評価されることもあります。目的から逆算して決めてください。
Q. 認定を受けていないプログラムは、履歴書に書いても意味がないのでしょうか。
A. そんなことはありません。米国の資格にはつながりませんが、学んだ内容そのものは残ります。ただし「米国○○大学 留学」という書き方は、読む人によっては認定プログラムの修了と受け取られかねません。プログラムの名称と期間を正確に書くのが誠実だと考えています。
Q. インプラントを米国で学びたいのですが、どの道になりますか。
A. インプラント歯科はADA認定の12専門分野に含まれないため、「インプラント専門医プログラム」という正規ルートは存在しません。実際には、補綴や歯周病のレジデンシーの中で学ぶか、インプラントに特化したフェローシップや非認定プログラムを選ぶことになります。目的が資格なのか技術なのかによって、選ぶべき道が変わります。
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出典(すべて公式・確認日:2026年9月15日)
- National Commission on Recognition of Dental Specialties and Certifying Boards「Recognized Dental Specialties」 https://ncrdscb.ada.org/recognized-dental-specialties
- Commission on Dental Accreditation「Find a Program」 https://coda.ada.org/find-a-program
- American Dental Association「Postdoctoral education programs」 https://www.ada.org/resources/students/postdoctoral-education-programs
- UCLA School of Dentistry「Programs for International Dentists」 https://dentistry.ucla.edu/academics-admissions/programs-for-international-dentists
- UCLA School of Dentistry「Preceptorship Programs」 https://dentistry.ucla.edu/academics-admissions/programs-for-international-dentists/preceptorship-programs
- ADEA「Applying to ADEA PASS 2026-27 Cycle」 https://www.adea.org/PASSapp/Applying
- University of Maryland School of Dentistry「Oral and Maxillofacial Surgery Fellowship」 https://www.dental.umaryland.edu/oms/programs/fellowship/
- Tufts University School of Dental Medicine「Implant Dentistry One-Year Fellowship Program」 https://dental.tufts.edu/academics-admissions/postgraduate-programs/implant-dentistry-one-year-fellowship-program
- U.S. Department of State「J-1 Visa Exchange Visitor Program: Research Scholar」 https://j1visa.state.gov/programs/research-scholar
執筆・監修:林 剛永(Kangyeong Lim / Taketo Hayashi)DDS, MS, DABOI/ID, DAO・平和歯科医院(愛知県西尾市) | 著者プロフィールを見る
筆者自身も米国のレジデントプログラムで学んだ経験があります。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の出願可否・資格取得・ビザ取得を保証するものではありません。プログラムの受入条件・費用・制度は改定されることがあります。最新かつ正式な要件は、ADEA(PASS/CAAPID)・ADA・各プログラム・U.S. Department of State/USCIS 等の公式情報で必ずご確認ください。
情報確認日:2026-07-28
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