「フッ素入りの歯みがき粉を使っているから大丈夫」——そう思っている方は多いと思います。でも、何ppmのものを、どれくらいの量、どう使うかまで意識している方は、じつはあまり多くありません。
そしてもうひとつ。日本の推奨は2023年1月に変わりました。とくに小さなお子さんについては、以前より濃いフッ素を使うことがすすめられるようになっています。ネットに残る古い情報のままだと、せっかくの予防効果を取りこぼしてしまいます。
フッ素(フッ化物)は、歯を溶けにくくし・初期のむし歯を修復し・菌の働きを弱めるという3つの方向からむし歯を防ぎます。効果は研究でくり返し確かめられた確かなもので、いま大事なのは「使うかどうか」ではなく「年齢に合った濃度で、適量を、すすぎすぎずに使う」ことです。
この記事のポイント
- 2023年1月、4つの学会がそろって推奨を改訂。0〜5歳は1000ppmF、6歳以上は1500ppmFが目安になりました。
- 使う量は年齢で違います——0〜2歳は米粒くらい、3〜5歳はグリーンピースくらい、6歳からは歯ブラシ全体。
- みがいた後に「よくすすぐ」のは、じつはもったいない使い方です。
目次
フッ素は、歯に何をしているの?
フッ素という言葉は聞き慣れていても、口の中で何が起きているのかはイメージしにくいものです。じつは、はたらきは大きく3つに分けられます。

① 歯を、酸に溶けにくい性質に変える
歯の表面をつくっているのはハイドロキシアパタイトという結晶です。ここにフッ素が取り込まれると、より酸に強いフルオロアパタイトに置き換わっていきます。同じ酸を浴びても溶け出しにくくなる——つまり歯そのものの守りを固くするはたらきです。
② 溶けはじめた歯を、もとに戻す(再石灰化)
むし歯は、いきなり穴があくわけではありません。食事のたびに歯の表面からミネラルが少し溶け出し(脱灰)、だ液の力で戻る(再石灰化)——この綱引きが一日じゅう続いています。フッ素はこの戻す側を強く後押しします。まだ穴になっていない初期のむし歯なら、削らずに引き返せることがあるのは、このためです。
③ むし歯菌が酸をつくる力を弱める
フッ素には、むし歯菌が糖から酸をつくる過程で働く酵素のはたらきを妨げる作用もあります。歯を強くしながら、攻撃する側の勢いも落とす——両側から効く、というのがフッ素の特徴です。
3つのはたらきはどれも、口の中にフッ素がとどまっている時間に左右されます。強い薬を年に1回使うより、適切な濃度のものを毎日使うほうが理にかなっているのです。この考え方が、次にお話しする「量」と「すすぎ方」につながります。
【2023年に変わりました】年齢別の正しい濃度と量
ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。2023年1月1日、日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会の4学会が合同で、フッ化物配合歯磨剤の推奨を改訂しました。研究の進展、日本で売られている歯みがき剤の濃度の変化、そして国際的な推奨の更新を受けての見直しです。
| 年齢 | 使う量 | フッ化物濃度 | すすぎ方 |
|---|---|---|---|
| 歯が生えてから2歳 | 米粒程度(1〜2mm) | 1000ppmF (日本の製品では900〜1000) |
ごく少量なので、ティッシュで軽く拭き取るのでもかまいません |
| 3〜5歳 | グリーンピース程度(5mm) | 1000ppmF | 軽く吐き出す。すすぐ場合も少量の水で1回だけ |
| 6歳〜大人・高齢者 | 歯ブラシ全体(1.5〜2cm) | 1500ppmF (日本の製品では1400〜1500) |
同上 |
改訂前は「5歳以下は500ppm」といった目安が広く使われており、いまもネット上や古い冊子にはその数字が残っています。当サイトのこの記事も以前は旧基準で書かれていました(今回、最新の推奨に更新しています)。
また、小さなお子さんの歯みがき剤は必ず手の届かないところに保管してください。量を守ることと保管の管理は、セットで考えるものです。
じつは「よくすすぐ」のはもったいない
みがき終わったあと、コップに何杯も水を汲んで念入りにすすいでいませんか。気持ちはよくわかるのですが——それではせっかくのフッ素を、そのまま流してしまっています。
前の章でお話ししたとおり、フッ素のはたらきは口の中にとどまっている時間に左右されます。4学会の推奨でも、すすぎは「少量の水で1回だけ」、あるいは軽く吐き出すだけとされています。歯みがき剤を変えなくても、すすぎ方を変えるだけで口に残るフッ素の量は変わります。今夜からできる、いちばん手軽な改善です。

とくに効かせたいのは就寝前。眠っている間はだ液が減り、口の中がむし歯にとって不利な状態になります。寝る前の1回を、すすぎすぎずに終える——これだけでも意味があります。
効果はどれくらい?——数字で見てみる
「効くらしい」ではなく、実際にどのくらい効くのか。世界中の臨床試験をまとめたコクラン・レビューという、いちばん信頼度の高い種類の研究があります。3つ並べてみます。
| 使い方 | まとめられた研究 | 効果 | 確かさ |
|---|---|---|---|
| フッ素入り歯みがき剤 (1000〜1250ppm) |
96研究・65,335人 | フッ素なしと比べてむし歯が有意に少ない SMD −0.28(95%CI −0.32〜−0.25) |
高い |
| 同(1450〜1500ppm) | 同上 | SMD −0.36(95%CI −0.43〜−0.29) 1000〜1250ppmとの直接比較でも −0.08(95%CI −0.14〜−0.01)とわずかに優位 |
中程度 |
| フッ化物洗口 (うがい) |
37研究・15,813人 | 永久歯のむし歯が27%減 (95%CI 23〜30%、I²=42%) |
中程度 |
| 歯科医院でのフッ素塗布 (バーニッシュ・年2〜4回) |
22研究・12,455人 | 永久歯43%減(95%CI 30〜57%) 乳歯37%減(95%CI 24〜51%) |
中程度 |
数字の読み方をひとつだけ。これは「フッ素を使えばむし歯にならない」という意味ではありません。甘いものをとる回数や、みがき残しの多さで、もともとのリスクは人それぞれ違います。フッ素はそのリスクを確実に押し下げてくれる道具——そう考えていただくのがいちばん実態に近いと思います。
フッ化物洗口(うがい)は、どう使うもの?
歯みがき剤とは別に、フッ素の液でぶくぶくうがいをする方法があります。保育園や学校で集団で行われることもあり、お子さんの持ち帰りプリントで見かけた方もいるかもしれません。
厚生労働省の研究班がまとめた「フッ化物洗口マニュアル(2022年版)」では、2つのやり方が示されています。
| 方法 | 濃度 | 量・時間 | 対象 |
|---|---|---|---|
| 毎日法 | 225 / 250 / 450ppmF | 5〜10mLで30秒〜1分 | 4〜6歳から開始し、中学校卒業まで続けることが望ましい |
| 週1回法 | 900ppmF | 10mLで1分間 | 小学校・中学校 |
同マニュアルは、「決められた時間洗口し、飲み込まずに吐き出すことができるか、確認してから開始」と明記しています。うまく吐き出せない年齢のうちは、無理に始めません。目安として4歳ごろからとされているのは、このためです。
なお、用法どおりに薄めてフッ化物として1%(10,000ppm)以下になったものは劇薬にはあたりませんが、原液・粉末の保管は大人が管理してください。
歯医者さんでのフッ素塗布は、何が違うの?
歯科医院で塗るフッ素は9000ppm前後と、市販の歯みがき剤の6倍ほどの濃さがあります。歯の表面にとどまるように工夫された製剤(バーニッシュ)を、年に2〜4回塗るのが標準的な使い方です。
先ほどの表のとおり、この方法は永久歯で43%(95%CI 30〜57%)、乳歯で37%(95%CI 24〜51%)のむし歯減少が報告されています。ただし——年数回の塗布は、毎日の歯みがきの代わりにはなりません。日々のフッ素で土台をつくり、そこに定期的な高濃度を上乗せする。この組み合わせがいちばん力を発揮します。
安全性のこと——「歯のフッ素症」をどう考えるか
フッ素の話をすると、必ず出てくるのが安全性です。ここは曖昧にせず、はっきりお伝えします。
気をつけるべきものとして歯のフッ素症(歯に白い斑点などが出ること)が知られています。これは永久歯がつくられている時期(おおよそ6歳ごろまで)に、フッ素を継続的に飲み込んだ場合に起こりうるもので、歯みがき剤を「適量」使って「吐き出す」限りは、心配のいらないレベルと各学会は判断しています。年齢ごとに使う量が細かく決められているのは、まさにこのためです。
コクラン・レビュー(Walsh ら 2019)も、小さなお子さんの濃度選びはむし歯予防の利益とフッ素症のリスクを見合わせて決めるべきとしたうえで、軟組織の障害や歯の着色といった有害事象は最小限だったと報告しています。4学会が2023年に濃度を引き上げたのも、この積み重ねを踏まえた判断です。
- 量を守る(米粒/グリーンピース/歯ブラシ全体)
- 吐き出す(すすぐなら少量の水で1回だけ)
- 手の届かない場所に保管する
安心して読んでほしいこと
ここまで数字を並べてきましたが、いちばんお伝えしたいのは「完璧にやらないと意味がない」わけではないということです。年齢に合った歯みがき剤を選んで、量を守って、最後にすすぎすぎない——それだけで、これまでより確実に前に進みます。お子さんの仕上げみがきが毎回うまくいかなくても大丈夫。寝る前の1回を大事にするだけでも、十分に価値があります。気になることがあれば、かかりつけの歯科医院で「うちの子には何ppmがいいですか」と聞いてみてください。それだけで具体的な答えが返ってきます。
関連記事:むし歯ができるしくみと治療/シーラント(奥歯の溝を埋める予防処置)
よくある質問(FAQ)
Q. 子どもに1000ppmの歯みがき粉を使って本当に大丈夫ですか?
A. はい。2023年1月の4学会合同の推奨では、歯が生えてから2歳まででも1000ppmF(日本の製品では900〜1000ppmF)が示されています。ポイントは濃度ではなく量で、この年齢では米粒程度(1〜2mm)とされています。ごく少量なので、うがいができなくてもティッシュで軽く拭き取る形でかまいません。以前の「5歳以下は500ppm」という目安は改訂前のものです。
Q. みがいたあと、どのくらいすすげばいいですか?
A. すすぎは少量の水で1回だけ、あるいは軽く吐き出すだけで十分です。フッ素の効果は口の中に残っている時間に左右されるため、何度もすすぐと効果を自分で流してしまうことになります。とくに就寝前は、すすぎすぎないことを意識してみてください。
Q. 歯みがき剤・洗口・歯科でのフッ素塗布、どれが一番効きますか?
A. 単独の効果量では歯科医院でのフッ素塗布(永久歯で43%減/95%CI 30〜57%)が大きく報告されていますが、これは「代わりに使うもの」ではなく「上乗せするもの」です。土台は毎日の歯みがき剤で、リスクが高い方はそこに洗口や定期的な塗布を重ねる、という順番で考えてください。
Q. フッ化物洗口は何歳から始められますか?
A. 厚生労働省研究班のマニュアル(2022年版)では4〜6歳からとされています。ただし年齢そのものより大事な条件があり、同マニュアルは「決められた時間洗口し、飲み込まずに吐き出すことができるか、確認してから開始」と明記しています。上手に吐き出せないうちは、無理に始める必要はありません。
参考にした主な文献
- 日本口腔衛生学会・日本小児歯科学会・日本歯科保存学会・日本老年歯科医学会「フッ化物配合歯磨剤の推奨される利用方法」2023年1月1日. 日本小児歯科学会サイト
- Walsh T, Worthington HV, Glenny A-M, Marinho VCC, Jeroncic A. Fluoride toothpastes of different concentrations for preventing dental caries. Cochrane Database of Systematic Reviews 2019;(3):CD007868. doi:10.1002/14651858.CD007868.pub3
- Marinho VCC, Chong LY, Worthington HV, Walsh T. Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews 2016;(7):CD002284. doi:10.1002/14651858.CD002284.pub2
- Marinho VCC, Worthington HV, Walsh T, Clarkson JE. Fluoride varnishes for preventing dental caries in children and adolescents. Cochrane Database of Systematic Reviews 2013;(7):CD002279. doi:10.1002/14651858.CD002279.pub2
- 厚生労働省研究班「フッ化物洗口マニュアル(2022年版)」. PDF
※本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は歯科医院にご相談ください。
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